経済的援助を目的とした男性(パパ)と女性が交際する「パパ活」。近年の“ブーム”の裏で、1980年代の「愛人バンク」の流れを汲み、脈々と生き続けてきたのが、会員制の「交際クラブ」という“愛人・パパ活女子斡旋所”だ。

交際クラブは、ある程度の財力がある男性会員から紹介料を受け取り、デートをセッティングすることで利益を得ている。SNSやアプリと異なり、運営会社や生身のスタッフが間に入るため、身元の確かさと安心感がある点が特徴だ。
「風俗ではない」「自由恋愛」と強調されるものの、実際は性的な関係に発展することも想定されたシステムであると言える。
本記事では、漫画家・ラブホテル評論家であり、かつて交際クラブのスタッフとして男女双方の会員の面接などを経験した日向琴子氏の著書『ルポ パパ活』(彩図社、2022年)より、交際クラブの男性会員の中でも“印象深すぎた”人々のエピソードを紹介する。
※『ルポ パパ活』は著者の体験を元に記していますが、プライバシー保護の観点から人名、施設名などの一部を仮名にしてあります。

成人式帰りの女の子と会いたい!

クリスマスも過ぎて年末年始ともなると、家族サービスを行う男性会員が多いので、交際クラブは閑散期となる。
そんな中で毎年、年末になると動き出す名物の会員様がいらっしゃる。
「年明けにある成人式の帰りに会える子をお願い」
と我々スタッフにリクエストするのは、都内在住の61歳、不動産会社経営者のW氏だ。15年前から入会している古参会員で、入会当時からオーダーは一貫してブレない。男性会員約2000名の中で、我々スタッフ全員から「キモい!」と叫び声が上がった男性は二人いるが、そのうちのひとりである。
成人式に出席した後、着物のままで会えるのがベストらしく、着物が無理ならスーツでも良い。とにかく、成人式に出席した後会えることが重要らしい。
察するに、ご自身が若い頃、成人式帰りに思い人とそういう行為をした思い出が強烈に残っているので再現したいのか、「成人式」に萌えるフェチなのだろうと思われる。

もしも、成人式帰りの着物姿の女性と性行為をしたいのだとしたら、終わった後、着付けはどうするのだろう?
大抵の場合、成人式の着物は早朝から美容室に行って着付けてもらうはずである。自分で着付けができる若い女の子はそうそういない。
となると、W氏は着物をはだけさせるだけなのか? それとも、W氏自身が着付けができるのか? ホテルなどに行く前に、服などをプレゼントしてあげて、脱がした着物は持ち帰らせるのか?
悶々としている私に、大御所の設楽さん(※日向氏が勤務していた交際クラブの同僚)が言った。
「下だけ脱がしてするんでしょうよ」
ご本人に聞く訳にはいかないし、実際に会った女の子に聞く訳にもいかないし、未だに謎のままではあるが、相手が見つからなかった時のW氏は、それはそれは悲しそうな声で「仕方ないですね……。来年、またお願いしますよ」と言って電話を切るそうだ。
設楽さんによると、相手が見つかる確率は7割程度らしい。

エジプト型の足の女性を探せ!

