昨年12月に急逝した俳優の中山美穂さんの公式サイトが10月16日に更新され、「非公式グッズ」が販売されているとして、ファンに向け購入しないよう注意を呼び掛けた。
公式サイトによれば、中山さんの氏名・肖像のほか、過去に展開された公式グッズのデザイン等に類似した商品が、許諾なく製作・販売されている事例が確認されているという。

こうしたグッズについて「公式とは一切関係のない非公式品であり、肖像権や著作権等の権利を侵害する可能性がございます」と指摘した。

“推し活”と“推しの権利”侵害

近年、「推し活」は身近な文化となり、ファンが自ら手作りのグッズを制作する光景も珍しくなくなった。
このようなケースで特に問題となっているのは、著作権侵害である。
著作権者の許可なく、著作物を複製・改変・公衆送信するなどして利用する行為で、侵害が認められれば10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金、またはこれらが併科される(※個人の場合)。
自身もアニメや漫画が好きで推し活文化に理解のある三木悠希裕弁護士は、「個人でグッズを制作する場合でも、権利侵害を引き起こす可能性がある」と警告する。
「自作したグッズを自分だけで楽しんだり、親しい人に見せたりする分には『私的使用(※)』として問題はありません。ただ、外部の業者に依頼してグッズを作成する場合や他人に配布・販売する場合には、私的使用にはあたらず違法となります」
今回の中山さんのケースでは、公式サイトで指摘されている問題グッズのうち、〈過去に展開された公式グッズのデザイン等に類似した商品〉が著作権侵害に該当している可能性があるだろう。
※著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(私的使用)を目的とするときは、原則として、使用する者が複製することができる(著作権法30条)

肖像権・パブリシティ権に違反しても刑事罰はないが…

一方で、著名人の氏名や肖像を利用した商品については、直接的な刑事罰の対象となるわけではない。
というのも「肖像権」や、著名人の氏名(芸名)や肖像が持つ「顧客吸引力」を排他的に利用できる権利「パブリシティ権」は、法律で明文化された権利ではなく、これまでの判例の積み重ねにより認められてきたためだ。
もっとも、許諾を得ずに自由に使用してよいということではない。
「著名人の肖像や氏名を使用してグッズを作った場合、個人であっても、著名人および所属事務所等から、製造・販売の中止を求められたり(差し止め請求)、民法上の不法行為(※)に基づく損害賠償請求をされたりする可能性があります。
また、公式グッズと誤認させる形で販売し、顧客が公式グッズであると信じて購入した場合には、販売した側に刑法上の詐欺罪(刑法246条1項)が成立する可能性もあります。
さらに、生成AIを用いて、著名人の肖像を使用した写真を作成し、販売した場合には、不正競争防止法違反に該当する可能性があるので、こちらも注意が必要です」(三木弁護士)
※故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(民法709条)

過去にも訴訟に発展した「非公式グッズ」

実際に、著名人の肖像や氏名を無断で利用したグッズ販売をめぐっては、過去にも複数の訴訟が起きている。
たとえば、アイドルグループ「光GENJI」のメンバーAさんが、グッズに写真や氏名を無許可で使用され、グッズを販売していたB社に対し販売の差し止め請求を行った事件。販売禁止の仮処分が下ったが、B社は仮処分の取り消しを求めた。
これに対し、裁判所は「パブリシティ権の侵害にあたる」として、B社の請求を認めなかった。(東京地裁平成元(1989)年9月27日判決)
さらに、アイドルグループ「おニャン子クラブ」のメンバーら5人が、カレンダーに写真や氏名を無許可で使用されたとして、販売元のC社に対し販売の差し止めと廃棄および損害賠償を求めた事件もあった。
この事件で裁判所は、販売差し止めと廃棄を正当な請求と認め、C社に対しメンバーら1人につき10万円の損害賠償の支払いを命じた。(東京高裁平成3(1991)年9月26日判決)

亡くなった人の「肖像権」

なお、中山さんのようにすでに鬼籍に入った方は、保有していた著作権は遺族へと引き継がれる。一方で、「肖像権」や「パブリシティ権」は本人固有の権利であり、譲渡や相続の対象にはならない。
しかし、故人への「敬愛追慕の情」は、遺族の権利として法的保護の対象となり得る。
そのため、過去の裁判例では、死者のプライバシー権や肖像権が侵害された場合に「遺族の死者に対する敬愛追慕の情」という「法律上保護される利益」が侵害されたとして、不法行為の成立を認め、損害賠償を命じたものもある(東京地裁平成23(2011)年6月15日判決など)。
故人だから、“応援のため”だからなど、理由をつけて非公式グッズを製作・販売する人もいるかもしれない。
しかし、どんな理由があっても、無断でのグッズ製作・販売は、結果として“推し”本人や周囲の人の権利を侵害する“迷惑行為”となることを忘れてはならないだろう。


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