横浜アンパンマンこどもミュージアム(神奈川県横浜市)で10月に開催されたとみられるアンパンマンショーの最中、客席前方中央付近で起きた子どもの父親どうしのもめ事を撮影した動画が、SNS上で拡散され、以下のような批判の投稿がなされるなど、物議をかもしている。
「子供達が主役のところで何してんだ」
「ショーが台無し」
「あまりにも迷惑」
黒いシャツの男性(X氏)が激高してもう一人の男性(Y氏)に詰め寄り、体当たりや頭突きをしたように見える。
少し時間が経って数人のスタッフが止めに入り、Y氏は子どもを連れて立ち去ろうとするが、X氏が執拗にY氏に追いすがる様子がわかる。
このように、イベントの観客席で「喧嘩」をする行為等は、何らかの犯罪に該当し得るのか。刑事事件への対応も多い荒川香遥(こうよう)弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)に聞いた。

相手方への暴行は「暴行・傷害罪」の可能性

まず、映像では、X氏がY氏に対し体当たりや頭突きをしているように見える。このように、相手方に対し暴力を振るう行為は、暴行罪(刑法208条、2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料)ないしは傷害罪(同204条、15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)にあたり得るという。
荒川弁護士:「暴行罪にいう暴行とは、相手方の身体に対する不法な有形力の行使をさします。体当たりや頭突きがこれにあたることは明らかです。
そして、暴行を振るった結果、相手がケガをした場合には、傷害罪が成立します。
たとえば、相手が出血したり、あざができたりした場合などです。
ポイントは、たとえケガをさせるつもりがなくても、暴行の結果としてケガをさせれば、傷害罪に問われるということです」
なお、X氏とY氏の口論の内容は分からないが、仮にY氏がX氏に対し挑発的な言葉や暴言を発していたような場合であっても、結論は変わらないという。

運営側に対する罪

次に、今回はX氏とY氏によるケンカが客席の真ん中で繰り広げられ、他の観客によるショーの見物が妨害されている。この点についてはどうか。
荒川弁護士:「ショーの主催者を被害者とする威力業務妨害罪が成立し得ます。
ここでいう『威力』とは、人の自由意思を制圧するに足りる勢力をさし、『暴行・脅迫』よりも弱いものも広く含まれます。
口論ないしケンカをすることはこれにあたります。
ステージ方向への視界が遮られ、かつ激しい口論になっており、明らかに、他の観客がショーを見物するのに支障が生じています。また、席を立つ観客もいます。
したがって、主催者側の業務が妨害されたといえます。なお、判例は、現実に業務妨害の結果が発生することは必要ないとしています(最高裁昭和28年(1953年)1月30日判決)」

必ずしも「双方が罰せられる」わけではない

とはいえ、一部では、そもそもの原因は、Y氏家族がショーを観ていたところ、X氏が割り込みをし、Y氏や他の客が注意したことがきっかけだったとの情報もある。また、動画ではX氏のほうが一方的かつ攻撃的であるようにも見える。
本件の真相がどうだったかは別として、仮に、片方が一方的に攻撃を加え続け、もう片方が半ばやむを得ず対抗していただけだった場合はどうか。
荒川弁護士:「その場合には、攻撃を執拗に継続した側のみが罰せられ、相手方はおとがめなしになる可能性が高いです。
一方的かつ執拗に攻撃を受けた場合、その相手方には攻撃に対抗する権利があります。結果として、ある程度、主催者側の業務の妨害に寄与してしまうことになっても、やむを得ない面があります。
反抗が攻撃をやめさせるために必要であり、かつ過剰なものでない限り、社会的に許されるとみるべきです」
アンパンマンが時代を超えて子どもたちに愛される理由の一つは、その世界が優しさと平和で成り立っているという普遍性にある。だからこそ、アンパンマンを子どもに見せる大人たちは、みずからも子どもたちに率先垂範して思いやりを示さなければならないはずである。

ましてや、子どもたちが見ている前で、気に入らないことがあったからといって、刑罰の介入を招くような状況を作り出す言動は、厳に慎まなければならないといえるだろう。


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