「聞いていた給与と全然違う・・・」
転職が決まったあとに愕然(がくぜん)としたAさんが会社を訴えた結果、慰謝料100万円を勝ち取った。
人事部などの方には、「求人のときにウソの情報を伝えてはいけない」「話を盛ってはいけない」という2点を強くお伝えしておきたい。

逆に、転職を考えている方は、求人情報でウソをつかれたら慰謝料請求できる可能性があるということだ。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)

就職情報誌に書かれていたこと

転職を考えていたAさんが就職情報誌を見ていたところ、ある会社が社員を募集しているのを見つけた。その会社は、以下の記載をしていた。
〈第2新卒としてやり直してみたい方。(中略)もちろんハンデはなし。たとえば●年卒の方なら、●年に当社に入社した社員の現時点での給与と同等の額をお約束いたします〉
とても魅力的でスマートなオファーだったが、フタをあけてみると「ウソ」だったのである。

実際の給与は…

会社は、就職情報誌に記載していたほどの給与を払うつもりはなかった。
社内運用では、中途採用者の給与について、新卒同年次定期採用者の現実の格付けのうち「下限の格付け」によって定めることとしていたからだ。
ところが、会社はその事実を隠したのである。就職情報誌でウソをつき、Aさんに「同じ世代の同期と同じ給与がもらえる」と期待を抱かせたのだ。

入社に至るまでの経緯

Aさんは就職情報誌の情報を信じて、1次面接、2次面接を通過し、内定の通知をもらった。
就職情報誌のウソの記載に引き続き、面接でも会社は真実を告げることなく、Aさんは実際の給与について知ることがないまま入社した。

聞いていた給与と全然違う

入社から約1年後、想定していた給与よりも実際の給与が低いことに違和感を覚えたAさん。
そこで、労働組合から資料を得るなどして調査した結果、驚愕(きょうがく)した。自分の給与が、新卒同年次定期採用者の現実の格付けのうち「下限の格付け」だったのだ。
これについて、Aさんが人事部に抗議したところ、上司は「採用時には下限にすることが決まっている。しかし努力すれば上がっていく」旨の説明をした。
その説明を聞いたAさんは激怒して、労働基準監督署に駆け込んだ。
「労働基準監督署さん!求人広告の内容と実際の雇用条件とが違います!」
Aさんが申し入れた結果、労働基準監督署は会社に対して是正措置の行政指導を行った。

会社からの嫌がらせ

ここからは、あるあるだが、会社から「テメェ、労基にチクってんじゃねーよ」的な嫌がらせが始まった。
なんと、Aさんは、肉体労働を中心とする部署への異動を命じられたのである。印刷物の製本や運搬など、肉体的にかなりキツい部署へ異動することになった。
Aさんは、会社の一連の対応にたまりかねて提訴した。

裁判所の判断

裁判所は「会社はAさんに対して慰謝料100万円を払え」との判決を出した。
理由は、
  • 求人雑誌でウソをついた
  • Aさんはもらえる給与について騙(だま)された
  • 下限の事実を知って精神的衝撃を受けた
  • 労働基準法15条違反(労働条件の明示違反)
  • 信義誠実の原則(民法1条2項)に反する
  • 異動命令には合理性がない!
というものだ。

最後に

今回の裁判は、求人広告で虚偽の情報を記載した会社に対して、裁判所が厳しい判断を出した事例である。
会社側の、「少しくらい盛っても大丈夫」「入社後に丸め込めばいい」などという発想は通用しない。本件でも、結果は慰謝料100万円の支払いという形で跳ね返った。
企業は、求人広告や面接で、条件を正確に示さなければならない。ウソをつくなどもってのほかで、求職者を誤解させる表現も許されない。
口頭で給与などの条件が提示されることもあるので、転職を考えている方は録音しておくことをオススメする。「なんか耳障りいいこと言ってるけど、ホントかなぁ」と感じることがあれば、迷わず録音だ。
録音があれば、言った言わないの水掛け論にならず、強力な証拠となるので、裁判で有利に戦える。ご参考になれば幸いだ。


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