9日に投開票された茨城県神栖市長選で、得票が同じとなり、くじ引きで当選が決まった。新人の元市議会議長・木内敏之氏と、3期目を目指す現職・石田進氏の一騎打ちとなった同選挙はともに1万6724票を獲得。
公職選挙法95条2項にのっとりくじ引きが行われ、木内氏の初当選が決まった。
投票総数は3万3667票、有効投票総数3万3448票、無効投票総数219票。投票率は44.22%だった。
報道によれば、石田氏は、「自分も支援者も納得しておらず、異議申し立ての準備をしている。票の再点検を求める」と話しているという。
なお、くじ引きによる当選人確定を定めている公職選挙法95条2項には、「当選人を定めるに当り得票数が同じであるときは、選挙会において、選挙長がくじで定める」とある。

「この規模では記憶にない」異例なケース

東京都国分寺市議会議員で地方自治法に詳しい三葛(みかつら)敦志弁護士は、今回の選挙結果について「この規模の投票結果で同票というのは記憶にない」と極めて異例なケースとしたうえで、次のように今後の流れを解説する。
「負けた側が異議を申し立てる(法文上は「異議の申出」)のは当然のことでしょう。失うものはなく、もしも1票でも覆れば、結果が逆になる可能性があるわけですから。
候補者または選挙人(有権者)は、当選人の告示の日から14日以内に、選挙を管理した選挙管理委員会に対して、選挙の効力または当選の効力について異議を申し出ることができます(公職選挙法202条)。
この異議申し出は、開票作業における無効票の判定や集計の誤りなど、選挙の適正性に疑義がある点を主張することが一般的です。
異議申し出を受けた選挙管理委員会は、その内容を審査し、必要な場合は全票の再点検(開披(かいひ)点検)などを行い、申し出に対する決定を行います」

異議申し立ての受け入れ後に待ち受ける2つの難関

もっとも、これで票の再点検が行われ、結果が判明すれば一件落着となるかといえば、そうはいかないという。
まず、そもそも票の再点検が大変な難関になる。
「もちろん有効投票についても一通り確認はしますが、主戦場は無効票とされた票のうちのさらに一部になるでしょう。
今回の無効票は219票だそうですが、この記載内容を巡り、大きな摩擦が発生し得ます。
他の選挙の事例ですが、『ひげ』や『めがね』と記載があり、『ひげは私のトレードマークだから私の票だ』『めがねをかけたポスターは私だけだからこれは私だ』といった主張がぶつかり合うことがありました。
チェック式や電子投票でなく、記名式を採用している日本ではそうした問題も起こりうるわけです。その弊害として発生する、こうした主張の衝突を整理をするだけでも大変な労力となります」
結果的にすんなりくじ通りだと判明すればまだしも、もしも覆る結果となっても問題が生じ得る。当然だが、一度は勝利を手にしていた候補者からの異議申し立てだ。
「市町村の長や議員の選挙の場合、その市町村選挙管理委員会の決定に不服がある場合は都道府県の選挙管理委員会に審査を申し立てし、その審査結果に不服がある場合には、高等裁判所に訴訟を提起することができます(公職選挙法203条)。いずれにせよ開票結果に異議があるのですから、よほどの事情がなければ、まず確実に高裁までは争うでしょう。
一方、くじで当選した側も、その身分がぐらついている以上、なかなか職務に集中しきれません。結論が出るまで当面は、市政の大きな方向転換をすることは法的にはともかく政治的には難しいでしょう。行政もその間に混乱・停滞することはまず避けられません」(三葛弁護士)

過去の類似事例では「結果覆ることも」

なお、今回のケースのように得票数が全く同数によるくじ引き決着の事例は珍しいものの、地方選挙では類似事例は比較的発生しており、その後の異議申し立て事例もある。
たとえば、2019年に行われた相模原市議会議員選挙(中央区)では定数内の最下位当選ラインで3158票と得票同数の候補者が2人発生。くじ引きが行われた。

落選した候補者から、無効票の取り扱い等に関して異議の申し出があったが、市選挙管理委員会が棄却。その後、県選挙管理委員会に対して審査の申し立てが行われた。県選挙管理委員会は、全票の開披点検(再点検)を実施したが、最終的に開票結果に影響を与えるような誤りは認められず、当選の効力は維持された。
この相模原市議会議員選挙のケースでは結果が覆ることはなかったが、全票の再点検が行われた事例として知られている。
一方、1票差が覆された近年の事例としては、2017年の葛飾区議会議員選挙や2023年の小山市議会議員選挙がある。いずれも、点検の結果、2票が無効となり、結果が覆り、当選者が入れ替わることになった。
なお、実務上、異議申し出がなされて以降、訴訟等で結果が確定するまでは、くじで当選した候補者が市長として公務を遂行していくことになる。


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