横浜アンパンマンこどもミュージアム(神奈川県横浜市)で10月に開催されたとみられるアンパンマンショーにおいて、客席で起きた子どもの父親どうしの「ケンカ」の様子を撮影した動画が、SNS上で拡散されている。
特に、ケンカ当事者の一方の男性に非難が集中し、個人を特定し、その個人情報をさらす動きが起きている。

しかし、このような「個人情報さらし」の投稿を行った者は、匿名であっても刑事・民事の法的責任を追及されるリスクを負うハメになることを覚悟する必要がある。

「発信者情報開示請求」で法的責任を問われる可能性

インターネット上で悪質な投稿を行った場合、民事では不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条、710条)を追及され、刑事では名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(同231条)に問われる可能性がある。名誉毀損罪と侮辱罪は被害者の告訴を要する「親告罪」である(同232条1項)。
民事責任、刑事責任の追及には、いずれも加害者(投稿者)の特定が必要とされる。
SNSや掲示板等は匿名性が高く、投稿者の特定は著しく困難であるかのようにも思える。しかし、被害者は「発信者情報開示命令」の制度(プロバイダ責任制限法5条参照)を利用すれば、最終的にIPアドレスないしは氏名・住所・電話番号等の開示を受けることができる。
発信者情報開示請求は、多くの場合、SNSやサイトの運営者等にIPアドレスを開示させ、それを基にプロバイダに個人情報を開示させるという流れになる。
被害者は以下の手続きを裁判所への申立てによって一度に請求することができる。
①サイト管理者・プロバイダに対する発信者情報開示命令
②サイト管理者に対して、プロバイダへのログ提供命令(①の審理中)
③サイト管理者・プロバイダに対し、発信者情報の消去禁止を命じる消去禁止命令(①の審理中)

被害者が発信者情報開示請求を行った場合、SNS等で個人情報をさらす行為には正当性が認められ難いため、結局は投稿者(加害者)の情報が被害者に開示され、法的責任の追及が行われる可能性が高い。

「悪いことをした人だから」では正当化されない

個人の情報を特定してインターネット上にさらす行為の動機の多くは、「悪いことをした人だから個人情報をさらされて当然」というものと考えられる。
しかし、そのような理屈は論理の飛躍であり、一切、行為の正当化の理由になり得ない。なぜなら、「悪いこと」が行われた場合に法的責任を問う権利があるのは、その被害者と、刑罰権を有する国家のみだからである。傍観者にはなんら、制裁を加える資格も筋合いもない。

また、仮に「悪いことをした」としても、その人物は「悪いこと」に対する法的責任を問われる以外の不利益をこうむるいわれはまったくない。
加えて、それ以前にそもそも「悪いこと」をしたかどうかの吟味がいい加減なままであるケースも多い。
実際、今回の「アンパンマンショー喧嘩事件」についても、一般人からみて客観的に誤りのないものと確認できるのは拡散されている映像のみであり、実際に当事者間で前後を含めどのようなやりとりがなされたかの確たる情報は存在しない。
そのような状況下で、当事者の一方を単なる思い込みで断罪し、大きな不利益を与えることに、一片の正当性もない。
とりわけ、インターネット上での情報発信を行う場合には、その情報は真偽を問わず拡散されやすく、場合によっては取り返しのつかないことになりかねないことを、肝に銘じておく必要がある。


編集部おすすめ