「生き地獄だった」加害弁護士“本人”が法廷で尋問も…法律事務所でのハラスメント訴訟、和解成立で原告女性が会見
法律事務所で働いていた元事務員の女性が、男性弁護士からハラスメントを受けたとして損害賠償や解雇無効などを求めた訴訟が、9月27日、東京高裁での和解によって終結した。
11月26日に開かれた記者会見では、原告女性が和解について心情を語った。

げんこつで殴られるなどのハラスメントが原因でうつ病に

原告の女性は2010年から横浜市(神奈川県)の法律事務所で事務員として就労を開始し、2011年頃から、80代の男性弁護士A氏によるハラスメントに悩まされるようになった。A氏の行為は「機嫌が良いときにはセクハラ、機嫌が悪いときにはパワハラ」と表現されるものだった。
具体的には、女性は2012年にA氏に呼び出され「あなたのことが好きで仕方がないんだ」と告げられる、性的な小説を読まされるなどのセクハラを受けていたという。
また2011年頃から2019年9月までの間、A氏は平均して月に3~4回、仕事のミスなどを理由に女性を拳骨(げんこつ)で殴っていた。殴られた箇所が皮下血腫になり、痛みが2~3日残ることが何度もあった。
女性は、A氏の息子であり事務所を親子で共同経営していたB氏に改善のための対処を求めたが、何ら改善されず。女性の体調は悪化し、2019年3月にはうつ病と診断され、同年10月から休職に至った。2020年5月に労災を申請したが、同年7月に解雇され、解雇後に労災が認定される。
労災認定後、女性は代理人弁護士を通じて「業務に起因する疾病を療養するための休養期間中の解雇は無効である」(労働基準法19条)などと主張する書面をA・B両氏に送付したが、解決に至らず。
2022年7月、A・B両氏を被告として、女性は横浜地裁に解雇無効や損害賠償等を求める訴訟を提起。
2024年3月の地裁判決では、A氏に対し約961万円の損害賠償支払いが命じられた。ただし、この金額は提訴前にA氏から女性に支払われた約500万円が控除されているので、実際の損害は約1460万円と認定されている。
原告・被告の双方が控訴したため、東京高裁に審理が移行。

高裁でも一審判決維持の心証が開示されたことから、女性が被告らから解決金の支払いを受け、事務所を退職することで、今年9月27日に和解が成立。
また女性はA氏を刑事告訴もしていたが、和解成立後、告訴を取り下げた。

「法曹界の重鎮である弁護士を訴えることは、とても勇気が必要でした」

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原告女性(11月26日都内/弁護士JPニュース編集部)

和解協議中、原告女性が長期入院することになったため、会見は和解成立から2か月後の11月26日に開かれた。
会見にて、原告女性は「私の勝訴という裁判所の心証開示を受けての和解ですし、和解内容についてある程度満足しています」としつつ、「今も2人の弁護士を許す気持ちにはなれないというのが、正直な私の気持ちです」と語った。
「B氏が犯罪被害者の事件を数多く取り扱っていたことから、私も法律事務所事務員の立場で、数多くの犯罪被害者の方と接していました。
ですが、自分が犯罪被害者の立場になり、今も精神疾患(うつ病)で苦しみ、人生をめちゃくちゃにされ、改めて犯罪被害に遭うことがどれだけ悔しくつらいことか痛感させられました。
この3年半に及ぶ裁判を通じ、被告だった2人の弁護士から、私は一度たりとも謝罪を受けたことはありません。B氏からは労災認定は『全く間違っていると思います』とも否定されました。和解をうけて、今さらですが、2人には、私の受けた被害のほんの一部でも受け止めて欲しいと切に願います。
法曹界の重鎮である弁護士を訴えることは、とても勇気が必要でしたし、今もとても怖い気持ちがあります。精神疾患の発症から6年以上が過ぎましたが、今も病気で働けず労災を受給し、PTSDの症状で苦しみ、通勤で使っていた電車にも乗れず、A氏に似た風貌の人間を見るだけで強い恐怖に襲われる状況です。
以前の私と同じように、日本中に、使用者に対して逆らえず辛い気持ちを抱えていらっしゃる方が多くおられるはずです。私の裁判が報道されることで、私と同じような境遇にある方が一人でも救われることにつながれば、とても嬉しいです」(原告女性)

ハラスメント加害者本人による尋問は「生き地獄」だった

訴訟の過程で、被告側は、「女性がうつ病を発症したことは業務に起因するのではなく、女性の気質や家族関係に原因がある」という旨の主張を行っていたという。

また、代理人弁護士ではなくA氏自身が女性に対して尋問を行い、女性はA氏に対して恐怖を抱いているために遮へい措置が必要になる事態もあった。
原告代理人の嶋﨑量(ちから)弁護士は「被告らの訴訟対応にはきわめて憤りを持っている」と語る。
「(訴訟の)勝ち負けに一切影響のない尋問を繰り返して、女性を不必要に苦しめた。法律家としての倫理観に基づき、すこしでも、無駄な被害を起こさないようにすべきだった」(嶋﨑弁護士)
原告女性も「裁判中も2人の弁護士から私に対する二次被害は続きました」「PTSDの症状が出ている中、周囲が制止するのに、パワハラ・セクハラの加害者であるA氏が自ら法廷で私に対して尋問を続けたのは、生き地獄でした」と語った。
原告代理人の佐々木亮弁護士は「法律事務所でも、残念ながらパワハラ・セクハラは存在する」と指摘したうえで「同じ業界の人間として本件の解決に貢献できてよかった」とコメント。
嶋﨑弁護士も「弁護士の世界は『ムラ社会』と言われており、同じ地域・学校出身の弁護士どうしや同じ弁護士会に所属する弁護士どうしの間では忖度や馴れ合いがある、という誤解が世間にはある」と指摘しつつ、「相手が誰であろうと、弁護士の世界は自律的に問題を解決できる、ということを示せた」と語った。
なお、弁護士JPニュース編集部はB氏にコメントを求めたが、本件和解に口外禁止条項があるため回答はできないとのことだった。


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