もうひとり、我々スタッフから気持ち悪がられてしまったのは、関西方面の大学教授であるY氏(46歳)である。変わった性癖の持ち主だ。
ある日、学会で東京にやってきたY氏は、宿泊先のホテルロビーにスタッフを呼び出すと、時間がないのか、特に質問もなく、入会金11万円と紹介手数料6万円を支払い、ほとんどの女性をデートに誘えるVIPコースにサクサクっと入会した。
翌日、地元に戻ったY氏から早速、
「エジプト型の足の女性を探してほしい」
とオーダーが入った。
エジプト型の足って何?
電話を受けたスタッフの早乙女(※日向氏が勤務していた交際クラブの同僚)は軽くパニックである。他のスタッフも全員思わず聞き耳を立てる。
「エジプト型の足、ですか? Y様、大変申し訳ございません、私、初めてそのような足の形が存在することを知りまして、今、検索しておりますが、なるほど、人間の足にはエジプト型、ギリシャ型、ローマ型、ドイツ型、ケルト型、の5つの種類があるのですね」
早乙女がパソコンで検索しながら一生懸命対応している。
私も思わず、自分のパソコンで検索してしまった。
「一旦、上の者に相談しますので、お時間いただけますでしょうか? Y様のご要望にお応えできるよう、なんとかしたいと思いますので、よろしくお願いします」
電話を切った早乙女が、ため息交じりに設楽さんに相談する。
「昨日入会したYさん、エジプト型の足の女性を紹介しろって言うんです。でも、女性の足の形なんて、私たち誰もチェックしたことないじゃないですか。一人一人に電話して聞くのも気持ち悪がられそうですし、どうしたら良いでしょうか」
前代未聞のオーダーに、思わず戦慄が走る。設楽さんがおもむろに靴下を脱ぎ、
「私、ローマ型だわ」
と検索結果と照らし合わせる。私も思わずスリッパを脱いで見たらエジプト型であった。
もし、エジプト型の女性会員がいなかったら、私がY様に差し出されてしまうのだろうか。
他のスタッフも自分の足を見て、
「私もローマ型です」
「私、ギリシャです」
と申告している。
調べたところ、日本人の8割はエジプト型らしい。
よし、それならなんとか見つかりそうだ。

1ヶ月後…ひとりの女性が現れた

私たちは急遽会議を行い、最終的に、女性会員全員にアンケートを取ってみてはどうか、という結論に達した。
とはいえ、1万6000人以上の女性にアンケートを送るのは効率的ではない。気持ち的には全員にアンケートを送って差し上げたいが、他の業務もあるので、現実的ではない。
Y氏の対象年齢である18歳から47歳までの女性で、都内、関西方面で会える人、として検索しても、数千人がヒットする。さすがに、ひとりのお客様だけのために、そこまでの稼働は割けない。
Y氏の要望は、エジプト型の足の女性、という1点のみであり、顔の良し悪しは問題ではないが、日本人の8割はエジプト型だというのであれば、Y氏の好みの女性の中からでも、充分、探し出せるのではないか、ということで、まずは、Y氏に好みの女性をピックアップしていただくことにした。
最初に上がってきた候補20名にアンケートを送信する。
「会員の男性から、エジプト型の足の女性とデートをしたいとのリクエストを頂戴し、アンケートを取らせていただくことになりました。足の形の詳細は、下記にリンクを貼っておきますので、お手数ですがご確認のうえ、該当する方でデート可能な方は、タイトルをこのままでご返信ください」といった塩梅である。
S倶楽部(※日向氏が勤務していた交際クラブ)創業20年の歴史の中で、このようなアンケートを取ったのは、これが初めてであった。
それにしても、特定の足の形にこだわるなんて、シンデレラを探す王子様か? なんて悪態をつきつつ、私たちは20名の女性全員にメールを送信した。
1週間経って、誰からも返事が来なかったので、再びY氏から気になる女性のリストを提出していただく。2、3回繰り返し、1ヶ月が経過しようとする頃、ようやくひとりの女性が名乗りを上げてくれた。

32歳、事務の仕事をしている女性で、今回が初めてのお誘いである。登録して4年が経過している。Y氏の特殊な性癖がなければ、この先一生お誘いはなかったかもしれない、と思うと、女性にとってはありがたい存在なのかもしれない。
S倶楽部は、毎月100人以上の新規女性が登録に来るので、どうしても一度もお誘いがないまま、どんどん埋もれていってしまう女性が量産されてしまうのだ。
倶楽部としては、せっかく登録していただいたのだから、お誘いがあってほしいのである。倶楽部から何も連絡がないよりは、たとえアンケートでも、反響があるのだ、と思ってもらえる方が嬉しい。
その後、Y氏は半年に1度くらいのペースで倶楽部を利用している。


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