「改正保護司法」成立で“若返り”進むか 現状は77%が高齢者も「無給ボランティアなのに会費徴収」など課題で“人材確保”に苦戦
保護司法等の一部を改正する法律が、3日の参議院本会議において全会一致で可決、成立した。改正法では、「保護司を増やす」「保護司が活動しやすくなる」点に軸足を置いている。

具体的に、前者については、募集条件の見直し、自治体との連携強化、活動期間の延長等が、後者については、更生保護サポートセンターの法制化、市区町村の協力義務、企業の配慮等が挙げられている。(社会学者・廣末登)

罪を犯した人の社会内処遇の担い手である保護司

第二次世界大戦後、更生保護制度は犯罪者予防更生法により国家制度として整備され、保護司や更生保護施設など民間を含む体制が構築された。その後の法改正で保護観察の対象が広がり、体制は発展した。
平成期には更生保護事業法や保護司組織の法定化が進み、2007年の更生保護法により制度が統合され、保護観察と社会復帰支援が強化された。更生保護は民間活動を基盤に官民協働で発展し、再犯防止には保護観察制度の充実が重要であり、その実務は保護観察官と保護司が担っている。

大麻使用の非行や特殊詐欺犯罪等が増加する一方、保護司は高齢化

昨今、保護司の定員確保や高齢化問題が取りざたされている。2016年に全国で4万7939名を数えた保護司登録者は、今年、4万4070人となり(保護観察対象者のケース担当を持てない「特例再任」を除く)、約10年間で3869人減少している。
保護司の年齢別登録者をみると、40歳から59歳の保護司が占める割合は昭和50年代・60年代(1975年~1989年1月7日)に43%前後であったのに対し、今年は22.6%と半減しており、60歳以上が77.6%と高齢化が進んでいる。
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全国保護司連盟サイトより

これでは、サイバー犯罪が高止まりし、特殊詐欺等従事者、20歳代の大麻取締法違反者などが増加を続ける中、保護観察対象者を着実に更生に導くには心もとない。世代的な問題、すなわち、文化的ギャップという点からも、保護司の若返りが不可欠である。
警察庁が発表した「令和6年の犯罪情勢」では、警察庁が2024年10月に実施したアンケートで、「ここ10年で日本の治安が悪くなったと思う」と回答した人は76.6%であり、この割合が年々増加していることが示された。
こうした傾向は、保護司に登録することをためらわせ、現在、保護司登録している人々に負担を強いるなどの問題が想定されるから、保護司の人材不足傾向が続く可能性が否めない。

現役世代の保護司委嘱のハードル

「保護司法等の一部を改正する法律」では、保護司の適任要件が「社会的信望」から「人格識見が高いこと」へと修正され、若年層の確保を意図している。また任期を2年から3年に延長するなど、人材確保に努めているが、文言の変更だけで若返りが進むとは考えにくい。
改正法では、地方公共団体に協力義務を課し、事業主にも休暇取得を促す環境整備を求めるなど、現役世代の活動環境改善が図られている点は評価できる。

しかし、これらは主に役所や大企業の職員を想定しているのではないか。現役世代の保護司には自営業者も多く、こうした改善だけで人材確保が進むかは疑問である。特に、本来の業務以外の「犯罪予防活動(保護司制度の周知や地域活動)」に多くの時間を取られる現状は、現役世代の委嘱を難しくしているのではないか。

年代別、専門家による役割分担という提案

この点につき、改正法の成立に先立ち、第219国会・衆議院法務委員会で、藤原規眞(のりまさ)委員が現役世代と退職世代の役割分担につき提案した。
「現役世代と退職世代を分けて考えるべきだ。本来業務であるケース担当は、現役世代に担ってもらい、犯罪予防活動などは退職世代が中心になってもらう。
さらに、(保護観察対象者の更生を支援する)ケース担当だけでよければ、社会福祉士会、精神保健福祉士協会などの専門団体に推薦依頼して、専門分野を有する保護司を出してもらう推薦システムを作れないか。
また、そうした保護司は、特定の保護区に所属せず、地区をまたいで(広範に)活動できる方が効率的であり、保護司の多様性に資すると考えるが、法務省の考えを伺いたい」
法務省は、「社会福祉士等の職能団体に対して保護司候補者の推薦などは行っている。引き続き、団体や関係機関と連携しながら、保護司適任者の確保に努めたい。地区をまたいだ活動の適否等については、ご指摘のような保護司の方々が確保できた状況を踏まえて検討していく必要がある」と答弁している。

保護司は無給ボランティアだが、年会費を徴収される?

保護司は、法務大臣から委嘱された非常勤の国家公務員であり、無償のボランティアである。いわゆる篤志的精神の持ち主が、自分の時間を割いて、罪を犯した人の更生を助けるために活動している。無給ボランティアであることに多くの保護司は異存がないと考える。

しかし、保護司であり続けるために、年会費を納入しなくてはならないことには、一部で異論がある。政府は、藤原委員の質問主意書に対する答弁書において「保護司会によって様々であり、年会費を徴収する必要があるか否かについて一概にお答えすることは困難」であるという。
藤原委員は、「国はボランティアに依存し過ぎてはいないか。とりわけ、罪を犯した人の更生は、保護司の善意のみに頼ることは無理がある。篤志的な無給の活動に従事する保護司から、会費を徴収することは得心できない。会費制を今後も継続されるのか」と、委員会で問うている。
この質問に対し、政府参考人は次のように述べている。
「保護司会によっては会費を徴収しているところもある。会費の使途も様々であるところ、一概にそれらについて国が支出すべきかどうかという点は検討しなければいけない。この法律が成立した際には、会費の在り方、会費が必要な理由等、検討したい」
2023年3月に閣議決定された「第二次再犯防止推進計画」を実効的なものとするためにも、保護司の若手人材確保、保護観察官の増員、保護司の専門化等など、課題は多い。サイバー犯罪や各種詐欺犯罪に対応できる多様な保護司人材の育成がまたれる。
■ 廣末 登
1970年、福岡市生まれ。
社会学者、博士(学術)。専門は犯罪社会学。龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員。2008年北九州市立大学大学院社会システム研究科博士後期課程修了。著書に『ヤクザになる理由』『だからヤクザを辞められない』(ともに新潮新書)、『ヤクザと介護』『テキヤの掟』(ともに新潮新書)、『ヤクザと介護』『テキヤの掟』(ともに角川新書)等がある。


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