21世紀・老人福祉の向上を目指す施設連絡会（21・老福連）は12月1日、全国の老人ホーム施設長を対象に実施したアンケート調査の結果を公表し、記者会見を開いた。
調査は3年に一度の介護報酬改定に併せて実施されているもので、今回が7回目。
全国2545の施設長から回答を得た。
調査結果からは、物価高騰や人材不足で経営難に陥った施設長たちが、利用者負担増に「やむを得ない」と答えるまでに追い込まれている深刻な実態が浮き彫りになった。

利用者負担増「やむなし」が反対を上回る異例の結果

今回の調査で最も注目されたのは、2割負担の対象範囲拡大など利用者負担増に対する施設長の意見が大きく変化した点だ。
21・老福連代表幹事の正森克也氏は「今までは『反対だ、利用者負担が増えるなんてけしからん』という空気感があったが、今回は反対の意見を『やむを得ない』という答えが上回った」と説明した。
正森氏は「施設長が自分たちの施設の運営維持に追い込まれている。そういう答えを出してしまわざるを得ない状況の現れだ」と分析。経営の苦しさから、本来は利用者保護を第一に考えるべき施設長が、苦渋の選択を迫られている現状を指摘した。

3年に一度の報酬改定「もう限界」

また、アンケートでは物価高騰や最低賃金引き上げなど、社会情勢の変化に対し、現行の3年に一度の介護報酬改定では対応できないという声が圧倒的多数を占めた。「3年に一度の報酬改定と補助金により対応できている」と回答したのは、わずか約2.5%（複数回答あり、有効回答4469中111）にとどまった。
正森氏は「方法はあるだろうが、少なくとも3年に一度の改定だけで何が起こっても3年間は努力でやりなさいというやり方にはもう限界がある」と強調した。

配置基準緩和に賛成も「生活の質低下」を懸念

加えて、人員配置基準の緩和について、32%（有効回答2076中667）が「賛成」と回答した一方で、約1500施設が「生活の質が低下する」と回答するという矛盾した結果が出た。
正森氏は「生活の質が落ちると言っておきながら、配置基準の緩和はいたし方ないと言っている。これもかなり矛盾した苦渋の回答だ」と指摘。
施設長からは「職員不足により、人員配置が厳しくなってきているため、緩和に賛成」「人材確保ができないから、基準を緩和してくれという消極的な声に変わってきている」という切実な声が寄せられており、21・老福連は「そこまで現場が追い込まれている実態が明らかになった」としている。

「処遇改善に着手しない限り人材は集まらない」

介護人材の確保・定着に最も有効な手立てとして、圧倒的多数の施設長が「介護職員の処遇改善（所得アップ）」を挙げた。
しかし、21・老福連の佐々木政布氏は「現場は所得アップを求めているが、国は『介護職のイメージアップ』や『生産性向上』などばかり議論してきた。処遇改善に着手しない限り人材は集まらない」と訴えた。
実際、厚生労働省の発表では、2023年度の介護職員数は前年度から約3万人減少している。
佐々木氏は「国がやってきた政策が失敗だったことを表している。2040年には272万人の介護職員が必要だが、現状とは全くかけ離れている。10年、20年先の老人福祉を守っていくために、この状況を食い止めなければならない」と危機感を露わにした。

物価高騰で利用者の生活の質に影響

物価高騰の影響について、最も多かった回答は「利用者に対する嗜好や余暇に関する取り組みが減少した」で946施設に上った。
21・老福連の藤田隼平氏は現場の声を紹介しつつ、次のように訴えた。
「利用者さんからは『お米が美味しくなくなった』『外出して子供たちとお寿司を食べに行く予定だったけど、やめた』という声を聞きますし、職員は『敬老祝賀会を豪華にできないかも』『イベントを控えないと』と悩んでいます。
この状況は憲法25条の『健康で文化的な最低限度の生活』を脅かすものであり、介護保険法1条が法の目的として規定する『尊厳』も守られていません。
最近、政府による支援パッケージが出されましたが、たとえ経営が回復しても、さまざまな我慢を強いられて亡くなっていった高齢者は戻ってきません」

2割負担で利用抑制の懸念

2割負担の対象拡大について、21・老福連の井上ひろみ事務局長は「利用者にとっては負担が倍になる。年金が少ない人たちにとっては非常に大きな負担だ」と懸念を表明した。
実際、既に2割負担となったことで、毎日のホームヘルパー訪問を週3回に減らしたケースがあるという。

井上氏は「2割負担になっても施設の収入が増えるわけではない。国の負担が減るだけだ。必要なサービスを利用できなければ、保険制度が機能しなくなっていくことになる」と警鐘を鳴らした。
21・老福連は同日、厚生労働省に対し、国費負担割合の引き上げや介護職員の処遇改善、養護老人ホーム・軽費老人ホームの運営費増額などを求める要望書を提出した。


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