【神栖市長選】5時間かけて「開票やり直し」も“同票”のまま…それでも「当選者確定」ではない理由
得票が全く同数でくじ引き決着(公職選挙法95条2項)となった茨城県神栖市長選の全票再点検が26日、茨城・神栖市民体育館で行われた。
くじで敗れた現職・石田進氏の異議申し立てを受けて実施された“開票やり直し”。
開票時の倍近い約5時間に及んだ再点検は、市民ら約300人が見届けるなか、ともに1万6724票(無効票219票)と、再点検前と全く同じ結果となった。

報道陣も集結するなかで再点検はスタート

3万以上の投票総数としては極めて異例の同票決着。負けた側の異議申し立てを受けた全票の再点検は、多数の報道陣も集結する物々しいなかで、午前9時30分にスタートした。
実は作業開始の約1時間前、神栖市周辺は視界を遮るほどの濃霧に覆われていた。ところが、開場時間(午前9時)の10分前になると、一気にモヤが晴れ、太陽がさんさんと注ぎ、青空が広がった。
まず、2つの段ボールに詰められた票が開封され、厳正なチェックを経て、計8人の点検係に配置される。その中から、精査が必要と思われる票を審査票として審査係へ回し、4人の係員らで判定。問題がありそうなら、疑問票として選別される。
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審査票を確認する係員ら(11月26日 茨城県神栖市/弁護士JPニュース編集部)

同様のことがすでに開票時に実施されているが、再点検ということで、作業は「より念入りに」行われた。
今回、とくに命運を分けると目されたのは無効票の再チェック。だが、丁寧には行われたものの、物言いが付いたり、大きく紛糾したりすることはなかった。
再点検終了後、その理由について、神栖市選挙管理委員会・境政一委員長は次のように明かした。
「再点検を望む異議申し立てのなかには、たとえば『石田進進』といった票があり、それは石田票だといったものがありました。
しかし、そういった票ははじめから有効票としてカウントしていました。再点検においても変わりません」
石田陣営にとっては、思い違いもあったようだが、逆にいえば、開票時に選挙管理委員会が、ある程度の弾力を持って票の選別を行うことで、トラブルを最小限に抑える予防線を張っていたといえる。

開票時の倍の時間がかかった理由

そのうえで、再点検では開票時の所要時間(約2時間30分)の倍となる5時間が費やされた。「時間がかかった理由は2つです。ひとつはより丁寧に作業を行ったこと。もうひとつは、人員を減らしたためです」(境委員長)
点検作業は本当に1票1票手際よくしっかりと、そして、誤字脱字・白票など、見落とし、間違いがないよう、抜かりなく、慎重に行われた。
最も時間を要した選挙管理委員会の最終チェックでは、異なる紙片が入っていないか、2枚重なりがないかなど、思いがけない状況も想定し、さらに入念に点検が行われた。
14時40分。採点の作業開始から5時間が経過し、結果が報告されると、参観に訪れた市民の一部からは、驚いたようなどよめきが上がった。どちらかの票が増減し、白黒がはっきりすると考えていた人が多かったようだ。

「一件落着」とはいかない理由とは

これにて一件落着、晴れて新人の元市議会議長・木内敏之氏の初当選確定…と思いきや、まだ関門はあるようだ。
実は異議申し立てが行われた事項のなかには、決着のためのくじを選挙管理委員長がひいたこともあったという。両陣営に配慮した、より公正な形であるべきだったということのようだ。

そうした状況もあってか、全票再点検としては「100点」といえる結果にも境委員長の歯切れはよくなかった。
「今回の結果はあくまでも再点検した結果、得票には問題なかったというだけです。その他の異議申し立てもある中で、それらを棄却するかはまだ決まっていません」
つまり、これで木内陣営の勝利確定というわけではないのが、26日時点の“結果”だ。
もっとも、公職選挙法に詳しい三葛(みかつら)敦志弁護士は、この日に先立って「再点検で結果が覆るようなことがあれば大問題ですが、もしそうなっても木内氏側は徹底抗戦するでしょう」と話しており、そうならなかったことは大きな進展といえる。
今後、もうひと悶着はあり得るものの、事実上、勝敗は決したといえる。
【神栖市長選】5時間かけて「開票やり直し」も“同票”のまま…それでも「当選者確定」ではない理由

開封作業時、慎重に票を扱う係員(11月26日 茨城県神栖市/弁護士JPニュース編集部)

もの珍しもあってか、約300人もの市民が駆け付けた全票開披再点検。くじ引き決着になった後、「選挙をやり直せ」との声もあったというが、少なくとも、この日、5時間の再点検の証人となった市民は今後、1票を無駄にすることはなくなるだろう。


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