被害にあったのは高校1年生の男子生徒(以下、Aさん)。「スパーリング」と称して顔や体を殴られ、全治約3週間のけがを負った。加害者の少年2人は容疑を認めており、現在は家庭裁判所での審判手続きが進められている。
記者の取材に対しAさんの母親は、「息子をオモチャにした少年たちも、その親も許せない」と、加害少年らへの怒りをあらわにした。
子どものいじめについては、学校の対応や少年法の壁を前にし、不安を抱える保護者も少なくない。子どもが暴行被害にあったとき、親はどう動くべきなのか。(ライター・倉本菜生)
「遊ぼうや」と呼び出され、一方的に暴行を受ける
事件があったのは今年6月中旬。午後8時頃、Aさんは加害者少年らに電話で呼び出され、淀川の河川敷へと向かった。加害者の2人とは中学時代の同級生であり、別の高校に進学したあとも交流は続いていたという。Aさんは河川敷に到着するなり、少年たちに「ケンカしようや」と絡まれ、正面と背後から殴られ続けた。「やめて」と伝えても暴力は止まず、土下座をさせられ頭を踏みつけられたうえ、下着姿で川に入るよう命令された。
その場には加害者少年2人のほかに、彼らの後輩である中学生(以下、Bさん)も立ち会っており、動画の撮影係をさせられていた。Bさんが「かわいそうだからやめてあげて」と伝えても、暴行は止まらなかったという。
Aさんの母親によれば、Aさんは暴行を受けた当日の夜、帰宅後すぐに自室へとこもり、部屋から出てこなかったという。足を引きずっている様子が気になったが、「部活でケガをした。しんどいから、ほっといて」と言われたそうだ。
母親が事態を知ったのは約1週間後。加害者少年たちは「おもろい動画見せたろか」と、撮影した動画を周囲に見せびらかしており、その情報が知人経由で母親のもとに届いた。母親が問いただすと、Aさんの口から語られたのは、想像を超える屈辱と暴力の数々だった。母親は涙ながらにこう語る。
「河川敷での出来事のあとも、加害者たちは平然と我が家に遊びに来ていたんです。そのとき、息子の様子がおどおどしているなとは思っていました。なぜすぐに言わなかったのか聞くと、『迷惑や心配をかけたくなかった』と言っていました」(Aさんの母、以下同)
Aさんには発達障害があり、自分の気持ちや起きた出来事をうまく説明できない。加害者たちからは、中学生の頃から「ストレス発散」と称して定期的に暴行を受けていたという。金銭を要求され、断ると殴られたこともあったが、そのたびに母親には「部活でケガをした」と隠していたそうだ。
事態を知った母親は、すぐに加害者たちの親へと連絡。しかし、「うちの子はしていないと言っている」と否定され、さらには「そんなに言うなら警察に行ったらどうですか」と電話を切られたという。
「親たちの対応も許せませんでした。その後、動画を撮影していたBの家に行き、『警察に自首してくれ』と話しました。Bの親はびっくりしていましたが出頭してくれて、それで警察が動いたんです。私からも通報はしていました」
少年らは書類送検後、10月24日付で家庭裁判所で審判が行われることが決定した。Aさんの母親は「何度も泣いた。私にとっても息子にとっても消したい記憶」と話す。
「息子が受けた暴行を思い出したくもないですが、子供のためにも戦わないといけない。傷ついた息子をどうサポートしていったらいいのか、ずっと悩んでいます。大切な息子をオモチャにした加害者たちが許せません。
息子は学校には登校できているものの、以前のような明るさはなく、心に穴が開いたような状態です。
親子でどうにか乗り越えたいと語る母親だが、司法の判断に不安も感じている。
「初犯なので、不処分か保護観察程度で済んでしまうかもしれません。仮に少年院送致になったとしても、それで息子の気が晴れるわけでもない。あとほんの少しでも深く川に入っていたら、流されて命を落としていたかもと思うと……。生きていてくれて本当によかったです」
加害者へ「なるべく重い処分」望むなら…
今回の事件について「非常に悪質なケース」と指摘するのは、2011年に発生した「大津いじめ自殺事件」で遺族の代理人弁護士を務めた石田達也弁護士だ。「発達障害を持つ子の中には、記憶の整理があまり得意ではなかったり、問い詰めるとパニックになってしまったりして、順を追って話すことが苦手な子がいます。そうした特性を利用し、以前から継続的に暴行などを加えていたのだとすると、相当に根が深い問題といえます」
では、今回のようなケースでは、どのような司法の判断が下される可能性があるのか。石田弁護士は、こう説明する。
「少年院送致もしくは保護観察となるでしょう。ただし裁判所の見立て次第では、不処分とされる可能性もあります。一点、被害者側が注意しなければならないのが、少年審判の独特なシステムです。少年事件は手続きが原則として非公開のため 、『被害者側が気づかぬうちに終わっていた』という事態がままあります」
少年事件、刑事事件ともに、被害者や遺族などが審判や裁判に当事者として参加するには、事前の手続きが必要とされる。また、少年事件では加害者の“処罰”よりも“保護・更生”を重視しているため、被害者側が審判状況の情報を得にくい。
