外国人犯罪、「ファクトはない」のに“対策強化”を求める声… データが示す「実際の検挙件数」は?
10月1日、川口市議会(埼玉県)は市内に住む在留資格のない外国人について、一時的に収容を解く「仮放免」をやめて収容を強化することや、新たな収容施設の建設などを国に求める意見書を賛成多数で採択した。明示はされていないが、市内に約2000人が在住しているクルド人を想定しているとみられる。

市内でクルド人による犯罪が増えていることを示すデータはないが、最近のSNS上では根拠もなく「クルド人による犯罪だ」と決め付けた投稿が拡散される事態が目立っている。また、「日本国内では外国人による犯罪が増えており、治安対策のために外国人犯罪の取り締まり強化が必要だ」との主張は市井の人から芸能人や政治家まで、多くの人が論じるようになっている。
それらの主張に根拠はあるのか。また、数字に依らない「体感治安」に基づいて政策が決められてもいいのか。本記事では、刑事政策・犯罪学を専門とする法学者の丸山泰弘教授(立正大学法学部)が、外国人による犯罪の検挙件数や増減の傾向を、データに基づいて分析する。(本文:丸山泰弘)

ファクトに基づかない「体感治安」

2025年7月の参議院選挙で話題のひとつとなったのが「外国人」との向き合い方であった。特に注目を集めた話題の中には「外国人犯罪」に関するものも多く見られ、また社会現象として「体感治安の悪化」という言葉も多く使われている。
「体感」なので、実際のところはどうなのかといった原因を探ることは重要なことだが、その原因を判明させ本当の意味でクリアにすることはかなり困難である。
例えば「体感温度」は実際の気温や室温とは異なり、太陽からの直接的な熱だけでなく身の回りの物から放出される熱にも影響を受ける。さらに、人それぞれが「暑い」と感じたり「涼しい」と感じたりするものでもあるため、個人差も生まれやすい。同様の問題が「体感治安」にも存在する。
一般的に「安全・安心」と言われる政策や施策も基本的には「安全」という言葉が先であって「安心」は安全の次に目指されることが多い。こう言われる理由としては「安全」はいわゆる「リスク」なのでマネジメントできるものであり、限りなく0%に近づけることができるが、「安心」については個人の気持ちによるものも大きいので、リスクマネジメントをした後に「それでも私は心配である」と言われてしまえば管理しきることは困難であるからだ。

そのため、特に政策や行政などでは、まず取り組むべきは「安全」であって、それに伴って「安心」を得られることにつながるとされる。
しかし、昨今の情勢を見ると「体感治安や犯罪不安に関しては個人差だから仕方がないよね」という感想で済ますことができない問題が生じてきているのも確かであろう。
例えば、記憶に新しいものとしては、埼玉県の大野元裕知事が日本とトルコとの相互査証(ビザ)免除協定の一時停止を要望したとの報道があった。
朝日新聞の記事(「埼玉知事『難民申請に課題』『治安悪化のファクトない』ビザ問題で」2025年7月30日付)によると「『埼玉には難民申請を繰り返しているトルコ国籍の方が多く滞在しており、それに対する不安が(県)に寄せられていることが大きな理由だ』と説明した。」とする一方で、「大野知事は『治安が不安定化しているファクトはあまりないが、治安に対して不安感を抱いている方が多い』と強調した」としている。
このようにファクトが不明瞭であるどころか、実際には無いものと認識しているにもかかわらず不安が背景にあるというのが現状となっている。

外国人による犯罪、実際の数・割合は?

では、実際に、ここ最近の外国人の犯罪がどのように変化をしているのかを法務総合研究所が毎年発行している犯罪白書を元に確認してみよう。
まず、外国人犯罪の数を確認する前に日本人を含め日本で起きている犯罪について認知件数と検挙人員を表しているこちらの図を確認してもらいたい。
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刑法犯 認知件数・検挙人員・検挙率の推移(犯罪白書より転載)

認知件数の数値が高まっている2002年(平成14年)をピークとし急激に減少しているのがわかる(なお、認知件数とは捜査機関などが「犯罪があった」と認知する件数であって実際の犯罪の数値を示しているものではない)。
2022~2023年(令和4年~令和5年)で再び若干の増加傾向に見えるが、その直前の2020年や2021年がCovid-19パンデミックにより外出を制限する行動規制があったことが要因となって減少したために、その後の日常生活が戻るにつれて通常の数値と戻ったとする見解が多い。
このように直近の数字は少し異なる動きは見せるものの、中長期的に見れば一貫して日本の犯罪は減少しているのがわかる。
次に、外国人による犯罪傾向を確認してみよう。以下の図は同じく犯罪白書に掲載されている外国人による刑法犯「検挙件数・検挙人員の推移」である。
外国人犯罪、「ファクトはない」のに“対策強化”を求める声… データが示す「実際の検挙件数」は?

