日勤では署に出勤後、道場で武道訓練のあと、出勤前の拳銃装着、署長訓示などを経て、交番へ出勤。
夜勤は午後2時に署へ出勤後、交番では終電まで110番対応しつつ、適宜休憩を入れる。だが、勤続約20年の警察OB・安沼保夫氏によれば、署内には「寝ないで朝まで職質するのが美徳」という文化があったという。
※この記事は、安沼保夫氏著『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)より一部抜粋・構成しています。
警察官の日勤の日常
朝6時に起床。寮から徒歩2分で調布署に出勤。
朝7時に到着すると、まず署の道場を掃除。これが新人の役割だ。
7時30分から、柔道と剣道に分かれて8時まで訓練。訓練が終わると、シャワーを浴び、8時30分の出勤に合わせて拳銃金庫前に集合して拳銃を装着する。(これを通称「チャカ出し」という)。
朝9時、署長訓受。署によっては全員で署歌を斉唱するところもあるらしいが、調布署では署員の持ち回りで3分間スピーチ。
「みなさんも他人事ではなく、わが事と捉えて、くれぐれも気をつけましょう」とか、「退職金がパーになります」とか、「家族まで路頭に迷わせることになってしまいます」とか、しつこく注意される。
署長としては自分の署から不祥事を出すことだけは避けたいのだ。
なお、対策は不祥事が出るたびに打ち出される。
警察官の飲酒運転が発覚するとルールが策定される
警察官の飲酒運転が発覚した際には、「飲酒は3時間以内」「はしご酒禁止」「非番の打ち上げ禁止」といったルールが制定された。それでも効果がなかったのか、あるとき、「飲み会後にちゃんと帰宅した旨を上司に報告」という規則が発表された。
こうなるともはや小学生の遠足状態である。
9時30分ごろ、いっせいに交番へ出発。
朝10時、交番に到着し、夜勤明け勤務員(3係)との引き継ぎ。無線機やカギの本数の確認、扱った事案の報告を受ける。
引き継ぎが終わると、勤務表の作成などのデスクワーク。午前中は、110番がなければ、「巡回連絡」(パトロールと兼ねて各家庭を回る)や、交通取り締まりなどがメインになる。
午後、昼休憩をはさみ、午前で十分な検挙数や交通違反取り締まり件数などの取れ高があれば、午後は切符などの処理をしながらまったり過ごしたり、警ら(パトロール)に出る。110番があれば随時対応。なければ、ほかの交番へ偵察。
午後4時ごろに夜勤者がやってきて交替。特別な事案がなければ、午後5時前には調布署に拳銃を納めて、定時で帰宅の途につく。
夜勤は4日に1度のペースで回ってくる
4日に1度回ってくる夜勤の場合は、署への出勤は午後2時。体力的には日勤のほうが楽だが、夜勤だと日曜日の早出当番以外は昼まで寝ていられるので気楽な面もある。
また、夜勤には、柔道・剣道の訓練がないのが嬉しい。さらに長いばかりでたいてい実のない署長訓受もない。
午後3時、チャカ出しして指示を受け、3時30分ごろに交番へ向け出発。
午後4時、到着して日勤(2係)と交替したら、布田交番では夕飯の出前注文が恒例だ。
交番の近所に、巡査部長お気に入りのそば屋があり、巡査部長は必ずそこの親子丼を指定して、新人の私が電話注文を入れる。
「出前、何にしますか?」と聞くと、巡査部長は「いつもの」と言うので、巡査長と私は内心飽き飽きしながらも、そば屋のメニューから選ぶ。
終電までは110番対応しつつ、長い夜に備え休憩。終電が終わったあと、巡査部長と職質に出かける。
寝ないで職質するのが美徳という文化
署内には「寝ないで朝まで職質するのが美徳」という文化があった。夜勤では本来、夜10時から朝6時までのあいだに2時間×2回の休憩があるのだが、午前3時までは「寝てはいけない」というのが暗黙のオキテだ。
オキテに従って、巡査部長と私は午前3時ごろまで粘ったものの、残念ながらこの日は検挙なし。近所のコンビニで夜食兼朝飯のサンドイッチなどの軽食を買って交番に戻る。
上司(巡査部長だったり、巡査長だったりする)が先に寝ているあいだに勤務表をまとめたり、交番の掃除やゴミの片付けといった雑用。その間に110番が入れば、上司を起こして対応。
明け方になってクルマが動き出すころになると、ときどき交通事故が起こる。軽い物損事故であれば、一人で臨場して処理するが、人身事故は少々厄介だ。
交通捜査係も臨場して実況見分を行なうため、寝ている上司を起こして一緒に臨場し、大がかりな交通整理を行なわなくてはならない。
午前11時、チャカを納めて、長い夜勤が終わる。
■安沼保夫(やすぬま・やすお)
1981年、神奈川県生まれ。明治大学卒業後、夢や情熱のないまま、なんとなく警視庁に入庁。調布警察署の交番勤務を皮切りに、機動隊、留置係、組織犯罪対策係の刑事などとして勤務。約20年に及ぶ警察官生活で実体験した、「警察小説」では描かれない実情と悲哀を、著書につづる。