それゆえ石田弁護士は、「少年審判における被害者のための制度」を積極的に活用すべきだと話す。
「制度を利用すると、被害者が裁判官や家庭裁判所調査官に意見陳述できます。重大な事件では、審判の傍聴や進行状況の確認、審判結果などの通知も受けられるため、『なるべく重い処分を求めたい』と考えているならば、申し込むべきです」
被害者参加を申し出ることで、事件に関する記録の閲覧・コピーも可能なため、民事で損害賠償請求を検討している場合も有効な手立てだという。
「まずは弁護士経由で手続きの状況を確認してもらい、参加の意思を示しておくのが良いでしょう」
子どもがいじめられたら「学校」「警察」どちらに相談すべきか
わが子がいじめられていると知ったとき、学校に相談すべきなのか、警察に行くべきなのか、悩む保護者も多い。親はどのような行動を取るのがベストなのか。石田弁護士は「いじめの内容次第で違ってくる」と前置きしつつ、まずは子どもの話を丁寧に聞き取ることが大事だと話す。
「頭ごなしに『されたことを全部話して』『なぜ黙っていたの』と聞くのは、アプローチとして逆効果です。子どもの心理としても、やはり親には話しにくいですから。『あなたのことが心配だから話してほしい』『あなたが話したいと思う人に話してみたら』と、寄り添う姿勢で聞いてあげることが大切です。
そのうえで、被害状況について日付ごとにノートに記録しましょう。被害について話す内容を録音、録画しておくのもいいでしょう。その次にどのようなアクションを取るかは、被害の内容や状況によって異なります」
ただし、日常的に殴る蹴るなどの暴行を受けている場合は、緊急性を要するとして警察と病院に行くのが賢明だ。
「ケガをしている場合は、必ず病院で診断書を出してもらってください。
集団無視など、学校の介入によって改善が見込めそうな場合は、学校に相談するほうが解決が早いこともあります」
“親同士の代理戦争”にしてはいけない
最近では、広陵高校野球部で発覚したいじめ問題のように、被害者の保護者がSNSで被害を告発する事例も目立つ。しかし、加害者の身元が分かる形で告発するのは、被害者の立場を不利にするだけでなく、加害者側から名誉毀損で訴えられるリスクもある。にもかかわらず、ネット上での告発がたびたび起こる背景には、「いじめ問題全体が抱える構造的な課題がある」と石田弁護士は指摘する。
「インターネット上で被害者が加害者をさらす行為や、学校を炎上させる行為について、私自身は否定的な立場です。しかし、“そうせざるを得ない人”がいるのも事実ではあります。
学校が対処してくれず、教育委員会に訴えても動いてもらえず、最後の手段としてSNSに救いを求めてしまう。そういった“追い詰められた人たちの状況”を、理解しておく必要はあると思います」
被害に遭ったわが子を思えばこそ、加害者に「謝らせたい」「罰を与えたい」といった感情が湧くのは自然だ。しかし、親の行動が感情先行になってしまえば、かえって状況をこじらせることもある。
石田弁護士によれば、初動でいきなり加害者本人やその親に連絡を取ることも、リスクをはらんでいるという。
「加害者側は否認するケースが多く見られますし、話がかみ合わず、親同士の感情的な衝突に発展するケースも少なくありません。“親同士の代理戦争”になってしまうと、収拾がつかなくなってしまいます」
とくに、発達障害や知的な特性のある子どもが被害を受けた場合は、さらに慎重な対応が求められる。
「発達特性のある子どもに対して、加害者側が『この子は話を誇張しているのでは』『誤解してるんじゃないか』と偏見を持つこともあります。だからこそ、事実確認のやりとりは、弁護士などの第三者を介して進めるべきです」
石田弁護士は、いじめ発覚後の保護者の対応でもっとも大切なのは、「子どもの目線を忘れないこと」だと語る。
「親の視点で解決を図るのではなく、子ども自身がどうすれば安心して日常を取り戻せるかを考えるべきです。
たとえば、いじめが止まって学校に通えるようになれば、それだけで子どもにとっては十分な救いになることもあります。謝罪や処罰を望まない子もいますし、何より“普通の生活を取り戻したい”というのが、子どもの本音であることも多い。大人はその願いを叶えるために、冷静に力を貸すべきだと思います」
子ども自身が安心して日常を取り戻せなければ、問題は終わったことにはならない。子どもの感情を最優先に考え、冷静に動くこと。それが、親に求められる「いじめへの立ち向かい方」なのかもしれない。
■倉本菜生
1991年福岡生まれ、京都在住。龍谷大学大学院にて修士号(文学)を取得。専門は日本法制史。
フリーライターとして社会問題を追いながら、近代日本の精神医学や監獄に関する法制度について研究を続ける。
主な執筆媒体は『日刊SPA!』『現代ビジネス』など。精神疾患や虐待、不登校、孤独死などの問題に関心が高い。
X:@0ElectricSheep0/Instagram:@0electricsheep0

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