その附則には「施行後2年をめどとした見直し」が明記されているものの、ないがしろにされているのが現状で、出演者や業界関係者の不満も膨れ上がっている。同法および憲法訴訟に詳しく、その法的不備を指摘し、見直しも訴える平裕介弁護士に聞いた。
なぜ政府は“放置”続ける?
AV新法の附則には「施行後2年をめどとした見直し」と明記されています。すでに3年以上が経過してもなんのアクションもみられない現状は、立法府である国会の責務という観点から、どのように評価されるべきでしょうか。
AV新法の“欠陥”を指摘する平弁護士
平弁護士: AV新法は、制定過程において、営業の自由等の制限を受け、不利益を受ける当事者(出演者や制作事業者)の意見を直接全く聴かずに作られました。附則(4条)には「施行後2年以内に検討が加えられ、必要な措置が講ぜられる」という検討条項が明記されていたにもかかわらず、3年以上たっても与党の国会議員などはまったく手を付けていないとみられる現状があります。
少なくとも不利益を受ける当事者に直接ヒアリングをしたり意見を募集したりすることをオープンに公平に行っているということは確認できていません。これでは、「全国民の」代表者であるはずの国会議員(憲法43条参照)で構成される立法府の責務を果たしているものとはいえず、民主主義・立憲主義(※)の観点からも極めて問題のある事態であり、とても不誠実対応です。
※近代憲法の大原則である、専断的国家権力を制限し、国民の権利・自由を守るという考え方(芦部信喜「憲法 第八版」(岩波書店)P.5など)
なぜ政府は見直さないのでしょう。
平弁護士: 水面下では動いている可能性もあるのかもしれません。ただ現状は、立法時に耳を傾けなかった当事者(出演者やメーカー、業界団体)の生の声を直接聴きに行くのを避け、逃げ回っているような印象すらあります。この法律はいわゆる議員立法ですが、不利益を受けている当事者の意見を十分に聞き、国民・市民の権利や利益を守ることよりも、AV新法制定にあたって中心的に動いたと考えられる個々の議員らのメンツの方が優先されているのではないかと疑われても仕方のない状況が今日まで続いているといわなければなりません。
是正に向けては、今度こそ、憲法で「全国民の代表」(43条)と定められた国会議員が、法規制を要望する側と法規制により不利益を受ける側の両当事者の声を聞いて調整することが必要不可欠であり、それが民主主義・立憲主義に適うことになります。
立法事実を十分に検証しなかったことが「地下化」招いた
AV新法の過剰に厳格な規制が「地下化」を招き、違法な個人撮影や海外出稼ぎ売春、無修正ライブチャットなど、法の監視が及ばない領域での新たな人権侵害を深刻化させている現状を、どう分析されますか。
平弁護士: AV新法は、異例ともいうべき極めて短い期間で、不利益を受ける当事者の意見を直接聴かず、また、法律の副作用(弊害)やリスクを十分に考慮しないで作られたといえるでしょう。これは立法事実(法律の合理性を裏付け支える社会的・経済的・文化的な一般事実)の検証が甘かった結果です。重大な不利益を受ける当事者の側のための経過措置を設けず、厳しすぎる規制をいきなり設けてしまった結果、例えば、いわゆる適正AV作品への出演機会が減り、多くの女優が出演できずに廃業に追い込まれたり、やむを得ずメーカーが管理していない裏サイトのような非合法な領域に潜る人たちが出てきてしまいました。
刑事法の研究者らからも地下化の現状等には懸念が示されており、大きな検討課題といえます。
さらに、海外で売春をするような事態(出稼ぎ売春)なども発生しており、このような弊害について、少なくとも今後は十分な検討がなされる必要があります。
AV新法による規制の効果は一定程度ありましたが、不利益を受ける当事者のことや弊害を考慮すべきであり、「法律の目的を達成するために過剰な法規制となっていないか?」という問い直しが必要な状況といえます。
職業選択の自由を侵害する過度な規制に該当する可能性は
現場関係者から、ベテラン女優への「法律説明義務の免除」や「契約から販売までの期間短縮」(1か月・4か月ルールの緩和)を求める声が出ています。これらの規制が、憲法で保障された職業選択の自由(22条1項)を侵害する過度な規制に該当する可能性についてはいかがでしょう。
平弁護士: AV新法の規制の根本的な問題は、立法者側がAV出演者やAV製作に関係する仕事を憲法に定める「職業」としてではなく、出演者を「保護の対象」としてしか見ていないのではないかという点にあります。特に「1か月・4か月ルール」(契約から撮影まで1か月、撮影から公表まで4か月空ける義務)は、女優の活動期間が短い中で最低5か月も公表できないという重い制約を課し、実質的にみて新人俳優らの参入のハードルを相当程度高くしており、しかも何度も出演を繰り返している出演者に対してもこの制限の例外を一切認めていないことなどから、職業選択の自由(憲法22条1項)を強く規制していると言わざるを得ません。
例えば、このルールは違憲性が強いと考えています。是正の方向性としては、昨年6月に日本維新の会・国民民主党が衆議院に共同提出した改正案に盛り込まれたような、出演回数の多い者(2作目以降の出演)や、数か月出演経験のある者など、実態に即した例外規定を設けて適用を除外するなどの緩和措置を採ることが重要です。
出演者の無条件解除権(無理由解除権)の行使により、制作側が多大な金銭的損失(制作費や製造費)を被っている現状に対し、事業者側が被る損害のリスクを低減させるための法的な修正は可能だと考えられますか?
