9日、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容疑者が兵庫県警に逮捕された。容疑は斎藤元彦・兵庫県知事らの疑惑を県議会で調査していた元県議の故・竹内英明氏に対する名誉毀損(きそん)である(刑法230条)。

具体的には、立花容疑者が昨年12月に行った発言や、竹内元県議が自死した後の今年1月に行った発言などが名誉毀損の疑いがあるという。立花容疑者の発信がきっかけとなりSNSで大量の誹謗(ひぼう)中傷が相次いだとして、今年6月に竹内元県議の妻が刑事告訴していた。
逮捕の理由として、先月末に、立花容疑者が日本が犯罪人引渡条約を締結していないドバイに渡航したことなどから「逃亡や証拠隠滅のおそれ」が認められる、と警察は説明している。
今回の逮捕について、Xでは複数の著名弁護士アカウントから批判の声が上がっている。
一方、刑事訴訟法に詳しい杉山大介弁護士は「立花氏が逮捕・勾留の要件いずれも満たさないと評価する方が難しい」と語る。

立花容疑者は罪証隠滅・海外逃亡どちらの「おそれ」も高い

そもそも、逮捕・勾留は被疑者の身柄の自由を奪う処分であり、きわめて重大な人権侵害である。したがって、被疑者を逮捕するにあたっては、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(逮捕の理由)があるのに加え、「逃亡のおそれ」や「罪証(証拠)隠滅のおそれ」(逮捕の必要性)が存在することが要件とされている(刑事訴訟法199条・刑事訴訟規則143条の3)。
また、逮捕に続いて行われる「勾留」についても同様に「勾留の必要性」が要求される(刑事訴訟法第207条・60条1項)。
杉山弁護士は、立花容疑者については「逃亡のおそれ」や「罪証隠滅のおそれ」のいずれも大きいといわざるを得ず、逮捕・勾留の要件を満たさないことを否定するのは困難だと説明する。
まず、「罪証隠滅のおそれ」について。
「『罪証隠滅のおそれ』には『被害者への威迫』や『共犯者間の口裏合わせ』の危惧も含まれます。つまり、事件に関係する人物が多いほど、こうした罪証隠滅のおそれも生じやすくなります。
兵庫県の問題では、立花氏は様々な政治的利益が伴う形で動いていました。
また、立花氏には被害者という最も重要な証言者を死に追いやった過去があり、犬笛(※)の常習犯でもあり、かかわった多くの人たちが、自宅などの生活環境を脅かされたりしてきています。
要するに立花氏は『罪証隠滅のおそれの塊』のような人物といえます」(杉山弁護士)
※「嫌がらせをしろ」と明示しないものの、結果的に個人への誹謗中傷や組織への業務妨害を誘発する行為。
次に、『逃亡のおそれ』に関してはどうか。
「通常、令状審査をする裁判官は国外逃亡のおそれを重く評価します。だからこそ、私が外国人の被疑者の釈放を求める際には、工夫を要しています。
また、逃亡のおそれは、刑務所に入る可能性が高いほど、重い刑が想定されるほど、それをおそれて逃げようとするものだと評価する仕組みになっているので、特に起訴後に実刑となるリスクが大きい場合には、被疑者が逃亡するおそれは高く評価されます。
立花氏は現在、執行猶予期間中であり、今回の罪状(名誉毀損)も有罪となれば拘禁刑相当が予測されるため、実刑が現実的に見込まれる状態です。この場合、逃亡のおそれは必然的に強く推認されます。
海外に逃げる可能性と実刑リスク、この2点から、今回のケースでは『罪証隠滅のおそれ』のみならず『逃亡のおそれ』に関しても高いと評価されます」(杉山弁護士)

「不当逮捕」を主張する声もあるが…

他方で、日本の刑事司法においては、本来なら逮捕の要件を満たさず拘束されるべきでない人が拘束される問題や、長期間にわたり身柄を拘束されて検察から自白を迫られる「人質司法」の問題が深刻であることは確かだ。
しかし、これらの問題をふまえても「立花氏は逮捕・勾留の要件の『ど真ん中』に該当している」と杉山弁護士は指摘する。
「X上で立花氏を擁護する声の中には『推定無罪の原則』や『選挙(伊東市長選)に立候補する立場なのに~』(※)など、形式的な擁護が多く見られます。
※選挙の立候補者には国会議員に認められる「不逮捕特権」はないが、捜査機関は慣例として、地方議会選挙を含む立候補者の立件を選挙終了まで見送ることが多い。
しかし、私は、立花氏の行為をこれまで見てきて、具体的な事実を当てはめたときに、逮捕・勾留の要件を満たさないと評価できるとは全く思えないです。

この事案で本当に立花氏に味方する弁護人の立場から活動するとしても、罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれは強く認められる前提で、それを大きく覆すだけの防止措置と、勾留の不利益の証明をする事実を積み重ねる前提で動かなければいけません。法律をこねくり回した口先の空中戦では、歯牙にもかけられないでしょう。
選挙の立候補についても、立花氏には、これまでに『選挙に立候補したら選挙終了まで立件が見送られる』という慣例や形式を利用してきた経歴があります。それをあえて無視しているのかはわかりませんが、今回の件で形式論だけを持ち出して判断するのは、具体的な事実への踏み込みが甘いように思います」(杉山弁護士)
杉山弁護士は、自身が担当してきた刑事事件について、被疑者に対する違法・不当な身柄拘束を回避することに「かなり力を入れて取り組んできた」と自負しており、否認事件を含め、裁判官の釈放の判断について検察官から準抗告(※)が行われるような事案でも釈放を勝ち取ってきたという。
※裁判官が下した一定の処分に対して、その取り消しや変更を求めて裁判所に不服を申し立てる手続き(刑事訴訟法429条)。
「釈放が難しい事案では、勾留の要件を満たさないと主張するために、膨大な証拠を積み重ねています。かさにして40~50頁を超えることもありますし、勾留の要件そのものを論じる本文だけでも、3000字は超えてきます。
立花氏を釈放すべきと主張する場合、それぐらい本気で論証することが求められますね。ネット上で見られる意見は、だいたい政治的なお気持ち表明程度に見るべきものかと」(杉山弁護士)

発言から逮捕まで10か月以上かかった理由は?

冒頭に記したように、名誉毀損の疑いがあるとされている立花容疑者の発言は、昨年12月および今年1月に行われたものだ。仮に在宅事件として捜査が進んでいたとしても、発言から逮捕まで10か月以上が経過している。
しかし、この期間は、一般的な在宅事件と比べて特段遅いとはいえないという。
「基本的に、在宅事件の場合には起訴に関して捜査機関側に時間的な制限がないため(※)、ある程度のんびりした進み方になるのも珍しくありません。

※被疑者の身柄拘束が行われる場合、逮捕から起訴までの身柄拘束期間は最長で23日間。
立花氏のケースでは、兵庫県で生じている問題に関する発信内容の真実性または真実相当性(虚偽の事実を真実と誤信したことにつき相当な理由があること)が論点になります。
捜査機関が、『発信内容が虚偽であること』や『(立花氏が自分の発信した内容を)真実であると信じたことに相当な理由がないこと』に関する証拠固めについて、慎重を要するのはやむを得ないことです。
また、立花氏は、直近までも現在進行形で事件に関係する発言を増やし続けています。そのため、捜査機関としても、『捜査はここまで』と終わりが打てないところもあったと思います。
それでも、執行猶予期間との関係から、そろそろ起訴に向けて進まざるを得ず、勝負に出たということでしょう」(杉山弁護士)


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