産業廃棄物処理業を営む株式会社中商(中島達夫代表取締役)の従業員、奥浜正仁氏(原告)が、同社に対し安全配慮義務違反に基づく損害賠償を求めた訴訟(中商労災訴訟)で、横浜地裁川崎支部は11月28日、原告の請求を棄却する判決を言い渡した。
「著しい不当判決であり、絶対に許せない」
原告側代理人の指宿昭一弁護士は、判決後の会見で強い憤りを表明した。

指宿弁護士によれば、裁判官は当初、安全配慮義務違反の成立について肯定的な心証を示していたという。しかし、最終的には被告企業側の主張を採用する形で、事故の責任を原告個人の「自己責任」に帰する判断となった。

命を奪いかねない危険が放置された現場

法廷闘争の発端は、2023年4月に川崎工場で発生した重大労災事故。原告の奥浜氏は、焼却施設の煤じんを送り出す回転物(スクリュー)が内蔵されたサイクロンコンベアの清掃作業中、左手をスクリューに巻き込まれた。その結果、手指が不自由となる重傷を負い、11等級の後遺障害が認定された。
原告側の訴状によれば、事故の原因は被告会社の安全配慮義務違反、具体的には、当該作業に関する作業マニュアルが存在せず、危険な箇所が放置されていた点にあるとされる。
現場には事故防止を訴求する掲示や、危険箇所へのガード設置等の措置がなかったという。
これに対し、被告側は安全教育について「OJT(※)による教育」を行っていたと主張した。しかし、原告は、そのこと自体が、事実上、危険予知や作業手順が適切に確立・周知されていない状態にあったことを示していると主張する。
※実際の日常業務を担当することを通じて業務に必要な知識を身に付ける訓練(On-the-Job Training)。職場内訓練。
さらに原告が問題視したのは、被告側において過去5年間(2019年4月~2023年3月)に、焼却炉内での熱傷事故(2名)、フェンス未設置箇所からの落下による両かかと骨折事故、破砕機への巻き込まれによる手首切断事故など、後遺症が残る重大労災事故が相次いでいたことだ。
原告側によれば、いずれも「命を落としても不思議はなかった」というレベルの重大事故だったという。
にもかかわらず、マニュアルがない状態は続いていた。
こうしたことも踏まえ、指宿弁護士は、「本判決は、安全配慮義務の根幹を崩しかねない極めて危険な内容を含んでいる」とし、批判の語気を強めた。

「マニュアルなし」も「ルールが確立していた」と認定

判決では、被告側が作業マニュアルを作成していなかった事実を認めた。しかし一方で、事故当時に「作業手順が確立していた」として、安全配慮義務に落ち度はなかったと認定。指宿弁護士は、この認定の根拠が被告側証人として動員された労働者4人(うち3人は過去の労災被害者)の証言のみである点を問題視した。
「被告がマニュアル等の文書がなかったと認めているにもかかわらず、労働者の証言に基づいて『ルールが確立していた』と認定するのは、極めて疑わしい。そもそもそのルールがいつどういう形で周知されたか、原告に伝わったかも明らかではない。
にもかかわらず、『ルールがあった』と認めて被告側が安全配慮義務を尽くしたと認定するなら、どんな労災事故も、会社が従業員に指示して裁判所で証言させれば安全配慮義務違反を免れることができることになってしまう。本判決は、企業による証人への支配と抑圧の現実を追認するものだ」(指宿弁護士)

「不自然な事実認定がされている」

指宿弁護士はまた、裁判官が現場検証をせず、被告側が提出した写真やビデオのみに基づいて判断したことの不当性も指摘した。
現場のコンベアの構造上、スクリューの下に手を入れることは「たぶん物理的にも不可能」であり、「非常に危険で恐ろしいことをなぜしなければいけないのか」という疑念が生じ、常識に照らしても不自然な事実認定がされていると指摘。原告側は、裁判官が現場に来て、労災が発生する危険な作業の実態を直接確認すべきだったと訴えた。

「全国の労働者の命と人権をかけた闘い」として逆転を目指す

指宿弁護士は、「このような判決がまかり通れば、企業がマニュアルを作成せず、口頭で適当な指示を出し、事故が起きても『従業員の自己責任』とし、労災被害者を証人として動員することで責任を逃れるという、極めて危険な前例を作ってしまう」と危機感を募らせた。
「この判決は著しい不当判決であり、絶対に許せない」
原告側は、今回の判決を受け入れず、控訴する意向であるという。
「本裁判は、とりわけ産業廃棄物業に勤める労働者に労働主権、人権をかけた闘いとして広く訴えていかなければならない。
労働者の命と生活、尊厳に関わる裁判だ。裁判所は企業に対し鉄槌を下して、『それじゃダメなんだ』とはっきり伝える使命を果たなければいけない」


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