さいたまスーパーアリーナで行われるライブの参加者が、近接する「埼玉県立小児医療センター」の中で目撃されたという情報がSNS上で拡散され、「非常識」と厳しい声が上がっている。
注目されたのは、同医療センターに子どもを入院させているという患者家族が11月23日に投稿した注意喚起のポストだ。
以下引用する。
〈【あんスタ界隈の皆様へ】
本日さいたまスーパーアリーナでコンサートがあるのでしょうか?たまアリの反対側にさいたま赤十字病院と埼玉県立小児医療センターがあります。三次救急の急性期病院です。関係者以外立ち入らないでくださいと看板も立っています。コンビニ、トイレの利用はやめてください。〉
同日、さいたまスーパーアリーナでは、アイドル育成ゲーム「あんさんぶるスターズ!!」(あんスタ)のキャラ役をした男性声優らがライブを行っていた。
患者家族は続けて、〈ノーマスクで院内を歩き回るあんスタの痛バを持った方を目撃しました。免疫力の弱い、今感染症にかかったらアウトな患者さんのご家族があなたの隣にいるかも知れません。軽率な行動は大好きなあんスタの評価を下げることに繋がってしまいます。お願いですからたまアリのトイレを使ってください。〉と投稿した。
報道等によれば、病院では入口に関係者以外のトイレ利用を禁止する看板を設置していたという。
さらに、さいたまスーパーアリーナでも、敷地内の「けやきひろば」から病院に向かうデッキ上で、この先の通行を控えるようライブ参加者向けに看板を立てていたという。
一連のポストは約2000万回表示されており(12月1日現在)、病院内に立ち入ったとされるライブ参加者らに対しては、「ありえない」「モラル以前の問題」と厳しい声が上がっている。

トイレ無断使用は「建造物侵入」

病院は不特定多数が出入りする建造物だが、病院の利用者でない人が、病院の許可なく無断でトイレ等を利用する行為には、モラルの問題を超え「建造物侵入罪」(刑法130条前段)という犯罪が成立する可能性がある。
刑事事件に多く対応する三木悠希裕弁護士は、病院のトイレについては「関係者以外立ち入り禁止」等の掲示の有無を問わず、建造物侵入罪が成立する蓋然性が高いと説明する。
「病院のトイレは、何らかの疾患で免疫機能が衰えている患者が利用することが想定されており、たとえ公立の病院のトイレであっても、管理者が、公衆トイレのように誰でも利用することを認めているとは通常考えられません。
今回のように、病院側が『トイレなどの利用はご遠慮ください』と、ライブ参加者の利用禁止を明示している場合はもちろん、そのような看板を設置していなかったとしても、病院のトイレという性質上、ライブ参加者の利用を認めているとは考えられないことから、無断で利用すればやはり建造物侵入罪が成立し得ると考えられます」

「小児専門の高度医療機関」法的な判断に影響も?

また、今回ライブ参加者が目撃された「埼玉県立小児医療センター」および、隣接する「さいたま赤十字病院」は、患者家族の投稿にもあるように「三次救急」に対応している。
三次救急医療機関とは、他の医療機関では対応できない重篤患者への医療を担当し、地域の救急患者を最終的に受け入れる役割を果たす。患者やその家族にとっては「最後の砦」とも言える病院である。
このことは、「ライブ参加者のトイレ利用を、病院が許可していないであろうということを、より強く推認させる事情と言えます」と三木弁護士は指摘する。
「犯罪の成否自体に大きく影響はしないと思いますが、仮に捜査機関が建造物侵入罪として立件するとなった場合、現場が感染症にかかったら重篤な状態になる可能性の高い小児専門の高度医療機関であるということは、侵入行為が悪質と評価される一因になるかもしれません。
また社会的非難の程度も大きければ、今後の同種事案の抑止のため、起訴をするかどうかの判断に影響する可能性もあるかもしれません」(三木弁護士)

トイレ利用「切羽詰まっていたとしても」

三木弁護士は「生理現象は完全にコントロールできるわけではなく、切羽詰まっている状況だったのかもしれませんが…」とライブ参加者の状況も考慮した上で、「犯罪の成否や立件されるかといった法律的なことは措くとしても、この日、こちらの病院がなぜ『トイレなどの利用はご遠慮ください』という看板を設けていたのか、冷静に想像力を働かせて考えてもらえると良いと思います」と呼びかけた。
さいたまスーパーアリーナに限らず、大規模なドームだけでも、みずほPayPayドーム福岡は、救命救急に対応する「九州医療センター」と近接、大阪・京セラドームも二次救急医療機関である「多根総合病院」に隣接している。
推しから幸せをもらう“推し活”が、誰かの不幸の原因にならないよう、ライブ参加者には配慮が求められている。


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