アマゾン配達員は「労働者」か「個人事業主」か? プラットフォーム業界の“働き方”を左右する訴訟の行方
アマゾンの荷物配達員らが「業務委託契約の解除は違法な解雇にあたる」として労働者としての地位確認を請負会社に求める訴訟、および超過労働分の残業代の支払いを求める訴訟の弁論準備手続(※)が9月4日、横浜地方裁判所で開かれた。
※裁判所が、争点および証拠の整理を行うため必要があると認めた場合に、口頭弁論外で行われる手続き(民事訴訟法168条~174条)
スマホアプリを介して仕事を受ける「プラットフォーム・ワーカー」は、業務委託を受けたフリーランスなのか、それとも使用者の指揮命令下で働く労働者なのか――その労働者性をめぐる問題は、AIの普及に伴いますます深刻化している。

そんな中、今回の弁論準備手続において、裁判所がアマゾン配達員の労働者性を認める、暫定的な心証を示したことが注目される。もしこの心証が本訴訟の結果に反映されれば、従来「業務委託契約」の名目で労働法制のらち外に置かれてきた人々の法的地位ないしは労働環境の向上に、大きな影響を与える可能性がある。

契約解除(解雇)の取り消しや未払い賃金を請求

本訴訟の被告は、アマゾンの日本法人「アマゾンジャパン合同会社」の下請けをしていた「株式会社若葉ネットワーク」(神奈川県横浜市)。なお、同社は2024年4月に「株式会社アイメスト」に商号変更し、吸収分割によりアマゾンのデリバリープロバイダ事業を「株式会社Gopal」に承継した。
解雇訴訟(地位確認訴訟)の原告は、若葉ネットワークと業務委託契約を締結し、配送倉庫の三春センター(神奈川県横須賀市)を拠点に商品配送業務にあたっていた荷物配達員2名。横須賀市内の倉庫を拠点にアマゾンの商品を配達していたが、2023年4月、配達先とのトラブルなどを理由に契約解除を通知された。
男性らは加入している労働組合を通じて会社側に契約解除の撤回を申し入れたが、会社側は「業務委託契約は自由に解除できる」などと主張し申し入れに応じなかったため、2023年12月、提訴に至った。
残業代請求訴訟の原告は同じく三春センターで商品配送業務にあたっている、荷物配達員16名。アマゾンの配達管理のAIシステム導入に伴い荷量が多くなり残業が増えたにもかかわらず報酬は一定のままであったことから、過重業務に伴う割増賃金(残業代)の支払いを求めて2024年5月に提訴した。なお、こちらの訴訟の被告には若葉ネットワークの下請け会社(二次下請)も含まれている。
別々の訴訟であるが担当する裁判所(※)は同じであり、今回は両方の訴訟に関する弁論準備手続が行われた。
※当該事件について審理・判決を行う裁判官の合議体、または裁判官(1人制の場合)の意味

裁判所もアマゾン配達員は「労働者」と認めるか

2023年9月、横須賀労働基準監督署は、本訴訟の原告の一人でもあるアマゾン配達員が業務中に負傷した事故について、個人事業主であるため本来は労災の対象外であるところ、実際には会社の指揮命令の下で働いていた「労働者」に該当すると判断し、労災を認定した。
今年4月、本訴訟を担当する裁判所の裁判官が交代となったため、原告側は以降の期日を通じて新しい裁判官の反応に不安を抱いていた。しかし、今回の弁論準備手続のなかで裁判所は「(配達員は労働者であると認めた)労基署の判断を尊重する」と、暫定的な心証を開示したという。

これを受け、弁論準備手続後に開かれた記者会見では、原告らや代理人弁護士らが口々に安堵(あんど)を示した。
残業代請求訴訟の原告の一人であるAさんは、2021年の業務中に自損事故を起こして会社側と言い争いがあったことをきっかけに自ら調べたところ、偽装請負や二重派遣の問題を知り「自分たちにも当てはまるのではないか」と気付いたという。
「自分たちは業務委託契約を結んでいたが、実際には労働者ではなかったのか。会社側は自分たちを社員のように酷使してきて、いいように利益を出してきた。すごく腹が立ち、これは許せないと思って、(組合結成や訴訟などの)行動を起こした。
このような戦いには長い時間がかかり、家族や弁護士によるバックアップも必要だ。また、無理だと思って仲間を集めはじめたら、他の配達員たちもみんな怒っていることが判明した。
今日の結果、『やってよかったな』と思った。今後への光明が見えてきた、という感想だ」(Aさん)
解雇訴訟の原告であるBさんも「宅配ドライバー(荷物配達員)が労働者として認められることは、大きな一歩」と語る。また、ある弁護士は「裁判所の心証開示は暫定的なものだとはいえ、労働者性が認められるということで、鳥肌が立った」とコメントする。

問題視されてきた「プラットフォーム・ワーカー」の労働者性

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原告代理人の菅俊治弁護士(9月4日/弁護士JPニュース編集部撮影)

近年、ウーバーイーツやクラウドワークスにタイミーなど、スマホアプリを介して仕事を受ける「プラットフォーム・ワーカー」が急増するにつれ、その労働者性も問題視されるようになってきた。
プラットフォーム・ワーカーは形式上は業務委託契約を結び個人事業主やフリーランスとされているものの、実態としてはアマゾンの荷物配達員のように指揮命令や制約の下で働いている事例が多く、「雇用」との境界が曖昧な場合が多い。

さらにAIやアルゴリズムによる業務指示の普及により、指揮命令関係がますます不透明になっている問題も指摘されている。
この状況を受け、欧州を主として海外ではプラットフォーム・ワーカーの労働者性を認める動きが盛んになってきた。国際労働機関(ILO)も、プラットフォーム労働に関する国際基準の設定を進めているという。
したがって、本訴訟の判決でアマゾン配達員の労働者性が労基署のみならず裁判所にも認められるとすれば、その影響は非常に大きく、他の多くの労働問題にも波及すると予想される。
原告代理人の菅俊治弁護士は「多くの人々が一番つらい時期を過ごしたコロナ禍、配達員の方々は私たちの日常生活を支えてくれた」と語りつつ、「最終的な目標はアマゾンやデリバリープロバイダの会社ときちんと団体交渉を行い、労働契約を結ぶこと。この訴訟は、まだ何合目かに過ぎない」と展望を示した。


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