「子どもたちにもう1人保育士を!」全国保護者実行委員会・全国実行委員会が28日、都内で会見。全国の保育従事者を対象としたアンケート調査の結果について報告した。

調査は今年4月16日から11月1日にかけてインターネットで実施されたもので、全国47都道府県から1万715件の回答が集められた。
全国保護者実行委員会の岩狹匡志(いわさ・ただし)さんによると「保育士の配置基準をめぐる量的調査で、1万人を超えるものはおそらく全国初だ」といい、自由記述欄には6048件、実に回答者の約6割から「もう1人保育士がいたら、こんな保育ができる」という切実な思いが寄せられた。

3~5歳児は基準改正も…1歳児は“加算措置”にとどまる

質問は全10問で、1歳児保育の困難さを可視化するために、食事と排泄場面の具体的な状況を尋ねているのが特徴だ。
背景には、配置基準の“ねじれ”がある。2024年4月、3歳児は55年ぶりに、4・5歳児は76年ぶりに保育士配置基準が改正された。
一方で最も事故リスクが高い1歳児は、依然として「6人に保育士1人」のままで、2025年度から始まったのは、あくまで「5人以下に保育士1人」へと配置を手厚くした園に対する「処遇改善等加算」(※)の措置(以下、加算)にとどまる。
※保育士等の人件費の加算
1歳児への保育士の配置基準そのものは改正されておらず、しかも加算には厳しい条件が課されているため、「現場に降りてこない制度だ」との不満が強い。

「安全確保だけで手一杯」

調査では1歳児の食事場面における不安・困難について、現行の6対1配置を前提に聞くと、「誤嚥(ごえん)事故に注意しながら、安心して食べられるよう見守ること」や「ひとりひとりのペースに合わせた声かけ」と答えた保育者が8割前後に達した。
排泄の場面でも、状況は同じだ。オムツ交換は子どものプライバシーに配慮し、基本的に保育士と子どもが1対1で向き合う必要があるが、その間、残りの子どもたちを少人数で見ることになる。
会見で登壇した東京の民間保育園の保育士は、「1人3分でオムツ交換をしている間、実質11人を保育士1人が見ることになる」と訴えた。遊んでいる子、排泄のサインが出ている子、泣き出す子――そのすべてに目を配ろうと、保育士は常に神経を張り詰めているという。
1歳児クラスの食事の現場は、さらに切実だ。18人クラスで4人が食物アレルギーを持つという保育士は、「床に落ちた食べ物一つが、命に関わる」と語る。

床にこぼれたアレルゲンを触ってしまうだけでも危険があるため、子どもの食べるスピードや咀しゃくの様子を見ながら、同時に床や机の状態にも目を光らせなければならない。
誤嚥予防のための食材の大きさ、姿勢の調整など、配慮すべき点は多岐にわたるが、「今の配置基準では、安全確保だけで手一杯で、ゆったりした食事時間を保障することは難しい」と打ち明けた。

「心がポキッと折れた」

働き続けるために必要なこととして、8割以上が賃金アップと保育士配置基準の改善を挙げた。注目すべきは、保育士不足について「保育士の数はいる。今の現場で働きたい保育士がいないのが問題」との指摘だ。
会見に出席した保育士からは次のような悲痛なコメントが続いた。
「集計した自由記述にあった『心がポキッと折れてしまいました』との回答に自分を重ねました。休憩もなく、トイレに入る間にお茶を飲み込み、息つく暇もなく子どもの元に戻る日々。事務作業も残業か持ち帰りです」
「怪我をさせないよう、『あれダメ、これダメ』と制限ばかりの保育になり、描いていた理想とは違う。いつ自分の心も折れてしまうか分かりません」
「保育士養成校を一緒に卒業した友人は転職しましたし、同僚も『まだ保育やってるの?』と言われたことがあるそうです。保育という夢を追った仲間が、次々と現場を去っていきます。配置基準が改善されれば、辞める人は減るはずです」

世界水準の保育士配置など政府に要望

アンケートでは、1歳児の配置改善が「加算」措置にとどまっていることについて、回答者の5割が「条件設定をつけるべきではない」と回答。
園長など制度に詳しい層では約8割に達し、理由として約9割が「基準は子どもに等しく適用されるべき」を選択した。

実行委員会も「すべての子どもに等しく質の高い保育を保障するには、『加算』ではなく法令による最低基準の改正が必要」と強調。
アンケート調査とは別に11月24日時点で全国から3万6000件を超える賛同署名を集め、政府に対し次の3点を要望した。
第一に、1歳児の配置改善は条件付き加算ではなく法令による最低基準の改正を実施すること。
第二に、2024年度改正済みの3~5歳児については経過措置期間に明確な期限を定め、早急にすべての子どもに新基準を適用すること。
第三に、低すぎる日本の保育士配置基準を世界水準に近づけることだ。
政府の総合経済対策にも保育士の処遇改善が盛り込まれており、配置基準改善への期待は高まっている。
会見に出席した保護者の男性は次のように述べた。
「子どもたちは日に日に大きくなります。いつかではなく、今すぐの改善が必要です。大人も子どもも大切にされる保育が実現するよう『子どもたちにもう1人保育士を』と今後も求めていきたい」


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