22日午前、退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロス(東京都品川区)および都内の複数の法律事務所において、弁護士法違反の疑いにより、警視庁が100人体制での一斉家宅捜索を実施した。
モームリは退職希望者の代わりに勤務先へ退職の意思を伝えるサービスで、公式サイトによると、累計利用者数は4万人。
利用者の6割以上が20代と、若年層を中心に人気を集めている。
2022年のサービス開始以来、急拡大する一方、弁護士法違反の疑いについては以前より東京弁護士会や一部メディアなどによって指摘されてきた。

弁護士以外が“法律業務”をすることは「違法」

弁護士法72条は、弁護士資格を持たない者が報酬目的で法律業務を行うことや、あっせんすることを禁止しており、こうした行為は「非弁行為」として違法になる。
同社公式サイトのQ&Aには〈退職代行って違法なの?〉との問いに対して〈弁護士以外が交渉を行えば違法になります。(中略)当社は「通知」に徹しているため、違法性は一切ございません〉との回答が掲載されている。「交渉」とはすなわち法律業務を意味する。
その一方、警視庁は、依頼者の退職に伴い交渉が必要となった場合に、同社が有償(報酬目的)で弁護士にあっせんしていた疑いがあるとみて、今後は押収資料を分析し、全容解明を進めていくようだ。

モームリが限界を迎えるのは「明らか」だった?

退職代行サービスを展開する企業は「モームリ」の他にも複数存在する。そもそも、弁護士や弁護士法人以外が、弁護士法72条の問題をクリアした上で、退職代行サービスを続ける道はあるのだろうか。
退職トラブルの対応も多い杉山大介弁護士は「法律に関わる一切の判断や交渉をせず、依頼者のメッセージを会社に、会社の回答を依頼者に、そのまま伝えるだけの『伝言役』に徹することができれば可能」としながらも、退職代行サービスの「構造的な問題」に言及する。
「客観的にみれば、モームリが限界を迎えるのは明らかでした。退職代行は、弁護士法による制約があることから、サービスを強化することができません。そのため、合法的な範囲で業務を行おうとすると、誰もが簡単にまねできる、ごく単純な事務連絡に徹するしかなくなります。
このため、参入者が増えるほど価格競争は激しくなり、単価が下がり続けることが避けられない。
これが、退職代行市場の構造です」
2022年に代表1人で始めた会社は急成長し、公式サイトによれば、創業3年目で従業員数は約70人になったという。人件費というコストが増え、新規参入する他社も増加する中、サービスの「質の良さ」をアピールすることで差別化を図ってきたようにみられる。
しかし、杉山弁護士は、「『合法的な単純事務連絡』という制約のもとで成り立っている退職代行市場の構造とは、根本的に矛盾した行動」であったと指摘する。

費用をかけずに会社を辞めるには…

退職代行サービスは、主に費用面において、その手軽さが支持され、急拡大してきた側面もあるだろう。裏を返せば、弁護士に依頼することには金銭的なハードルを感じている人も多くいる可能性が示唆されている。
法律上は、従業員は企業に対していつでも退職の意思を伝えることができ、意思表示から2週間後には雇用関係が終了することになっている(民法627条1項)。
会社が退職を認めなかったり、退職届を受け取らなかったりした場合にも、従業員の意思表示があれば法的な効力が生じるため、本来は会社側と「交渉」する必要はない。モームリでも、これを根拠に自社の退職代行サービスについて「違法ではない」と主張してきた。
しかし、多くの依頼を受ける中で交渉が必要な場面が出てきたということは、一筋縄ではいかないケースも少なくないということだろう。今後、会社を辞めるに辞められない人が、あまり費用をかけずに退職したい場合は、どうすれば良いのか。杉山弁護士にアドバイスを求めた。
「まず前提として、従業員が退職の意思を示した場合、企業はそれを阻害することができません。
ただし、注意すべき点として、従業員が引き継ぎを完全に拒否するなどして業務に大きな損害を与えた場合については、直近でも損害賠償が認められた判例があります。そのため、あまりに無責任でデタラメな辞め方はできません。
しかし、必要な情報(業務上のデータなど)を伝え、会社の備品をきちんと返却して辞めるのであれば、通常は損害賠償を請求されるような事態にはなかなかならないのが実情であり、本当に辞めるに辞められない状況というのも、かなり例外的な事例に、本来はとどまっていると思います」
その上で、もし企業が退職を容易に認めなかった場合について、杉山弁護士は次のように続ける。
「退職に際して報復的な手段までとってくるような企業は、どの道、退職代行業者の手に余る法律問題です。それは、弁護士に相談して交渉してください。
たしかに費用はかかりますが、自身の安全や会社から受けるかもしれない請求と費用をてんびんにかけて、より合理的な選択をすることも、社会人として必要な判断です」
今回の家宅捜索は、安価な手軽さと、法律の専門性との間で揺れ動いてきた退職代行市場の転換点となるだろう。退職の自由は守られつつも、その手続きを代行するサービスのあり方は、今後、大きな見直しを迫られることになりそうだ。


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