今月9日、東京地裁が裁判の判決の中で、Twitter(現X)上の投稿を「著作物」と認定したことが大きな話題となった。
SNSでは「ツイートが著作物に?」と驚きの声が上がったが、弁護士の見方は異なり、この判決は“新しい判断”ではないという。

“ツイートも著作物” 東京地裁が認定

報道によれば、原告は2023年、アカウント画像と特定の俳優を応援するツイートをスクリーンショットされ、インターネット掲示板などに無断転載されたとして、著作権侵害を訴えた。
無断転載者に対し約200万円の損害賠償を求めた民事裁判で、東京地裁は、アカウント画像や投稿について「個性が表れたものといえ、思想や感情を創作的に表現したもの」と認め、著作物に当たると判断。無断転載者に約40万円の支払いを命じた。

衝撃、戸惑う声も…弁護士「新しい判断ではない」

この判決は、X上などで広く拡散され、速報を伝えた「47NEWS」の投稿は、16日現在で2.2万リポスト、4.3万いいね、約3147万表示を記録している。
Xユーザーからは、「これからは引用ポストもできないの?」「どんな基準で違法になるの?」と困惑した様子や、疑問の声も上がった。
こうした反応に対し、著作権に詳しい杉山大介弁護士は、「特に新しい司法判断があったわけではありません」と指摘する。
「思想や感情を創作表現している文芸は著作物であると、著作権法の条文に明記されていますから、Xの投稿に著作物性が認められるのは“当たり前”の話です」(杉山弁護士)
そのうえで、今回の判決について次のように説明する。
「スクリーンショットという形式が問題なのではなく、法が認める『引用』のような適切な利用方法ではなかったという趣旨の判決だと思います。なお、以前、スクショ行為そのものを違法とするかのような判決が出たこともありますが、そちらは高等裁判所でひっくりかえっています」

“引用ならOK” 許される範囲とは?

著作権法上、スクリーンショットであっても「引用」として適切であれば、他人の著作物を複製(侵害)できる。
では、引用として適切か否かはどう判断されるのか。杉山弁護士は次のように解説する。
「公表された著作物であること、引用の方法が公正な慣行に合致すること、報道・批評・研究など引用の目的上正当な範囲内であること――これらが引用として適切とされる要件です。
著作権という権利が認められているものを複製という形で侵害するわけですから、正当な論理付けがないと違法とされるリスクを負うのは確かです」
こうした著作権法の考え方を踏まえ、適切な「引用」かどうか議論を呼びそうなケースについて、杉山弁護士に聞いた。
①いわゆる「パクツイ」(他人の投稿のコピペ投稿)
「判決とは関係なく、もともと違法行為です。普段、著作権を行使する人がいないだけです」
②投稿を引用して紹介する「まとめ記事」や「こたつ記事」
「元の投稿主を明らかにしたうえで、自分でも何らかの論評を加えたり、新たな情報を付加するなどして、創作するために必要な程度で、その前提となる材料として提示しているのであれば『引用』に当てはまると考えられますが、当然、紹介の仕方などにもよります」
③批判や中傷の文脈でツイートのスクショを貼る行為
「『批判だから』『中傷だから』という理由で判定するものではありません。
むしろ、批判や批評は、そのために『引用』という“著作権の侵害”が認められていますから、批判・批評であるという理由だけで問題になることはないと思います。
中傷は、どちらかと言えば、名誉毀損として不法行為や刑事罰の対象になる可能性が高いでしょう。著作権法上も、あえて引用として保護する必要性が低く、原著作権者を優先すべき要素になることはあるかもしれません」
また、「おはよう」「寒い」など、思想や感情の表現としての個性があらわれていて保護すべき価値があるとまでは言えないような投稿は、文脈から“著作物でない”と判断される場合もあるという。その場合は、引用が不適切でも著作権侵害にはならないが、杉山弁護士は次のように補足する。
「結局は、個性や感情が表現されているかという話なので、特定の投稿の様式に価値が見いだされることはあるかもしれません」

“権利が行使できない”現実も…

今回の判決で困惑したSNSユーザーに向けて、杉山弁護士はこう呼びかける。
「前述したとおり、今回の判決で大きな変化があったわけではありません。
法というのは、存在していても使われなければ“無実化”しているものがあるということです。
SNS上で他人の権利を侵害し得る行為をする場合には、『今は問題になっていないから大丈夫』ではなく、ルールがどうであるかを考えましょう」
その上で、実務家としての現実も口にする。
「結局、権利侵害が認められた今回の判決でも損害賠償は40万円でした。赤字になってでも侵害した人を追及する強い意思がなければ、権利が行使できない状況であることは確かです。相変わらずわが国の司法は『権利があるのに行使できない』『法があるのに執行できない』というバグを抱えていると痛感します」


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