東京都杉並区で今月10日、通学中の男子高校生(17)が運転する自転車が、歩行中の高齢女性と接触する事故があった。女性は転倒し、搬送先の病院で死亡が確認された。

産経新聞の報道によると、女性は自転車のハンドルが当たった弾みで転倒したといい、男子生徒は「坂を上るために下を向いて漕いでいた」と話しているという。

自転車事故の刑事的責任

男子生徒は、事故で刑事的な責任を負う可能性があるのだろうか。
交通事故に詳しい外口孝久弁護士は、「今回の事故では、当事者が高校生であることから、少年法の適用を受けますが、自転車の事故で相手にケガをさせた場合、『過失傷害罪』に該当します」と説明する。
「少年法では、裁判ではなく“観護措置”と呼ばれる手続きがとられます。
男子生徒は、場合によっては、少年鑑別所に入り、保護者とともに裁判所調査官の調査を受け、家庭裁判所で少年審判を行うという流れになると思います。
死亡という結果の重大性のほか、スマホをいじっていた・イヤホンをしていたなどの悪性の強い行為がなかったかなど『事故に至る経緯』や、これまで同種の非行を重ねていないか、民事上の損害賠償責任が保険でカバーされるかなどの事情によって結果が左右されることになります」(外口弁護士)

歩行者は自転車への注意義務なし

また、民事上の損害賠償責任については、自動車の事故と同様、当事者間の過失割合についての調査結果をもとに賠償金額が算出されるという。
この過失割合の決定にあたっては、過去の裁判例をもとに決められた事故類型ごとの「基本過失割合」に、個別のケースに即した「修正要素」が加味される。
今回の事故の場合はどうか。
まず外口弁護士は、「原則として、歩行者は、歩道上で自転車に対して注意を払う義務を負っていない」と説明する。
そのうえで、「『歩行者が急にふらついて自転車の前に飛び出してきた』といった事情があれば、多少修正される可能性はあります。ただ、今回の事故は、報道の通りであれば、自転車側の前方不注意が原因のようですから、やはり過失割合は10:0がベースになるかと思います」

保険加入「刑事責任を減じる事情になり得る」

事故を起こした人が未成年であっても、たとえ支払い能力がなくても、損害賠償金の支払いが免除されることはない。
過去にも、男子高校生が朝、自転車で歩道から交差点に侵入し、別の自転車を運転していた女性(60歳)と衝突した結果、女性が亡くなったケースでは、3138万円の賠償金支払いが命じられている(さいたま地裁平成14年(2002年)2月判決)。
こうした事例も踏まえ、自転車保険への加入を義務付けている自治体も増えている。
外口弁護士も「保険加入の有無は、刑事責任を減じる事情にもなり得る」として、保険への加入を強く推奨する。
「自転車でぶつかるだけでも人は簡単に死亡したり、重度の後遺障害を負うケガをしてしまうものです。
自転車の利用者は、適切な保険に加入したうえで、交通ルールを守って周囲に気を配って運転するべきだと思います。
また、自身が大きなケガをすることも考えられるため、ヘルメットの装着も必須だと思います」(外口弁護士)

自転車事故の7割で「自転車側に法令違反」

警視庁によれば、2025年上半期に都内で発生した自転車事故は、前年と比べ件数・死者数ともに増加している。
また、自転車事故のうち、約7割には自転車側に何らかの「法令違反」があったという(警察庁「令和7年上半期における交通死亡事故の発生状況」他)。
自転車は便利で身近な乗り物だが、その分、運転する側の責任が意識されにくいのかもしれない。
来年4月に、自転車の違反行為に対する青切符制度の導入を控える中、改めて、一人ひとりが安全への意識を持って運転することが求められている。


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