女の子は同月17日に店舗を訪れ、「はまアイス(バニラ)」を注文。
従業員がミス…会社側の責任は?
回転寿司は手頃な価格で楽しめることから、多くの人にとって身近な存在だ。それだけに事件のインパクトは大きく、衛生管理体制に不信感を抱いた人も少なくないだろう。はま寿司は、事件発生の経緯について次のように説明している。
「本事案は、発生日前日である8月16日(土)の閉店後、キッチン内の清掃を行っていた従業員がアイス保管用冷凍庫の上に洗剤等を噴霧するための用具を置いてしまい、この用具から漏れ出た洗剤が冷凍庫内に流れ込み、アイス容器に付着したことが原因です」
一般的に、従業員の業務上のミス(不法行為)によって第三者に損害を与えた場合、その従業員を雇用している会社にも、被害者に対する賠償責任が生じる(使用者責任/民法715条1項本文)。
ただし、この責任は、「使用者が被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」は免責される(民法715条1項但書)。
はま寿司の件に限定すれば、当該従業員がアイス保管用冷凍庫の上に洗剤等を噴霧するための用具を置いてしまった経緯が不明であるため、個別に使用者責任が発生するかを結論付けるのは難しい。
しかし、民法に詳しい杉山大介弁護士は、使用者責任について「被害者が適切に救済を受けられるようにするため、原則として企業側に責任が生じるようになっている」ことから、実際に企業が使用者責任を問われるケースは多いと指摘する。
飲食店に請求できる慰謝料は「期待するほどの金額にはならない」?
もし飲食店側のオペレーションミスで自身や家族が体調不良に陥ったとすれば、誰しも怒りがこみ上げてくるだろう。女の子の父親も、地元テレビ局「khb東日本放送」の取材に「自分の生活圏内の中にそんな出来事が起こるんだということがまず許せない。やはり親としては憤りを隠せないというか」とコメントしている。仮に会社の使用者責任が認められた場合、会社が被害者に支払わなければならない損害額はどのくらいになるのか。杉山弁護士は、あくまで民法上の不法行為責任(709条以下)についての一般的な考え方であると前置きした上で、次のように説明する。
「民法では、実際に失われたものを基準に損害額を算定します。お子さんの健康に対する親としての不安や怒りといった感情は理解できますが、それら自体は金銭的な評価の対象になりません。
したがって、後遺症が残るような重大な被害がない限り、賠償されるのは通院費など、比較的少額なものにとどまることが多いです。
なお、精神的苦痛に対する慰謝料(民法710条)は、期待するほどの金額にはならないことが多いのが現実です」(同前)
はま寿司は「異物混入事故」連発
会社に使用者責任が認められた場合も、不法行為をした従業員個人の責任がなくなるわけではない。被害者は、会社と従業員のそれぞれに対して損害賠償責任を追及でき、その場合は各自が連帯して責任を負うことになるからだ(民法719条参照)。もっとも、加害者である従業員に賠償する資力がない場合、被害者は会社の使用者責任に基づき、会社だけに請求するのが一般的だ。そのため、実質的に会社が全額を負担するケースも多い。
しかし、会社が被害者へ賠償金を支払った場合、「求償権」に基づき、従業員にその一部を請求する権利を得る(民法715条3項)。つまり、本来は従業員も責任を負うべきところ会社が立て替えたのだから、その分を返還してもらおうという権利だ。
ただし従業員の不法行為が故意的なものでなく、賠償額の規模も少額にとどまるようなケースにおいては、「会社側が求償権を行使することは考えにくい」と杉山弁護士は話す。
はま寿司では、4月に天ぷらへ「吸水シート」が混入、7月に茶わん蒸しへ「甘だれ小袋のゴミ」が混入、そして今回の「洗剤付着」と、異物混入事故が連発している。
食の安全は、私たち消費者が安心して外食を楽しむための何よりも重要な基盤であり、信頼回復に向けた同社の今後の対応が注目される。