治安維持に奔走する警察官といえど、もちろんプライベートはある。とはいえ、羽目を外すような‟出会いの場”へ足を運ぶことはおいそれとできない。

そうしたことへの配慮なのか、警察には所轄単位の「合コン」が存在するという。費用は積み立てた寮費で賄われ、女性は参加費無料。そのため、参加者には事欠かないというが、出会いより食事や景品目当ての「キラー」も紛れ込むそうだ。
勤続約20年の警察OB・安沼保夫氏も、なにを隠そう、手弁当の「警察官合コン」で生涯の伴侶と出会ったという。
出会いから結婚まで「とんとん拍子だった」と振り返る安沼氏。両親へのあいさつ時は「警察官」のブランドが印籠のように“効果”を発揮したそうで…。
※ この記事は、安沼保夫氏著『警察官のこのこ日記』（三五館シンシャ）より一部抜粋・構成しています。

警察官の合コン「寮祭」

独身の寮員のために所轄単位で「寮祭」が行なわれる。高級ホテルの会場を借り、バイキング形式の食事や、ブランド品が当たるビンゴ大会などで女性を招き、寮員との出会いの機会を作るのだ。
一時期テレビでよく放送されていた「自衛隊合コン」の警察版と言えばわかりやすいかもしれない。費用は積み立てた寮費でまかなわれるため、参加しなければ損ということもあり、私もよく参加していた。
寮祭には常連客がいる。それが寮祭キラーだ。
参加費は無料だから、料理を食べて、ビンゴの景品をもらうだけもらったら、そそくさと帰る。
そんな女性たちは「寮祭キラー」と呼ばれ、主催者に忌み嫌われていた。それでも私の周囲にも寮祭をきっかけにつきあったり、結婚したりする人もいたので、なんだかんだで成果が出ていた。
30歳を目前にすると、警察学校の同期たちから次々に結婚の知らせが届くようになった。そんな情報を耳に、私も真剣に寮祭に臨むようになったものの、引っ込み思案なところもあり、思うような成果はあげられないままだった。

「手弁当寮祭」で出会った「運命の人」

年の瀬も迫ったある日、寮の有志たちとバーを貸切にして「手弁当寮祭」を企画した。宴会の終わりごろ、最後の参加女性が遅れて駆けつけた。
童顔にラフな服装で「どこぞの学生が迷い込んだんだ？」と思ったが、聞けばなんと1歳しか違わなかった。芸能人のスタイリストをしており、地元の友だちに誘われ、年末特番シーズンの繁忙期の最中、早めに仕事を切りあげて来てくれたという。
自己紹介もそこそこに一次会がお開きとなり、彼女を含めた数名で二次会のカラオケになだれ込む。この日は外泊届を出しているから門限を気にしなくていい。有事にも対応可能だ。
カラオケに着いて早々、タバコに火をつける彼女。
今も昔もノンスモーカーである私は辟易（へきえき）したものの、話してみるとあっけらかんとした性格で気が合った。
タバコをふかしながらmihimaru GTを歌う彼女になんとなく惹かれた。
朝までカラオケで盛り上がり（有事は訪れなかったが）、彼女はそのまま始発電車で仕事に向かうと言う。タフさに驚いた。
まもなくして訪れたクリスマスの夜、思い切って彼女をお台場の観覧車に誘い、夜景の力を借りて告白に成功。しかし、24時の門限が迫っていたので仕方なく帰ることに。彼女は「シンデレラみたいだね」と笑った。
こうして彼女との交際が始まった。当然、彼女は私が警察官だということを知っていた。ただ、親戚はおろか知り合いにも警察官などいないらしく、警察にも特別な印象は何も持っていなかった。
仕事のことをあれこれ聞いてくることもなく、「夜勤てたいへんでしょ」くらいしか言わなかった。そんなところも気に入った。

付き合って半年で両親へあいさつへ行くと…

つきあい始めて半年ほどすると、互いに結婚を意識し始め、ご両親へのあいさつも兼ねて彼女の実家である鳥取へ泊まりがけの旅行を計画した。
警察官の外泊には届け出が必要だ。「外泊・旅行届」という書類を提出しなければならない。震災など有事の際に所在地を把握し、連絡先を確保するためとされている。
調布署時代、私は月1回、実家の相模原に帰る際に外泊届を出していたが、担当係長からはよく「クルマじゃなくて電車で行けよ」と釘を刺された。車両事故を気にしているのだ。
「もちろんです」と言いながら、黙って実家のクルマに乗っていたが。
鳥取旅行の届け出を提出したところ、上司である中隊長から、「まあ、俺は止めないけど、結婚前なのによくもこんな届けを出せるな。うちじゃ、『そうだ、京都行こう』みたいなノリで旅行行かれたら困るんだよ。上がどう思うか、よく考えろよ」とアドバイスか、小言か、愚痴かよくわからないことをぐだぐだと言われた。逆に反抗心が湧いて、そのまま押し通した。
彼女の実家では、ご両親から「警察官」というだけで無条件に信頼された。

「警察官なら安心だな」「頼りがいがありそうでいいわ」･･････。警察の内情を知っている私としては、「警察官というだけで信頼しちゃいけませんよ」と思ったものの、もちろん口には出さなかった。
出会ってから1年半後に入籍し、その半年後に結婚式を挙げた。
現在、結婚１5年目を迎える。出会ったころ警察にまったく関心のなかった妻は今では、警察ドラマを観ながら、「この刑事はいつになったら異動するんだろう？」「こんなオシャレな髪型してたら上司から怒られるわ？」などとツッコミを入れるほど警察事情に精通している。


編集部おすすめ