東京都労働委員会は、日本アクリル化学が工場閉鎖に伴い2020年9月に従業員10名を解雇したことに対して、全労連・全国一般労働組合らが求めていた救済申立てをすべて棄却する命令を12月10日に交付。
労組側は11日「命令は不当であり強く抗議する」として声明を発表し、都内で会見を開いた。

約33億円の設備投資理由に工場閉鎖

日本アクリル化学は、米国に本社を置く大手化学企業ダウ・ケミカルの100パーセント子会社で、名古屋工場を唯一の事業所としていた。
同社は、アクリル樹脂の製造販売を主な事業としており、紙塗工・自動車・建築用塗料など多岐にわたる樹脂製品を製造。労組側は「長年中京地域で雇用の一角を担ってきた」と主張する。
しかし、2019年12月、親会社ダウ・ケミカルの経営方針により、工場閉鎖が検討され始めたという。
会社側は、安全性上の問題を解決するための設備投資に約33億円が必要だが、その投資回収が困難だったことが理由だと説明している。一方、労組側は、工場が毎年黒字経営を続けており、需要も十分にあったと主張し、見解が分かれている。
なお、日本アクリル化学は2021年12月17日に開催された株式総会で解散を決議している。

解雇の有効性はすでに確定

2020年9月30日、会社は名古屋工場を閉鎖し、日本アクリル支部の組合員10名を全員解雇した。この解雇の有効性については、すでに名古屋地方裁判所、名古屋高等裁判所、そして最高裁判所の判断が下されており、いずれも「解雇は有効」という判断が確定している。

会社側、和解金の上乗せから撤回へ

労組側によると、2020年8月には親会社であるダウ・ケミカルの意向をくんだ従業員による第二組合(ジャクリル労働組合)が結成されたという。会社は、この第二組合と早期退職制度に基づく和解条件で合意に至った。
その条件では、第二組合員に対して基本給や年齢別賃金、勤続年数別賃金に加え、4か月分の給与、一時金、さらに賞与の一部が支給されることになっていた。
労組側は、日本アクリル支部の組合員10名には何ももたらされず、これが差別的取扱いに当たると主張している。
その後も協議は続き、会社側は2022年7月20日、約1億1966万460円を日本アクリル支部側の組合員に支払う「和解のための解決案」を提示。
この提案額は、第一次提案の約8084万7460円から約3881万円の上乗せであり、会社が第二組合員との間に差別を認識していたことを示している、と労組側は主張する。

ところが、2022年8月26日の第5回団体交渉において、会社は「もはや和解に至るのは難しい」「双方には考え方にも隔たりがある」として協議を打ち切ったという。労組側は、会社が約1億2000万円の第二次提案を事実上撤回したと述べている。

都労委「団体交渉の拒否、会社側に相当の理由」

都労委の命令書によれば、会社は協議を打ち切った理由として、「組合側の要求と会社提案との間で大きな隔たりがあった」「会社の大幅な譲歩にもかかわらず、組合側に歩み寄りの姿勢がみられなかった」ことを挙げている。
都労委は、会社の対応について以下の通り評価している。
  • 会社が組合側の質問や要望に具体的に回答し、決算書などの資料提供を通じて説明を尽くそうとしていた
  • 労使双方が仮処分決定前を和解交渉成立のタイミングと認識していた中で、会社が大幅な譲歩案を提示したのに対し、組合側が柔軟な対応を示さなかった
都労委はこれらを理由に「双方の主張の隔たりが大きく、すでに議論が膠着(こうちゃく)しており、和解協議を継続しても進展はなかったと見ざるを得ない」「労組側が申し入れた団体交渉を会社側が拒否していることにも、相応の理由がある」などと判断。
会社の対応が「不当労働行為には当たらない」と結論付けた。
一方、労組側は、会社が自ら認めた差別分の支払い回答を突然撤回したことは、労使関係の中であり得ない行為であり、支配介入に当たると主張。団体交渉はあくまで協議であり、複数回の交渉を通じて解決に至るのが通常だと述べている。

「会社を守るための機関なのか」

労組側は、この判断に強く反発。11日の会見で、全労連・全国一般労働組合愛知地方本部の煤本國治(すすもと・くにはる)執行委員長は次のようにコメントした。
「労働委員会は労働者の救済のための機関であるはずが、この命令の内容を読むと『会社を守るための機関なのか』と思わざるを得ません。
命令書は分厚いものでしたが、その中身はこれまでの裁判をなぞっただけで、労働者救済の目線が抜け落ちています」
なお、今後について労組側は「これから協議するのでまだ決定してはいないが、中央労働委員会に申立てを行う方向でまとまるのではないか」との見通しを示した。


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