平弁護士: 出演者が作品の公表後1年間、無条件・無理由で契約を解除できる規定は、消費者法領域のクーリング・オフ(長くても10日、最大でも20日程度)と比較して異例の長さであり、私法の大原則である「契約自由の原則」からすると長すぎると言わざるを得ず、少なくともなぜ1年という期間を設けたのか、それを合理的に基礎づける立法事実が十分にあるとはいえないでしょう。この無条件解除権により、制作側は「1か月・4か月ルール」と合わせると1年5か月も法的に不安定な状況が続くことになり、かえって新人俳優等の起用を慎重にさせてしまうという面があります。法的な修正は可能であり、事業者側の損害リスクを低減させるためには、まずこの解除権の行使期間を、他の法規制とのバランスを考慮し、数か月に短縮することが考えられます。
現在の法律の運用では、出演者は受け取った出演料を返還(原状回復)する義務はありますが、制作側が被る制作費や製造費などの損害賠償はされないことになっています。無条件解除の期間の短縮などにより、事業者側の損害についても配慮した修正が今後検討されるべきでしょう。
「被害」強調する名称にも問題
「AV新法」は通称で、正式名称は「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」ですが、この名称も変更すべきではないかという声もあるようです。
平弁護士: AV新法の正式名称は「性行為映像制作物への出演に係る被害」や「出演者の救済」といった「被害」を強調する言葉が使われており、これが他の法律、例えば消費者被害を防止する消費者法領域の法律とは異なり、AV出演をする職業=被害者という烙印(スティグマ)を刷り込むようにも見えてしまう名称に違和感を持つ業界関係者は一定数いるだろうと思います。このような名称は、出演すること自体がすべて被害となるかのような差別的な効果をもたらしかねず、AV出演者やAV製作に携わる人たちの職業に対する職業差別を助長し、それを固定化しかねないため、特に自らの意思で自律的に出演を決めて自ら選択した職業を遂行している人々にとって望ましいものではありません。
たとえば、「特定商取引法」など、他の商取引に関する法律は、消費者被害を防止するものですが、法律名であえて「被害」を強調していません。名称を変更し、「性をめぐる個人の尊厳が重んじられる社会の形成に資するための性行為映像制作物出演契約等に関する特則等に関する法律」のように「被害」等の強調を省くことで、出演者の性に関する自己決定権(憲法13条)や職業選択(憲法22条1項)を尊重する姿勢を立法府が示すことができます。
AV新法の効果と副作用の客観的検証は急務
地下化の進行状況や出演者による取消権の行使実態、また18歳・19歳の出演状況など、新法の効果と副作用を客観的に検証するため、政府や立法府が緊急に行うべき第三者を含めた実態調査の具体的内容について提言をお願いします。
平弁護士: AV新法の効果と副作用を客観的に検証することは急務であり、これは「行政機関が行う政策の評価に関する法律」の趣旨に照らしても重要です。具体的な調査内容は、法律の必要性、有効性、効率性、および弊害(AV新法との関係では地下化の進行状況など)といった政策評価の観点から客観的な検証がなされるべきです。内閣府等の関係する行政機関が、予算をつけて、きちんとしたヒアリングを特に重大な不利益を受けてきた事業者や当事者に対して行い、あるいは統計の専門家組織にも委託するなどして、立法事実を検証する調査を実施する必要があります。
最近の法律でいえば、例えば、いわゆるフリーランス保護法の策定時などは、時間をかけて立法事実に関する実態調査が行われています。
施行から3年以上が経過し、現場の疲弊は深刻といいます。立法府の責務として、政府はいまなにをすべきでしょう。
平弁護士: 少なくともAV新法の附則に定められた「検証」の義務を果たすべきです。方向性としては、法律自体は維持しながらも、法律制定時には無視・軽視されてきた出演者や業界側の意見を反映して見直しの方向性を探っていく必要があるでしょう。全国民の代表である国会議員が、業界の自主ルールも参考にしつつ、両当事者の声を聞いたオープンな議論の場で、法律の修正と最適化を進める必要があると考えます。
<AV新法>
正式名称は「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」で2022年6月23日から施行された。アダルトビデオ出演被害の実態に鑑み、出演被害の発生及び拡大の防止を図り、被害者を救済し、もって出演者の性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資することを目的とし、制定された。年齢、性別を問わず、救済される方法を規定している。
【平裕介】弁護士(東京弁護士会/AND綜合法律事務所)|行政法研究者|「セックスワークにも給付金を」訴訟、映画「宮本から君へ」助成金訴訟、角川人質訴訟違憲訴訟、砂川猟銃訴訟など、憲法訴訟・行政訴訟を中心に担当

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)
![[コロンブス] キレイな状態をキープ 長時間撥水 アメダス 防水・防汚スプレー420mL](https://m.media-amazon.com/images/I/31RInZEF7ZL._SL500_.jpg)







![名探偵コナン 106 絵コンテカードセット付き特装版 ([特装版コミック])](https://m.media-amazon.com/images/I/01MKUOLsA5L._SL500_.gif)