依然として大原~上総中野間全線で運転を見合わせており、大原~大多喜間は2027年秋の運行再開を目指すが、大喜多~上総中野間の復旧は見通しが立っていない。
事故の原因は「まくらぎ」の老朽化による軌間の拡大だった。地域の輸送を支える鉄道の“安全性”が、いま土台から静かに崩れつつある。(鉄道ライター・枝久保達也)
全国の地域鉄道で起きている「異変」
事故は国吉~上総中川間の苅谷踏切付近で発生した。運輸安全委員会の鉄道事故調査報告書によれば、2両編成の上総中野行き下り列車が時速41キロで走行中、強い揺れを感じたため非常ブレーキを使用して列車を停止させた。運転士が確認したところ、4つの台車のうち3つが脱線していた。
原因は軌間(レール幅)の拡大による車輪の落下だった。
鉄道はカーブを走行する際、外側のレールに車輪を押し付ける力が発生する。レールとまくらぎは締結装置で固定されているが、まくらぎに腐食やひび割れがあると横圧に負けて軌間が広がり、車輪が落下してしまう。
実はこうした事故は全国の地域鉄道で起きている。
過去10年を振り返ると、2016年に西濃鉄道、2017年に紀州鉄道、熊本電気鉄道、わたらせ渓谷鉄道と相次いで発生し、2018年に国交省が「地域鉄道等における軌間拡大防止策の促進について」の通達を出す事態となった。
しかしその後も、2019年に熊本電気鉄道、弘南鉄道、会津鉄道、2020年に長良川鉄道、富山地方鉄道、2022年に近江鉄道、2023年にしなの鉄道で発生しており、状況は好転しない。
また軌間拡大以外にも、分岐器(ポイント)の不良やレールの折損・摩耗など、線路保守にまつわる問題で脱線事故が相次いでいる。
背景に地域鉄道の“経営問題”
交通機関における最優先事項は安全である。1951年の「運転の安全の確保に関する省令」は、安全保持のため「安全の確保は、輸送の生命である」「規程の順守は、安全の基礎である」「執務の厳正は、安全の要件である」を規範とするよう定めている。
しかし事故が続出しているということは、規程が守られていないことを意味する。
背景には地域鉄道の厳しい経営がある。
中小事業者の輸送人員は90年代初頭から約3割減少しており、黒字経営の事業者は数えるほどしかない。また従業員数も3割減少し、特に夜間作業のある保守要員の確保は困難だという。
運輸安全委員会の調査によれば、2013年度から2022年度の10年間で発生した中小鉄道の脱線事故のうち、74%(14件)が線路保守の不足によるものだった。
効果的な対策はまくらぎの交換だ。
前出の国交省の通達では、木まくらぎの状態について判定基準を設けて1本ごとに管理するとともに、不良まくらぎや横圧のかかるカーブなどは計画的にコンクリート製まくらぎへ交換するよう指導している。
まくらぎはレール(25m)1本あたり30~40本を必要とする。全ての交換は困難だが、数本に1本を交換するだけでも軌道管理は格段に向上する。
たかがまくらぎと思うかもしれないが、交換には多額の費用が必要だ。
「安全」守るために多額の費用負担
いすみ鉄道大原~大多喜間の復旧費用は約14.5億円と見込まれており、うち約4.5億円が代行輸送費用、約10億円がまくら木2.2万本中2700本の交換を中心とする工事・修繕費用だ。同社の2023年度決算は、鉄道事業営業収益約6500万円に対し、営業赤字が約3.6億円、県などの補助金でようやく2365万円の純損失となる。これでは14.5億円の調達は不可能なので、国の鉄道施設総合安全対策事業費補助制度に加えて県や関係市町に必要な経費の支援を要請している。
地域鉄道にとって途方もない10億円という金額は、言い換えればこれまで先送りにしてきた投資のツケである。
巨大な固定資産を有する鉄道は、計画的な安全投資と定期的な保守修繕によって維持される。
地方鉄道の苦境とは目先の赤字の話に収まらない。インフラの維持更新、人員確保など持続可能性が問われているのである。
しかし、赤字の地域鉄道は廃止すべきというのは短絡的だ。
鉄道の特性は大量輸送にあり、利用者数が増えるほど収益性が上がる。現在、地域鉄道の多くは「バスでは運びきれないが、黒字にはならない利用者数」という輸送規模である。
経済性だけでは測れない「生活インフラ」としての公共性をふまえれば、自治体が経営を支援するしかないだろう。
「公有民営方式」に活路
その有力な選択肢となるのが、鉄道運行(上)とインフラ保有(下)を切り分ける上下分離方式だ。特に鳥取県の若桜鉄道、滋賀県の信楽高原鉄道、三重県の四日市あすなろう鉄道のように、施設(一部は車両も)を自治体が保有し、事業者に無償で貸し付ける「公有民営方式」が効果的だ。直近では2024年から滋賀県の近江鉄道が導入している。
ただし忘れてはならないのは、上下分離方式を導入しても赤字が消えるわけではないことだ。
赤字は鉄道会社から自治体に付け替えられ、自治体は施設保有者としてこれまで以上に安全投資をする必要がある。つまり税金が必要だ。
しかし、車社会の地方では民営鉄道への税金投入は納税者の理解が得られにくい傾向にあり、鉄道会社の赤字に対しては「経営努力が足りないからだ」という声も根強い。
公的支援を強化して鉄道を残すのか、更生不能とみて見捨てるのか、自治体と住民の選択に猶予は少ない。
■枝久保 達也
1982年、埼玉県生まれ。東京メトロで広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして活動する傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心に鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。近著に『JR東日本 脱・鉄道の成長戦略』(2024年 KAWADE夢新書)。

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