
オートロックを「一時解錠」して玄関前に置き配
新システムは、ヤマト運輸の「EAZY」に対応する「bitlock GATE」端末と、Amazonの「Amazon Key」端末をオートロック付き分譲マンションに後付け設置。登録済みの配達員が専用端末を通じてオートロックを一時的に解錠し、各住戸の玄関前まで荷物を届ける仕組みだ。システムの運用イメージ
不在時の再配達を減らし、物流業界の人手不足を補うことが目的とされているが、「配達員が簡単にオートロックを開けられる」という点に懸念の声も上がっている。
ネット上では「セキュリティ面に不安」の声も
ネットでは「オートロックの意味がなくなるのでは」「便利だが住民がこうむるリスクが大きい」「宅配ボックスを増やす方が安全」などの意見が相次いだ。大京アステージ・穴吹コミュニティによると、こうした懸念に対しては「誤解も多い」とのこと。実際には次のような安全設計がなされているという。
1. 専用端末の利用は登録済み配達員のみ
2. 解錠は宅配時に限定される一時的なもの
3. 導入を決定するのは管理会社ではなく、各マンションの管理組合
一部では外国人配達員への不安の声もあるが、配達業者の審査を経た登録制であり、解錠履歴の特定も可能。悪用の余地はほとんどないと説明する。
また、賃貸物件などではオーナー判断で導入される場合もあるが、既存分譲マンションでは管理組合の合意なしに導入されることはないという。
さらに、配送業者の専用端末による解錠も、荷物がシステムに照合されて初めて作動し、一時的な解錠に限られる。解錠者もすぐに特定できるため、悪用は事実上困難といえる。
管理会社「再配達削減に貢献しつつ、慎重に進めたい」
大京アステージ・穴吹コミュニティは弁護士JPニュース編集部の取材に対し、「再配達の削減と住民の利便性向上を両立させる取り組み。セキュリティへの不安を抱く方々にも丁寧に説明し、慎重に導入を進めたい」とコメントした。一方で、「オートロック」はマンションにおける防犯の第一関門。たとえ一時的であっても「解錠できる権限」が外部に付与されることに不安を抱く住民も少なくないだろう。
トラブル発生時の責任の所在は?
もしも悪用やシステム不具合によってトラブルが発生した場合、誰がどのように責任を負うのか。この点について、民事・刑事責任、不動産に詳しい荒木謙人弁護士に聞いた。配達員が犯罪を行った場合の責任(刑事責任)はどうなる?
荒木弁護士:配達員が住民の承諾なくマンション内に侵入した場合には、「住居侵入罪(刑法130条)」が成立します。また、住戸に侵入して金品を奪えば「窃盗罪(刑法235条)」、暴力を加えれば「傷害罪(刑法204条)」などの罪にも問われます。刑事上の責任は当然ながら行為者個人に帰属することになります。
宅配業者の民事責任(使用者責任)は?
荒木弁護士:被害者が宅配業者に損害賠償を求める場合、民法715条の使用者責任が問題となります。これは、従業員が「事業の執行について」他人に損害を与えたとき、使用者も賠償責任を負うというものです。管理体制の不備や監督義務の怠りがあれば、企業側にも賠償責任が及ぶ余地があります。
ハッキングなどで第三者が侵入した場合、管理組合・管理会社の責任は?
荒木弁護士:導入判断をした管理組合や管理会社には、住民の安全確保に関する一定の注意義務があります。そのため、技術的な脆弱性をよく吟味せずに導入した結果、登録外の第三者が侵入した場合、管理組合や管理会社の安全配慮義務違反が問われる可能性があります。
端末提供企業が責任(製造物責任法など)を問われる可能性はある?
荒木弁護士:端末自体の欠陥によって不正解錠や侵入が起きた場合、製造物責任法(PL法)または債務不履行責任の対象となり得ます。ただし、欠陥によって通常生ずべき損害、または予見可能な特別損害にあたることが必要であるため、かかる責任が認められるのには、一定程度のハードルがあります。
配達員の過失による「共連れ(テールゲーティング)」のケースではどうなる?
荒木弁護士:登録配達員が一時解錠した際、後ろから第三者が一緒に侵入する「共連れ」を許してしまった場合、配達員の過失が問題となります。刑事責任を問われる可能性は低いですが、注意義務違反があった場合には、民事上の損害賠償を求められる可能性はあります。
導入にあたり、「安心」と説明していた場合の責任の所在は?
荒木弁護士:管理会社が「セキュリティは安心」である旨説明して導入したにもかかわらず、システムを原因とする侵入被害が発生した場合、その説明の適切さが問われます。事前説明が事実と異なっていた場合や、リスクを過小評価する表現だった場合、説明義務違反となる可能性があります。
導入は「無償」だが、責任の範囲はどうなる?
荒木弁護士:本システムは、管理組合の初期費用負担なしで導入される点も特徴ですが、管理会社の注意義務が免除されるわけではありません。管理会社は住民の安全や財産を守る責任を負っていますので、導入にあたっては、慎重に検討する必要があります。
導入は慎重に進めていくとのこと。今後の課題は?
荒木弁護士:このシステムは、物流の効率化という社会的要請に応える仕組みである一方、居住者の安全とのバランスをどう取るかが最大の課題です。管理組合としては、導入前にリスクの内容を十分に説明すること、責任の所在を明確にしておくことが重要です。