外国人による刑法犯 検挙件数・検挙人員の推移(犯罪白書より転載)

先の図では、2003年前後は日本の犯罪全体が増加したように見えていた。
同様に今回の図でも、2003年前後の数値を見ると外国人による犯罪が増えているように映るが、実際には外国人を含め日本全体の検挙人員が増えた時期ということである。
外国人による一般刑法犯の検挙人員のピークは2005年で、この年の外国人を含む一般刑法犯検挙人員は38万6955人だが、同年の外国人による刑法犯の検挙人員は1万4786人(来日外国人が8505人、その他外国人が6281人)であり、日本全体の中では3.8%程度であった。
なお、図にも示されているように、いわゆる「外国人の犯罪」と言っても、来日外国人による犯罪と日本に滞在中の外国人(犯罪白書には「その他の外国人」と明記)による犯罪とに分けることができる。
2023年の数字を見ると、来日外国人の検挙人員は5735人、その他の外国人の検挙人員は3991人であり、外国人の一般刑法犯の合計は9726人ということが確認できる。
一方で、先ほどの図で見た日本全体での検挙人員は約18万3269人であることから、全体の中で外国人の一般刑法犯の犯罪は約5%であり、日本で起きている一般刑法犯による犯罪の圧倒的大多数は日本人によって起こされていることがわかる。

数値の背景にある外国人固有の事情

ただし、これらは「一般刑法犯」の数値であって道路交通法や覚醒剤取締法などの「特別刑法犯」となる数字も見る必要がある。なぜならば、特に外国人であるからこそ対象となりうる「犯罪」の中に入管法の違反があるからである。
2023年の入管法違反の検挙人員は合計で3906人であった。さらに検挙件数で見ると全体では5782件でその内訳は不法残留が3864件、旅券等不携帯・提示拒否(在留カード不携帯・提示拒否および特定登録者カード不携帯・提示拒否を含む)が1083件、偽造在留カード所持等(偽造在留カード行使および提供・収受を含む)が387件であった。
入管法違反については、難民認定の申請を認められないままの立場に置かれている人や、入管施設への収容を一時的に解かれているだけの「仮放免」の人など、本人の責のみに帰することができない困難が背景にあることも考えなくてはならない。
入管法違反という特殊なものを除くと、日本人であろうが外国人であろうが、一般刑法犯で最も多い犯罪類型は窃盗罪である。そこでさらに犯罪白書で、2023年の来日外国人による窃盗および傷害・暴行の検挙件数と検挙人員を国籍別に細かく見てみよう。

窃盗はベトナムが3130件(検挙人員は836人)で最も多く、次いで中国が1039件(同571人)、ブラジルが229件(同122人)、そしてフィリピンが203件(同148人)であった。
入管法違反以外の犯罪については、主に犯罪の原因となるものは日本人が犯罪を行う理由と類似する点も多い。例えば、生活苦からくる窃盗や人間関係のこじれからくる暴行・傷害などである。
特にベトナム国籍の人の場合、日本に来るために借金をすることも珍しくない。また、技能実習生として来日したにもかかわらず、安価な労働力として扱われる事例も後を絶たない。このような状況をふまえれば、ベトナム国籍の人が窃盗に至る可能性も容易に想像できる。
もとより、窃盗が許されるわけではない。
しかし、日本側がベトナム人に労働力として期待をかけつつ、同時に彼らの生活苦の原因を作り出している構造についても見直す必要があろう。
このように、外国人による犯罪は日本全体の犯罪の数%程度であり、これが数年前よりも増えたり減ったりしたところで、日本の治安を悪くするほどの力を持っていない。
しかし、「治安が悪化した」と感じる要因として外国人による犯罪を不安視する問題が、一般市民だけでなく、いわゆる犯罪対策の「専門家」と呼ばれる人たちの間にも生じていた時期があった。「刑事政策の暗黒時代」と呼ばれる、1990年代である。
そもそも外国人犯罪に限らず犯罪全体で、実際の犯罪件数と結び付かない「体感治安」の悪化がなぜ生じるのか。
そして、それによってもたらされる政策はどのような問題を抱えているのか。これらについては、項を改めて詳しく検討する。
■丸山 泰弘
立正大学法学部教授。博士(法学)。専門は刑事政策・犯罪学。日本犯罪社会学会理事、日本司法福祉学会理事。2017年にロンドン大学バークベック校・犯罪政策研究所客員研究員、2018年から2020年にカリフォルニア大学バークレー校・法と社会研究センター客員研究員。著書に『刑事司法における薬物依存治療プログラムの意義――「回復」をめぐる権利と義務』(日本評論社)などがある。


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