人気お笑いコンビ「アインシュタイン」の稲田直樹氏のインスタグラムに不正ログインしたとして32歳の男が逮捕されたことが今月5日、報道された。
稲田氏は昨年、女性に性的な画像を要求するダイレクトメッセージ(DM)を送っていたとして、YouTuberらに告発されていた。
しかし、実際にこれらのDMを送付したのは稲田氏ではなく、逮捕された男だったと見られている。
“真犯人”の逮捕によって稲田氏の「シロ」が証明された形だが、当時、一方的に稲田氏を疑ったり、断定的に批判するようなコメントをした人たちが法的責任を問われることはないのだろうか。

「稲田さんのアカウントから性的な画像要求された」告発

事の発端は昨年7月28日、暴露系YouTuberコレコレ氏が生配信で、情報提供をもとに「稲田さんのアカウントから女性に性的な画像を要求するDMが送られてきた」と告発したことだった。
告発はすぐにSNS上で取り上げられ騒ぎとなったが、稲田氏は翌29日に「全く身に覚えがない」と自らの関与を完全否定。
その後も「不正ログインされた形跡がありました。知らない間に沢山の方をブロックしていました」と投稿し、警察に相談していることを報告した。
このように稲田氏本人は当初から不正ログインによる「乗っ取り」被害を訴えていたが、稲田氏が性的な画像を要求したに違いないと「黒判定」する人たちも少なからずいた。
週刊誌の取材に対し「稲田さんの言い分(不正ログイン)は、あまり現実的ではありません」と回答するネットセキュリティ対策会社の創業者もいたほどだ。
しかし今回、先述の通り、稲田氏のアカウントを乗っ取りDMを送った「真犯人」と思しき男が逮捕された。報道等によれば、男は取調べに対し黙秘しているようだが、警察庁が男の通信端末を調べた結果、稲田氏ら約70人分のアカウントにログインした形跡が確認されているという。

拡散者「法的責任を問われる可能性はある」

他者の社会的評価を低下させる行為は「名誉毀損」にあたり、刑事罰(刑法230条)のほか、民事上の不法行為責任が問われ損害賠償請求の対象となることもある(民法709条)。
本件で一方的に稲田氏を疑い、YouTubeやXといったSNS上で断定的にコメントをした人たちが、稲田氏の社会的評価を低下させたとして、こうした法的責任を問われる可能性はあるのだろうか。
インターネット上の名誉毀損事件に多く対応する杉山大介弁護士は次のように見解を示す。
「相手の社会的評価を下げる発信をして、しかもそれが今回のように『真実ではなかった』場合は、真実だと誤信する相当な理由があったかというのが、法的責任の有無を判断する基準になります(※)。

今回の場合は、稲田氏本人のアカウントからDMが発信されていることは間違いなく、それを信じてしまったという場合、『真実だと誤信する相当な理由があった』と認められ、法的責任なしと認められる可能性もあると思われます。
一方で、ビュー狙いで拡散者が誇張した部分にまで便乗していた場合などは、DMのやり取りから確認できる範囲を超えて事実のように発信してしまっているため、違法となる可能性があるでしょう」
※民事:最高裁昭和41年(1966年)6月23日判決参照、刑事:最高裁昭和44年(1969年)6月25日判決・最高裁平成22年(2010年)3月15日判決参照)

コレコレ氏は活動自粛を表明、稲田氏も反省

杉山弁護士は、現状の法的評価として「真実だと誤信する相当な理由があれば法的責任なし」となる可能性について述べつつも、「その結論は必ずしも妥当とは言えない」と指摘する。
「人はもっと情報を拡散することに畏怖し、萎縮すべきです。
情報を見て、受け取るを超えて、さらに他人に見せる・拡散する行為には、本来責任が伴うべきなんです。特に自分の中で確信が持てないものについては、他人が言っているのを見るにとどめ、さらに他人に見せて回ろうとすべきではない。
ディープフェイクやさまざまな虚構がとびかう現代においては、それぐらい、厳しめに考えても良いんじゃないかと私は思っています」(杉山弁護士)
なお、男性が逮捕されたことを受けて、YouTuberコレコレ氏は、自身のXアカウントで、警察から連絡を受けたことを明かし、さらにSNS活動を自粛すると発表した。
一方の稲田氏は「今回の件はセキュリティ管理を十分にできていなかったことも原因のひとつだと感じています」と反省し、「これからは同じことを繰り返さないよう、よりしっかりと対策して活動してまいります」と自身のXに投稿した。


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