
ジェンハラとは、性別に基づく不当な扱いや発言によって、職場などで不快感や排除感を与えるいじめ・嫌がらせのこと。
実際の発言例とともに、ジェンハラの“加害者”にならないために知っておきたいポイントを紹介する。
※この記事は公認心理師の宮本剛志氏による著作『「ハラスメント」の解剖図鑑』(誠文堂新光社、2024年)より一部抜粋・再構成しています。
「女性活躍=女性に下駄をはかせる」と思い込んで発言したケース
新任のAさん(開発部・男性・30代前半・課長代理)は、入社3年目のBさん(女性・20代前半)に対して、ITリテラシーが高いことを理由に、「女性なのに珍しいね。普通、女性はこういうの苦手でしょ?」と伝えました。この発言によって、Bさんは自分のスキルや貢献が性別によって評価されていると感じ、居心地の悪さを感じ始めました。
そんな中、BさんはITリテラシーの高さだけではなく、コミュニケーション能力も高いことから、プロジェクトの小チームのリーダーに抜擢されました。
しかし、AさんはBさんに、「世の中、女性活躍とうるさいから女性をリーダーにする傾向があるよね。うちの会社も例外じゃないよね。抜擢された女性が無理して体調を崩すかもしれないので、かわいそうだ」と同情しました。
Bさんは女性だから抜擢されたのかと自信を失い、意見を言うことをためらうようになりました。
Aさんの言葉は、ジェンダーハラスメントといえるでしょう。
また、性別によるいじめ・嫌がらせであるジェンダーハラスメントは、セクハラにも該当することがあります。
Bさんはだんだんと元気がなくなり、周囲が声をかけたところ、Aさんの発言が原因であると発覚しました。
Aさんは「女性活躍=女性に下駄をはかせている」と決めつけていたのです。しかし、Bさんには実力があり、会社はBさんに今後成長してもらいたいと思って配属を決めていたのでした。
近年、女性活躍推進法が施行されるなど、女性が企業で活躍することが推奨されています。その背景には、女性が出産後にもとの職場に戻った場合、育児で残業が難しい、勤怠が不安定になる(遅刻、欠席、早退)、出世のレールから無理に外される、能力以下の仕事の担当にさせられる、といった「マミートラック」があると思います。
そのようなことを防ぐためにも、どのような取り組みをしているのか企業に情報公開が求められています。
「女性だから出世した」といわれる人がいますが、逆に「今まで男性だから出世できたのではないか」という疑問も出てきます。女性だから、男性だからではなく、多様な働き方を受容し、公平な判断をすることが求められています。
イラスト:髙栁浩太郎(宮本剛志『「ハラスメント」の解剖図鑑』誠文堂新光社より)
程度の差こそあれ、誰にでもジェンダーバイアスはある
次の自己紹介を読んでみてください。「私はトラックの運転手なので、昼夜逆転の生活になることもあります。遠くまで運転する際には、数日間自宅に帰れないこともあります。ただ、まとめて休めることもあります。
うちは共働きなので家事は協力してやっていますが、私が長距離運転をして自宅に帰ったときにご飯ができていないとイライラします。正直、食事だけは毎回作ってもらいたいです」
さて、「私」はどんな人だと思いますか?
年齢・性別・容姿・口調など、想像してみてください。
40~50代の男性で、筋骨隆々の色黒の人を想像しましたか?
実際は、30代半ばの比較的細身の女性です。驚いた方もいると思います。
私たちは誰でも、程度の差はあれジェンダーバイアスがあります。それは自身の家庭環境、学生時代の交流関係、成功体験・失敗体験などに起因しています。
そのため、幼少期から今まで、性別についてどのような価値観を持ってきた可能性があるのか振り返ると、ジェンダーバイアスに気づけることがあります。結果として、ジェンハラ加害者にならないで済むでしょう。
価値観自体を否定するつもりはありません。しかし、その価値観で部下と接してしまうと、無自覚にジェンハラをする可能性があります。気をつけておきましょう。
ジェンハラ防止のための価値観チェックシート
自分にはどのようなジェンダーに関する価値観・思い込み(バイアス)があるのでしょうか?以下のチェックリストで思い当たることに〇をつけましょう。
1、若い男性社員が酒に弱いと仕事上上手くいかないことが多いので、飲めるようにアドバイスしている。
2、主張が強い女性社員に対し、男性社員が敬遠するのはやむを得ないと思う。
3、営業は男性向き、総務は女性向きなど、性別による適性があると思う。
4、下ネタでからかわれている男性社員がいたので、適当に受け流しておいたほうがいいとアドバイスした。
5、女性社員に対しては、髪型や服装についていつも褒めるようにしている。
6、女性社員には、誤解を受けぬように男性社員と飲みに行くことをやめるよう注意している。
7、男性社員がやっているハイレベルな業務は、優秀な女性社員であれば代行できると思う。
8、飲み会では、女性社員は積極的に上司にお酌をしたほうが場が和むと思う。