全国労働組合総連合(全労連)や全国労働組合連絡協議会(全労協)など複数の労働組合から構成される「雇用共同アクション」が9月12日、都内で会見。
厚生労働省が進める労働基準関係法制の見直し議論を受け、意見書を提出したと発表した。
意見書の提出は8月28日付。
意見書の内容は、労働者代表と使用者の合意により各社の実態に合わせ労働時間に関する法規制の適用を除外することを認める「デロゲーション」(※)の容易化・拡大を強く危惧し、労働時間削減等を訴えるもので、雇用共同アクションの土井直樹事務局長は次のようにコメントした。
「現在行われている労働政策審議会労働条件分科会での議論は、長時間労働を容認するなど、規制を弱める内容になってしまっています。
われわれの意見を積極的に取り入れ、労働基準法の規制を強化する方向で議論を進めてほしいです」
※ 現行の労働基準法でも、時間外労働を許容する36協定の締結など、使用者側と労働者側が合意をした場合に、労働基準を下回るデロゲーションを認める仕組みがある。

「デロゲーションにより最低労働基準の遵守が形骸化」

分科会では現在、今年1月に公表された「労働基準関係法制研究会報告書」(労基研報告書)を基に、労働基準法の大幅な見直し議論が進められている。
同報告書では労使合意により法定基準を下回る労働条件設定を可能にする「法定基準の調整・代替(デロゲーション)」の拡大が重要だと明記している。
この記述に対し、雇用共同アクション側は「まさに、労働基準法の『解体』と言うほかなく、デロゲーションは到底認められない」と厳しく批判。
「法定基準の調整・代替は、労働基準法の重要な機能かつ、存在意義でもある最低労働基準の遵守を形骸化するものであり、最低労働条件を法律で定めなければならない旨定める憲法27条2項(※1)の趣旨に反し、労働基準法1条1項(※2)、同条2項(※3)とも整合しない」と主張した。
※1:賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める
※2:労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない
※3:この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない

「労働時間の上限引き下げは急務」

また、意見書では労働時間の規制についても「現行の時間外・休日労働の上限は、危険な『過労死ライン』そのものであり、過労死・過労自死が年を追って増加している大きな原因と考えられる」と指摘している。
「現状、時間外労働の上限規制を引き下げる必要はないのではないか」といった意見を示した労基研報告書の内容に対し、「労働時間の上限引き下げは急務である」と反対した。
土井事務局長は会見で「法定労働時間は1日7時間、週35時間以内とするべき」と訴えたうえで、裁量労働制についても「過労死・過労自死の温床」として制度自体の廃止を要求した。

「使用者側と対等に話ができるのは労働組合だけ」

他方で、分科会ではこれまでに、使用者側から労働組合がない事業場等を想定し、労使コミュニケーションを促進するために「新たな制度など、コミュニケーションの選択肢を検討すべき」との意見が上がっている。
しかし、意見書ではこうした動きについて「『法定基準の代替・調整』(デロゲーション)のための『条件整備』と位置づけているのであれば、あまりにも危険な考え方」とくぎをさす。
「そもそも分科会の言う"労使コミュニケーション"は、労働組合の団体交渉ではなく、話し合いや意見聴取も選択肢に入ってきます。
ですが、団体交渉やストライキができて、使用者側と対等に話ができるのは労働組合だけです。

報告書が『労使コミュニケーションを図る主体の中核たる労働組合の活性化や組織化の取組が望まれる』と指摘していることは重要であり、少数労組を含め、組合の結成促進・活性化を図るための措置や施策を打ち出すべきです。
そのためにも、使用者側への罰則を設けるなど規制を強化し『労働組合に入った人が、解雇されてしまう』といった事例を生まないようにする対策が必要です」(土井事務局長)

「労働時間の引き下げに向け、世論高めていきたい」

加えて意見書や会見では「勤務間インターバル制度」について、罰則を設けたうえで義務化することや使用者の「つなげない義務」の法制化などを訴える声があがった。
なお、分科会は8月19日に「各側委員からの主な意見の整理(案)」を発表。当初は年内の議論のとりまとめが見込まれていた。
だが、土井事務局長によると、労働者側と使用者側との間に意見の隔たりがあり、年を越す可能性もあるという。
「労働基準法の改正がどの程度の内容になるのか、時期はいつになるのかなど、不透明な部分もあります。ですが、われわれとしては、引き続き意見書や厚労省前でのアピールなど宣伝活動を通じて、労働時間の引き下げに向けた世論を高めていきたいです」(土井事務局長)


編集部おすすめ