高速道路で“歩行者”の死亡事故 酒酔い、認知症、外国人…増加する「誤侵入」はねたドライバーの責任は?
「Sちゃんが車にひかれて病院に搬送され、人工呼吸器をつけて集中治療室に入っている」
都内在住60代の会社経営Aさんが知人から連絡を受けたのは事故2日後、8月下旬のことだった。Sさんとは仕事関係の付き合いだったが、時々食事に行くなど、親しい間柄だったという。

知人から状況を聞くと、Sさんは深夜、神奈川県下の自動車専用道路に徒歩で入り込み、トラックと衝突。意識はなく、トラックとの衝突で顔面を強打して損傷するなど、治療の施しようのない状態だったという。
Sさんは意識が戻らないまま結局、2週間後に死亡。そのため、原因は不明だが、夜に飲み歩くこともあったといい、酔っぱらって帰宅しようとして「誤って自動車専用道路に入り込んだ可能性もあるかもしれない」とAさんは無念そうに語った。
危険極まりない高速道路などの自動車専用道路になぜ、歩行者が入り込んでしまうのか。首都高速道路株式会社(以下、首都高)によれば、自転車や歩行者の「立ち入り」は年間約400件程度(立ち入り者の保護件数)発生するという。

首都高への「歩行者」立ち入りは増加傾向

2024年度に首都高で発生した立ち入りは508件。そのうち歩行者は160件だった。
歩行者の立ち入りは2020年から2022年はコロナ禍もあってか例年より少なめだったが、2023年以降はコロナ前と同水準で増加傾向となっている。
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「首都高ドライバーズサイト」より

2024年度の歩行者の首都高立ち入りのうち、最も多かったのは外国人で50件、誤進入32件、その他30件、認知症25件、酒酔い23件(上図参照)だった。
首都高によれば、「高齢者の方が、一般道路と間違えて誤進入」「お酒をかなり飲まれた方が、高速道路の認識ができず誤進入」「自宅へ帰る際、料金所へ道を聞くために進入」「過日に未払いであった料金を料金所へ支払いに進入」などのケースが考えられるという。
専用道路において、自動車は信号のない状況で最低でも50キロ以上で走行している。どんな事情であれ、道路上に歩行者がいれば、かわすだけでも相当な困難を伴う。
そもそも、人が高速道路に侵入した場合、罰則はないのか…。
「歩行者が高速道路に立ち入ることは、高速自動車国道法17条1項で禁止されています。また、自動車専用道路に立ち入ることは、道路法48条の11第1項で禁止されています。ただし、歩行者に対する罰則規定はありません」
こう解説するのは、交通事故に詳しい鈴木淳志弁護士だ。

もしも誤って高速道路に侵入してしまったら…

罰則規定がないといっても、もしも人が高速道路に侵入すれば、道路交通に混乱をきたすことは不可避といえる。歩行者が誤って侵入してしまった場合、どのような対応をすべきなのか。
鈴木弁護士が指南する。
「歩行者が高速道路を通行することは、上述のように法律で禁止されていますので、速やかに高速道路外に出るべきです。
侵入してすぐに気づいた場合には、速やかに引き返して避難すべきです。避難のためにやむを得ず高速道路を歩く場合には、道路の端、路肩を歩き、事故発生の可能性を下げるための対応をするべきです。
相当な距離を歩いてから気づいた場合には、出入り口まで歩くことがかえって危険な場合もありますので、高速道路に設置された非常電話や、安全な場所で道路緊急ダイヤル『#9910』に連絡し、誤って侵入した旨を伝え、指示に従うべきです」
すでに冷静な判断力を失っている可能性も高そうだが、事態を回避するために、上述のようにやれることはやり、最善を尽くす。そうして、道路に混乱を起こさないよう努めることが肝要といえる。

高速道路で「侵入者」と衝突した場合のドライバーの法的責任は?

前述Sさんのケースはニュースでも報じられ、その際には、「トラックのドライバーも気の毒だ」といった声も挙がっていた。万一、高速道路に侵入した人と衝突してしまった場合、ドライバー側の法的責任はどのように問われるのか。

「民事上は、歩行者に対し、治療費や慰謝料などの損害を賠償する義務が生じる可能性があります。もっとも、高速道路は歩行者がいることは法律上予定されておらず、歩行者には重大な過失があると判断され、過失相殺による大幅な減額がなされます。車側に著しい前方不注視などの過失がなければ、80%程度減額されることが見込まれます。
刑事上の責任としては、過失運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法5条)に問われる可能性があります。しかし、歩行者の過失が極めて大きいため、検察官の判断としては、不起訴処分になる可能性が高いと考えられます。起訴される場合でも、車側に交通前科や悪質な違反がない場合には、執行猶予付きの判決となる可能性が高いと考えられます。
行政上は、免許の停止や取消の処分の可能性があります。ただし、被害者側にも過失があったことを考慮した違反点数、処分内容になると考えられます」(鈴木弁護士)
不測の事態といえるだけに、こうしたケースでは一方的にドライバー側に不利になることはないようだ。
とはいえ、昨今は、人に限らず、自転車や原付も含め、高速道路への「想定外の侵入」が増加傾向にある。首都高によれば、自転車、原付では約6割(2024年度)がナビアプリを使用しての立ち入りで、特にナビアプリの自動車モード等での使用が目立つという。

高速道路走行中に想定外の“モノ”に遭遇したら…

地方や山間部の高速道路では、シカやクマなどの侵入による、衝突事故も増えている。万一、高速道路走行中に想定外の“モノ”に遭遇した場合、ドライバーはどのように対処するのがいいのだろうか。

「落下物、歩行者、逆走車、事故車など、走行中に前方で異常があった場合には、回避行動を取って自身の車が事故に巻き込まれないようにしたあと、後続車の事故を防ぐために、安全な状況で110番や道路緊急ダイヤル『#9910』に電話し、通報するのが望ましいです。
その際に注意すべきは、高速道路での駐停車が禁止されているということ(道路交通法75条の8)。通報のために走行車線上で停止すると、後方を走行する車からの追突事故を招きかねないので、十分な幅員がある路肩または路側帯、非常駐車帯などで停止してから架電するか、同乗者に架電してもらうのが良いです。
もし回避できずに衝突して事故を起こしてしまった場合には、車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等、必要な措置を講じ、警察に報告してください(道路交通法72条)。車両については路肩等に移動させ、道路上の物体についても交通の妨げにならないように安全に注意しながら路肩等に移動させるべきです」(鈴木弁護士)


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