マルタの日刊新聞である「Times of Malta」などの報道によれば、今年6月にマルタ島北東部のスリーマで野良猫の不審死が相次いだ。
少なくとも5匹の猫が死んでいるのが見つかり、被害を受けた中には尾や舌を切断された個体もいたという。付近の防犯カメラ映像には、犯人が餌を使って猫をおびき寄せたり、猫を地面に叩きつけたりする映像が記録されている。
警察による複数回のパトロールの結果、現場近くに住んでいた日本人男性(31)が逮捕された。逮捕の際、男性が抵抗したため、警察官2名が軽傷を負っている。また、男性の所持品からは、現場で使用したとみられるラテックス手袋や猫用の餌が見つかったという。
すでに裁判が開かれ、男性は法廷で罪を認めている。判決は今月15日に言い渡される予定だ。
「動物虐待」日本では厳罰化
現在、男性はマルタの法律のもとで裁かれているが、日本で同様の犯罪が行われた場合、どの程度の量刑になることが予想されるのか。動物に関する法律相談に多く対応する青木敦子弁護士は、「動物への虐待等を禁じる動物愛護法は直近では2019年に改正され、2020年6月1日に大部分が施行されました。そのため、愛護動物殺傷罪をはじめとする虐待に関する罪については、以前より罰則が強化されています」として、現在の法定刑を説明する。
「愛護動物(※犬や猫、牛、馬など)をみだりに殺傷した者に対しては、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金が科せられます(法44条1項)。改正前は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金でした。
また、愛護動物を虐待・遺棄した者に対しては、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科せられます(法44条2項、3項)。
※懲役刑は「拘禁刑」に一本化され、2025年6月1日に廃止された
また、今回のケースでは、男性が逮捕時に警察官に軽傷を負わせたことも明らかになっている。
青木弁護士は「けがの程度など詳しいことはわかりませんが、日本であれば公務執行妨害罪および傷害罪に該当する可能性があり、この2つの罪は観念的競合 (社会的見解上1つの行為が2個以上の罪名に触れた場合は重い方の刑のみで処断。刑法54条1項)として処理されますが、動物愛護法との関係では、さらに併合罪(※)として審理される可能性があります。
その場合、当然、動物愛護法違反の罪だけで処罰される場合と比べ、量刑は重くなります」
※確定裁判を経ていない2個以上の罪を併合罪とする。併合罪のうちの2つ以上の罪が有期懲役または禁錮に処せられるときは、そのもっとも重い刑の長期に2分の1を加えたものを長期として計算する(刑法45条・同47条)
「ひどいケースでも執行猶予」運用に課題
もっとも、実際の裁判で法定刑の上限が言い渡されることは「まずない」と青木弁護士は指摘する。「猫6匹の首を絞めたり、脚を切断したりして殺し、愛媛県松山市の公園や路上に捨てた元大学生に対し、松山地裁が懲役2年6月、執行猶予4年を言い渡しました(2025年3月28日)。
心情としては、こんなにひどいケースでも執行猶予が付くのかと思いますが、改正前の法定刑上限である懲役2年を超えています。執行猶予も、刑法で定められた最長期間である5年に迫る長さで(刑法25条1項柱書) 、現在の日本ではこれでもかなり『重い』判決と言える状況です」(青木弁護士)
併合罪が付された事件でも、さらに軽い判決が言い渡されることもある。
空気銃(※)で猫6匹を殺傷した男性が、動物愛護法違反と銃刀法違反の罪で審理されていた裁判で、千葉地裁は懲役1年6月、執行猶予3年の判決を言い渡した(2021年11月8日)。
※男性は狩猟や標的射撃をする目的で銃所持の許可は受けていた
こうした判決を見る限り、改正によって日本の動物虐待に対する罰則は強化されたものの、今なお課題が残されていると言えるだろう。
マルタでは最高刑求めオンライン署名も
一方、マルタの「ANIMAL WELFARE ACT(動物福祉法)」を見ると、違反者には2000ユーロ以上6万5000ユーロ以下の罰金、3年以下の懲役またはその両方が科されると定められている。なお、同法違反での有罪判決が二度目以降(再犯)の場合は、6000ユーロ以上8万0000ユーロ以下の罰金、3年以下の懲役またはその両方が科される。
日本と比べ、罰金額には幅があり、最高額の6万5000ユーロは日本円で1000万円超ときわめて高額だ。
「猫の島」とも呼ばれ愛猫家(あいびょうか)が多いマルタ。猫の保護と譲渡を行うNGO「Animal Guardians Malta」は、被告人に対し最大限の刑罰を求めるオンライン署名を立ち上げ、世界各国から9391人分の署名が集まっている(9月10日現在)。
署名には「日本人としてとても恥ずかしい」「Justice for the innocent cats(罪なき猫たちに正義を)」といったコメントも寄せられており、判決への注目が集まっている。