「盗作」疑われた日本画家に高裁が“潔白”認める判決 処分下した公益財団法人に200万円の賠償命令
公益財団法⼈「日本美術院」に盗作を疑われ、同院の理事解任相当処分および展覧会への1年間の出品停止処分を受けた画家の梅原幸雄氏が、処分の無効確認と損害賠償等を求めていた裁判で、12月10日、東京高等裁判所で判決が言い渡された。
東京高裁(梅本圭一郎裁判長)は、原告の訴えを認め、日本美術院に対し、慰謝料等約200万円を支払うよう命じた一審判決を維持した。

判決後の会見で、梅原氏は「私は盗作をしておりません。私に対する処分が、違法かつ無効であったことが認められ、うれしく思います」と語った。

作品が「結果的に似ていた」ため処分

紛争の発端は、2023年3月、画家の國司華子氏が、梅原氏の作品と自身が制作した作品が酷似していると日本美術院に申し立てたことだった。
日本美術院は申し立てを受け、倫理委員会および理事会で審議を実施。同年4月27日、梅原氏に対して「理事解任相当処分」および「1年間の出品停止処分」を行うことを決め、開催していた公募展(院展)に出品されていた梅原氏の作品を撤去した。
さらに翌5月には、同院のホームページ上に「梅原氏本人は明瞭に否定されているものの、当院としては、結果的に他人の作品に類似していると判断したことを理由とする」との記事を掲載することにより、出品停止決議を行った旨を摘示した。
梅原氏は理事を辞任する一方、「國司氏の作品を参照した事実はない」として、処分無効の確認、損害賠償、ホームページの記事削除、謝罪広告を求め提訴した(2024年6月)。
同院による処分の公表や作品撤去により、梅原氏は「盗作作家の汚名を着せられた」と主張。実際に、事前に決定していた版画販売の見合わせや海外展覧会の撤回など、画家としての活動に不利益が及んだという。
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梅原幸雄氏「歌舞の菩薩」(原告提供)

「盗作」疑われた日本画家に高裁が“潔白”認める判決 処分下した公益財団法人に200万円の賠償命令

國司華子氏「発・表・会」(「第五十七回春の院展全作品集23」より)

「盗作」疑われた日本画家に高裁が“潔白”認める判決 処分下した公益財団法人に200万円の賠償命令

梅原幸雄氏「歌舞の菩薩」の小下図(※下書き)(原告提供)

裁判所の判断は?

一審の東京地裁(今年4月23日)の判断は以下の通り。
まず、原告の請求のうち、処分の無効確認の請求について、「原告の利益の回復のために現在の紛争の解決手段として適切な手段であるとは言えない」として、訴えの利益が認められないと判断し、却下した。
次に、作品の出品停止・撤去にかかる慰謝料等の損害賠償の請求については、日本美術院が梅原氏の処分理由を「制作時に國司氏の作品を認識しえたことではなく、結果責任に基づくもの」と主張したことを受けて、「結果的に他人の作品に類似する作品を制作したこと自体は、法令や同院の定款にも違反するとは解されない」と指摘。
「それにもかかわらず、解任提案は地位の喪失という重大な影響を及ぼす可能性があり、出品停止は自由な表現活動の一定期間の制約という重大な不利益を与えるものである」と認めた。
そのうえで、「各措置は裁量権を逸脱し、または濫用するものであって違法であり、かつ無効である」と認め、日本美術院に対し慰謝料等約200万円の支払いを命じた。

他方で、被告がHPに記事を掲載したことに対する名誉毀損に基づく損害賠償請求、記事の削除請求、および謝罪広告掲載の請求については、記事が公益目的であり、名誉毀損が成立しない以上は原告の請求には理由がないと退けた。
日本美術院は控訴審の口頭弁論後に記事を削除。それに伴い原告も記事削除の訴えを取り下げた。しかし東京高裁は、審理経過に照らし、判決文の中で以下のように付言した。
「記事掲載時の違法性が阻却されるとしても、現時点では、一審被告の倫理規則の解釈が誤っていることが判明するとともに、原告作品が國司作品に依拠して作成されたものでないことが証拠によって裏付けられ、原告作品の制作や公表に問題が無かったことが明らかになっていることからすると、一般の閲覧者をして原告作品に問題があるかのような印象を与える本件記事を引き続きホームページに掲載する必要性や相当性は既に失われているというべきである」
これを踏まえ、記事の掲載については「一審原告の名誉権を侵害する違法なものであり、本件記事の削除請求は、(一審の口頭弁論終結時点では)人格権に基づく妨害排除請求として認められるべきものであった」とした。
これは、記事の削除請求等を認めなかった一審の判断に問題があったことを指摘するものといえる。

梅原氏「院の主張では富士山も描けなくなる」

梅原氏は会見で、高裁判決が〈原告作品が國司作品に依拠して作成されたものでないことが証拠によって裏付けられ〉と認めたことに触れ、「書いてほしかった部分を書いてくれた」と喜びを語った。
原告代理人の渥美陽子弁護士も「日本美術院側は、実際に盗作したかは訴訟上では争わないと言っていました。そのため地裁も盗作が事実だったかについては判断しませんでした。ただ高裁は、梅原氏にとって作品が盗作であったかが、非常に重要な意味を持つということを理解して書いてくれたのだと思います」と評価した。
さらに梅原氏は、日本美術院は処分について「私の作品が國司氏の作品に依拠して制作されたものでなくとも、類似しているのだから『結果責任』を負うと主張していました」と整理したうえで、結果責任に基づく処分は自由な表現としての創作活動に制限を与えるものだと改めて批判した。
「日本美術院の主張を前提とすると、普遍的なモチーフを描こうとする場合、たとえば富士山を描く際に、先人の作品に似てないか逐一確認して類似しないようにしなければなりません。
このようなことは現実的に不可能です」と述べ、作品が酷似しているとして理事会に申し立てを行った國司氏に対しては「謝罪していただきたい」と求めた。
一方の日本美術院は、弁護士JPニュース編集部の問い合わせに対し、代理人弁護士を通じて「現時点では判決文を入手していないので、コメントは控えさせていただきます。判決文を精読したうえで、今後の対応を考えてまいります」と回答した。


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