12月11日、秋田県の鈴木健太知事が外国人特派員協会(東京・千代田区)で会見し、国内外の注目が集まるクマ被害への対応として自衛隊派遣を要請した経緯や、県としての今後の対策方針を説明した。

県内では66人がクマによる人身事故の被害に

2025年、秋田県内ではクマ(ツキノワグマ)による人身被害が58件発生した。被害者は66名で、うち4名が死亡。
2023年にもクマの大量出没が起こり70人が人身被害に遭ったが、当時と異なり、今年の特徴は市街地を中心に発生していることだという。
また、秋田県独自のクマ通報システム「クマダス」には1万3000件以上の目撃情報が寄せられた(ただし一般人でも通報を寄せられるシステムであるため、同一個体が重複して通報されているケースなども含まれている)。
死亡にまでは至らなくとも、クマによる外傷の9割は顔面に発生し傷跡が残る。「県内での交通事故に比べると実際の死傷者数ははるかに少ないものの、県民には多大な不安が発生している」(鈴木知事)
また、クマ出没のニュースが国内外に報道されることにより、秋田県の観光・宿泊産業や外食産業は深刻な打撃を受けており、経済的な影響がきわめて大きいという。

特例として自衛隊に協力を要請

例年のクマ被害のピークである10月には、37人が人身被害に遭い、目撃件数は約5800件にのぼった。
県内の市町村は猟友会や警察と協力しながら、市街地に出没したり農作物に被害を与えたりする「有害個体」のツキノワグマを駆除してきた。しかし、人手や現場対応力が深刻に不足している状況であったという。
「箱わなを設置しても見回りにいく人や回収する人がいない、駆除しても解体作業が追い付かないなど、かなり限界に近い状態だった」(鈴木知事)
この状況を受け、10月28日、鈴木知事は小泉進次郎防衛大臣に緊急要望。11月5日には「クマ被害防止のための活動に係る協力協定」を締結して、同月30日まで、陸上自衛隊が支援活動を行った。
具体的な活動内容は箱わなの運搬、猟友会員などの輸送、駆除後のクマの運搬、ドローンによる情報収集など。各市町村からは「猟友会員の確保が難しい平日の日中に活動していただき非常に助かった」など感謝の声が寄せられたという。
鈴木知事も、自衛隊は「規律正しく、柔軟な対応をした」と述べつつ、「自衛隊の本来の任務は国防であり、地域の困り事に毎回対応すべきではない、ということは私も理解している。今回は特別な事態だった。
獣害に対しては、自治体・警察での対応力を高めていくのが本来の筋だ」と語る。
ただし、都道府県単位で対策をするには、現状ではリソース不足により非常に難易度が高いという。また、クマのなかには県境をまたいで移動する個体もいることから、県による調査・管理には限界があり、国レベルでの対応も不可欠だと鈴木知事は訴える。
「国には責任をもって、抜本的な獣害対策をやっていただきたい」(鈴木知事)

クマが街に来る背景には人口減少が

「過去に比べてクマの性質が変わってきた。クマは学習能力が高いが、近年は人を恐れなくなったクマが非常に増えている。2023年の大量出没の際には母グマに連れられた子グマも街に出てきたが、『ヒトや街は恐れるものではない』と学習してしまったクマがかなり大量にいるのではないか」(鈴木知事)
クマ被害が突出して大きい秋田県と岩手県は、どちらも人口減少が進んでいる地域だ。「人手不足で里山が手入れできなくなり、荒廃したことが、クマ被害の増加につながっているのではないか」と鈴木知事は語る。
「クマに悪気はなく、ただ食べ物を求めているだけ。ヒトがいるところにクマは来るべきではない、というかつての姿を取り戻すため、ヒトとクマそれぞれの生活圏をしっかりとゾーニングすることが大切だ。
具体的には、柿などの農作物を放置しない、草刈りを行う、などの対処を行いクマがヒトの生活圏に来る理由をなくすことが必要。また、捕獲圧を高めるなどして、クマに『ヒトは怖い』ということを学習してもらう。
現在、頭数の調査を行っている。
まもなく結果が出るが、増えすぎているようであれば、管理的な捕獲や有害個体の駆除がやむなく必要となる。私たちとしては人命を最優先する立場だ」(鈴木知事)
例年、クマは12月から3月まで冬眠に入り、この時期に人身被害はほぼ起こらない。また、そもそもツキノワグマはおとなしく臆病な性質だ。鈴木知事は「目撃件数に比べると人身被害はかなり少ない」と指摘する。
「今年ほど全国的・国際的に秋田のクマ被害が注目されたことはない。事実をしっかりオープンに示すことが、県のPRとしても必要だ。
秋田県には重要無形民俗文化財が17もあり、これは日本で最多。きりたんぽやいぶりがっこなど、独自の文化を守ってきた。外国人の観光客はあまり来ていないが、日本の最後の秘境として、秋田に関心を持っていただければ」(鈴木知事)


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