京都市風致保全課によると、ナイフや鍵のようなもので刻まれた落書きが、約350本の竹に確認されたという。
今回、被害状況を直接確かめるため、筆者が現地を訪れた。そこで目にしたのは、無数の傷つけられた竹たち。一部は傷が原因で変色しており、伐採を余儀なくされる状態だった。
植物を傷つける行為には、どのような法的責任が生じるのか。(ライター・倉本菜生)
保護が間に合っていない竹も…
嵐電「嵐山駅」から10分ほど歩くと見えてくる「竹林の小径」。約400mの距離に竹が整然と並ぶ、世界有数の観光スポットだ。筆者が訪れた10月18日は、週末とあって国内外の観光客で賑わっていた。竹林の小径への入口。大勢の観光客で賑わっており、石垣に腰かけて休む人の姿も(撮影:倉本菜生、以下同)
小径へ入って少し歩いたところで、養生テープを貼られた竹がいくつも目に飛び込んできた。落書きされた部分に貼って保護しているようだ。柵には「竹林を壊さないで!!落書きは犯罪です」と書かれた警告札が、日本語、中国語、英語、韓国語で掲げられている。
「竹林を壊さないで」諸外国語でも呼びかけている
小径の両側には囲いが設けられており、一方は竹製の低い柵、もう一方には背の高い茅葺(かやぶき)が設置されている。
中には、テープが剝がれかけて落書きが見えているものや、保護作業が追いついていないのか、そのまま放置されている竹も複数確認された。
テープがはがれた部分に落書きが見えている
さらに小径の奥へ進むと、養生テープが貼られていない竹が目立ち始め、落書きされたままのものが数多く残されていた。また、小径の中間部分にある広場のような散策エリアでは、柵がひざ下ほどの高さしかなく、竹の上から下までびっしりと保護されている様子が見られた。
竹林の散策路にて
一部の竹は、落書きによって傷が入った部分の周囲が赤茶色に変色し、明らかに傷んでいる。筆者が訪れた10月は「嵐山月灯路」というイベントが開催されていたため、竹林内ではスタッフがあわただしく動き回っていた。警備員もせわしなく巡回しており、声をかける隙もないといった様子。監視体制が強化されているようで、この日は不審な動きをする人物に出くわすことはなかった。
竹林の散策路にて
今回筆者は発見できなかったものの、新聞やテレビ局各社の報道によれば、日本語での落書きも確認されているという。落書き問題は決して「外国人によるもの」ではなく、日本人も行っていると思われる。
竹を傷つける行為“違法性”は?
刑事事件や民事事件に広く対応する齊田貴士弁護士は、問題となっている竹林一帯が、京都市の「小倉山歴史的風土特別保存地区」に指定されていることから、竹を傷つける行為は「『古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法』(以下、古都保存法)の違反に該当し得る」と語る。「古都保存法では9条において、『木竹の伐採』や『歴史的風土の保存に影響を及ぼすおそれのある行為』を、知事の許可なく行うことを禁止しています。
また、同法9条に違反した場合「1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金」に処されると規定されている(同法21条)。さらに、行政によって原状回復が命じられることもあり、命令に従わない場合は、行政代執行が行われる可能性もある。
今後、自治体や観光地が取るべき再発防止策として、齊田弁護士は「2つの観点からの抑止対応が考えられる」と話す。
「ひとつは、罰則の強化による犯罪抑止です。違法行為に対して、行政や警察が厳正に対処する姿勢を示すことで、抑止効果が期待できます。もうひとつは、防犯カメラを増設し、犯罪の証拠を確実に残す体制を整えることです。監視の『見える化』は、それ自体が抑止力として働くでしょう」
また、植物を傷つける行為を目撃した場合の対応については、次のように助言する。
「直接注意すると、口論などのトラブルに発展するおそれもあります。自身の安全を第一に、現場の様子をスマートフォンなどで記録し、のちに警察や自治体、施設管理者に提供することが望ましいでしょう」
国内外のオーバーツーリズム問題が顕著な京都では、嵐山に限らず、観光地の木の枝を折るなど、旅行客による植物への損壊行為がたびたび問題となっている。齊田弁護士は、「竹林の小径」のような保護区ではない私有地や公有地において、植物を傷つける行為は、違法性を伴うとして、次のように述べる。
「そもそも植物を傷つける行為は、軽犯罪法違反や器物損壊罪(刑法261条)に問われる可能性があります。
たとえば植物への落書きなら、簡単な処置で消すことができる程度であれば、軽犯罪法違反が適用されます(有罪の場合、拘留又は科料に処される)。
しかし、落書きをきれいに落とせない状態や、伐採しなければならないほどの被害であれば、植物を損壊したと判断されて、器物損壊罪に問われるでしょう。器物損壊罪で有罪になった場合には、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料が科されます」
ひとつの行為が原因で、街の風景が失われることもある。観光地の「当たり前の景色」を守るために、訪れる一人ひとりの意識が問われている。
■倉本菜生
1991年福岡生まれ、京都在住。龍谷大学大学院にて修士号(文学)を取得。専門は日本法制史。フリーライターとして社会問題を追いながら、近代日本の精神医学や監獄に関する法制度について研究を続ける。主な執筆媒体は『日刊SPA!』『現代ビジネス』など。精神疾患や虐待、不登校、孤独死などの問題に関心が高い。
X:@0ElectricSheep0/Instagram:@0electricsheep0

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