原付・自転車“いいとこどり”のはずが…「特定小型原付」なぜ認知拡大しない? 「まず法令の説明から」販売現場が明かす“現実”とは
特定小型原動機付自転車(特定小型原付)という新しい車両区分が2023年7月に導入され、2年4か月が過ぎた。
10月30日に開幕した「Japan Mobility Show 2025」(11月9日まで=江東区の東京ビッグサイト)でも各社が最新モデルを展示。
新たな車両区分も着実に浸透している印象だが、現場から聞こえてきたのは意外な声だった。

認知不十分で販売時は区分けの説明から

「元々は電動キックボードの利用者層を想定していましたが、50代以上のシニア層の利用が多くなっています。往復5キロ程度のちょっとした移動に使われているようです」
特定小型原付の販売を始めて1年になるという企業の販売担当者は現状をこう明かした。競合も多くなる一方、機能が限定的なため、差別化が難しいが、顧客とのタッチポイントで肝になっているのは、意外な点だった。
「そもそも特定小型原付についてよくわかっていない方が多い印象です。ですからお客様にはまず、このカテゴリーがどういうもので、やっていいこと、やってはいけないことは何かを説明することから始めています」
車両の魅力を伝える前に、まずは特定小型原付がどういう位置づけの乗り物なのかを説明することから購入を検討してもらう。販売の現場は、いまだそんな状況という。
ある顧客から「小学生の子どもの移動用に」と購入の打診を受けたが、法令で16歳以上の年齢制限があることを説明し、諦めてもらったこともあるという。
位置づけとしては、原付と自転車の中間で、「いいとこどり」をしているモビリティともいわれる。だが、そうしたポジションが、かえって利用者の混乱を招いているふしはある。
たとえば、特定小型原付では16歳以上の年齢制限があるものの、免許不要で乗車でき、ヘルメットの着用も努力義務で手軽さは自転車なみ。こがずに動力だけで前進できる点は原付のメリットを引き継いでいる。

アクセサリーも豊富な「glafit」 NFRシリーズ(撮影:弁護士JPニュース編集部)

こうした側面にフォーカスすると、特定小型原付は街中のちょっとした移動に優れた使い勝手の乗り物ということになる。
ところが、乗り物としての魅力を左右するスピードに着目すると、時速20キロの速度制限があり、物足りなさは否めない。
自転車の平均速度は一般的に時速15キロ~20キロ、いわゆるママチャリでも平均速度は時速12キロ~15キロといわれる。自力と動力走行の違いはあるものの、これでは特定小型原付が必ずしも便利なモビリティとは言い難いだろう。
スピードでいえば、時速24キロまでアシストが機能する電動アシスト自転車の方が優位性があるといえ、特定小型原付はなんとも中途半端な立ち位置となっている。
加えて、特定小型原付は、ナンバープレート・自賠責保険が必須となっており、原付並みの手続き・コスト負荷がある。

なぜ特定小型原付カテゴリーが新設されたのか

では一体なぜ、特定小型原付のカテゴリーが新設されたのか。そのきっかけの一つが電動キックボードの登場にある。
電動キックボードなどの新しい電動モビリティが普及し始めた当初は法律上、すべて「原動機付自転車」として扱われた。従って、免許、ヘルメット、車道走行の義務など、厳しい規制が適用されていた。
ところが、それでは新たなモビリティの手軽さや利便性を妨げる。加えて、主に都市部の近距離移動における移動手段の不足が社会課題となっており、その解決策として新たな選択肢が求められる中、電動で低速(最高速度時速20キロ以下)という特性に着目。自転車と原付の中間的な交通ルールを設定することで、手軽さと利便性を存分に活かせるようにしたのだ。

法律ありきではなく、乗り物ありきで生まれた新カテゴリー。そのことが、なんともおさまりの悪さにつながった可能性はありそうだ。
前述の特定小型原付販売担当者は「利用者はやはり車道の左端の走行はできる限り避け、家からのちょっとした移動、たとえば裏道や住宅街を走る程度の使い方をしているようです」と、利用実態について話した。
車両価格の多くは20万円前後と決して安くはなく、気軽に駐車もできない。走行距離は50キロ前後だが、速度を考えるとちょっと遠出にも適さない…。そう考えると、脚力の衰えたシニアや、坂の多い地区に居住する住民などの、ちょっとした「足」としての利用がしっくりしそうだが…。


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