同日午後、労働組合の「ジェットスタークルーアソシエーション」(JCA)の木本薫子執行委員長らと弁護団が都内で会見。木本氏は「原告が求めていた要求がほぼ裁判所で認められた」と判決を評価した。
コロナ禍で「一方的な」賃金制度変更を強行
同社では2021年1月から、新型コロナウイルス禍を機に、CAとの雇用契約を時給制から月額固定給制に一斉変更する旨を社員に説明。同年3月30日までに同意するよう求めた。原告JCA側によると、相当数のCAはこの条件変更に同意していなかったが、同社は同年4月以降、原告らの乗務時間給与や地上業務時間給与の減額を強行。その結果、賃金減少となったCAが多数発生した。
その際、同社がCAらから減額についての同意を取得する過程で氏名リスト化などの圧力があったという。
JCAは2022年1月、この給与減額が労働条件の一方的不利益変更にあたるとして、損害賠償を求める訴訟を提起していた。
原告側の「全面勝訴」続く
同社とJCAを巡っては、本訴訟と並行して組合役員に対する懲戒処分の無効を争う訴訟と、休憩・仮眠時間未提供をめぐる裁判が行われた。ジェットスター側はまず、労組側が賃金訴訟を提訴したわずか数か月後に、JCAの木本執行委員長と片桐麻記副執行委員長を懲戒処分。
木本委員長が未払い賃金に関するメールを送信したことを「誤った情報の拡散」、片桐副委員長が賃金控除について上司に問い合わせたことを「ハラスメント」とみなし、それぞれ出勤停止とした。
2024年12月2日、東京地裁はこれらの処分を「懲戒権の濫用にあたる」として無効と判断。委員長のメールは組合活動の一環、副委員長の問い合わせも正当なものと認定し、出勤停止期間中の賃金と委員長に対する慰謝料50万円の支払いを命じた。
また、休憩・仮眠時間をめぐる裁判では、法律で義務付けられた45分~1時間の休憩が与えられていないことの違法性が問われた。
今年4月22日、東京地裁はJCA側の主張を全面的に認め、「休憩が確保されていない勤務実態は労働基準法に違反する」と認定。原告35名それぞれに11万円(合計385万円)の賠償金支払いと、今後適切な休憩を与えない勤務の差し止めを命じている。
裁判所「会社の立証不十分」
今回の判決について弁護団の竹村和也弁護士は「労働契約法10条に即した判断が示されたもの」と評価した。労働契約法では「労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」(同9条)と定めている。
ただし、他方で、以下の5要素を総合的に考慮して、合理性がある場合は、労働者個人の同意がなくとも不利益変更が可能としている(同10条)。
①労働者の受ける不利益の程度
②労働条件の変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況
⑤その他の就業規則の変更に係る事情
判決理由において、裁判所は、「①不利益の程度」について、減額率が最大で約11%、最小で約3%、平均約6.1%の不利益があると認定し、「相応の不利益を受けている」と判断。
「②労働条件の変更の必要性」についても、会社側は十分に立証しておらず、またコロナ回復後も賃金額は減額されたままであることから、高度な必要性は認められないとした。
加えて「③相当性」や「④労働組合との交渉」についても不十分であると指摘。労働条件の変更には合理性がなく、変更は無効と結論付けた。
「われわれの意思を毅然と示せた」
この日の会見に出席した内田さおり執行委員は「通常の業務をこなしながらの裁判は身体的・精神的に厳しかった。繁忙期には90時間の乗務時間を超えることもあり、それだけでも身体を壊しそうになる中で、労組執行部としての作業は極めて大変だった」と振り返った。木本委員長も「内容に同意したくないのに同意せざるを得なかった人も多くいた。労働者自身も『会社の圧力が怖いから従うしかない』という意識を変えていく必要がある」と述べ、次のように続けた。
「社会では当たり前の労働者の権利や、労働者による要求がジェットスター・ジャパン内では裁判や行政命令を駆使しないと認められないのが現状です。
ですが、CAは航空の安全を担う者であり、そのわれわれの職場環境や雇用の安全が担保されない実態には危機感を覚えます。
特に、航空業界の中では、CAは人員が多くコストカットの“標的”にされやすい職種でもあります。
しかし、社内に公正さをもたらし、安全を担保するうえでも、今回われわれの意思を毅然(きぜん)と示せた点についてはプロフェッショナルの保安要員として誇らしいです」
JCAは8月22日に第2陣の賃金訴訟(原告22名)を提起済み。休憩裁判の控訴審は10月30日に第1回期日が行われる予定で、本件訴訟の今後の方針について木本委員長は「組合員や弁護士との相談を経て決定していきたい」と述べた。
なお、弁護士JPニュース編集部では、ジェットスター・ジャパン側にも取材を申し込んだところ、担当者が応じ以下のようにコメントした。
「判決内容を精査して、適切に対応してまいります。
客室乗務員を含め、社員の安全・安心、心身の健康を含めたウェルビーイングの向上は、当社にとって重要事項の一つです。今後もよりよい職場環境の実現に注力します」