「はぁ…」「チェッ」機嫌のコントロールができない管理職たち “フキハラ”が職場にもたらす悪影響
朝から上司の機嫌をうかがう――そんな経験がある人も多いのではないだろうか。
上司の不機嫌な態度が周囲を萎縮させる「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」は、部下たちを疲弊させ、職場環境を悪化させる。

一方で、明るさを押しつける「エンハラ(エンジョイハラスメント)」も問題だ。部下の不調のサインを見逃し、かえって追い詰めてしまう危険をはらむ。
実際のケースをもとに「フキハラ」と「エンハラ」が職場に及ぼす影響、そして上司が抑えておくべき部下との接し方を紹介する。
※この記事は公認心理師の宮本剛志氏による著作『「ハラスメント」の解剖図鑑』(誠文堂新光社、2024年)より一部抜粋・再構成しています。

朝から部下に気を遣わせていませんか?

課長(40代前半・既婚・小学6年生の子どもが1人)は感情の起伏が激しい人です。特に月曜日は最悪です。
顔を真っ赤にして、眉間にしわを寄せ、周囲に挨拶もしないで出社します。席に座ると「はぁ~~~」と大きなため息をつき「チェ」と舌打ち……。楽しく話していた部下たちは、さっと潮が引くように席に戻ります。
どうやら課長は家庭で子どもの受験について揉めているようです。日曜日はその話し合いをしていたのか、朝からしょっちゅう席を外しては、「だからさぁ、日曜日に話しただろ! 私は仕事が忙しいんだから、受験ぐらいお前がちゃんと面倒見ろ」と、スマホで家族と話すイライラした声が社内に聞こえます。
こんな調子なので、部下たちは午前中からメールで課長の機嫌について情報交換していました。「今日の課長は機嫌いいかな?」「最悪だと思うよ」と。

フキハラは部下全員が被害者になる

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イラスト:髙栁浩太郎(宮本剛志『「ハラスメント」の解剖図鑑』誠文堂新光社より)

毎朝、課長が不機嫌なことは以前から有名でした。しかし、異動してきたばかりのAさんは知りませんでした。そしてAさんは無謀にも、月曜日の朝から課長に声をかけてしまいました……。
Aさんが「課長、会議の進行ですが」と言いかけると、課長は「あのさぁ~、そんなもん担当が考えればいいだろ。はぁ~」と遮り、Aさんはそれ以上相談できませんでした。
その後も、同じような行為が繰り返され、Aさんは課長の顔を見るだけで、心臓がドキドキするようになりました。
課長の振る舞いは、職場環境を悪くするフキハラに該当するかもしれません。不機嫌な態度を示し、部下や後輩を威圧し、不快にさせているからです。
そしてこのケースでは、Aさんだけではなく、部下全員が被害者になる可能性があります。管理職はまず自分の機嫌の管理からはじめましょう。

「元気出せ」と強要する能天気なエンハラ加害者

「はぁ…」「チェッ」機嫌のコントロールができない管理職たち “フキハラ”が職場にもたらす悪影響

イラスト:髙栁浩太郎(宮本剛志『「ハラスメント」の解剖図鑑』誠文堂新光社より)

会社で不機嫌にならず明るく過ごすことは、誰もが過ごしやすい職場環境を作る上で大切です。しかしその一方で、楽しむこと・前向きになること・ノリが良いことをしつこく強要し、疲れている・落ち込んでいる状態などを許さない「エンジョイハラスメント」も存在します。
チームリーダーのAさんは、前向きでポジティブな人として有名でした。ある日Aさんは、最近顔色が悪いとチーム内で心配されているBさんに、朝一番で次のように声をかけたそうです。

「おはよう! 朝から楽しんでいるか? 元気出せよ。朝からそんな暗い顔をしてどうする! 幸せが逃げちゃうぞ。ネガティブに物事を考えるといいことがないからな」
Bさんはその間、黙ったまま頷いていました。そして数日後、うつ病で休職してしまったといいます。

エンハラにならず部下の本音を聞き出す3つのポイント

Aさんのような能天気なエンハラは、部下のメンタルヘルス不調(うつ病など)の兆候を見逃してしまうことがあります。
「顔色が悪い」「遅刻・欠勤が多くなる」「口数が減る」「イライラすることが増える」「ミスが目立つ」などの変化は、メンタルヘルス不調のサインです。
変化に気づいたら、エンジョイすることを強要せず、次の3つのポイントを参考に部下に声をかけましょう。
1、いつもの状態を伝える
例)「Bさんは朝いつも、笑顔で出勤してくるよね」
2、最近の様子を伝える
例)「でも最近、顔色が悪いよね」
3、心配している気持ちを伝える
例)「だから心配なんだ」
このような声かけをすると、部下が悩みを話してくれることがあります。
悩みを把握し、リーダーが早めに対応すれば部下の元気を取り戻すことができます。エンジョイを強要するよりも近道ですね。


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