厚生労働省の審議会では現在、原則1割の介護保険サービスの自己負担について、2割負担の対象者を拡大することなどを検討している。
公益社団法人「認知症の人と家族の会」は12月2日、対象者の拡大に反対する署名3万3259筆を厚労省老健局に提出。
同日、都内で記者会見を開いた。

物価高の中での負担増「世帯の生計が成り立たない」

認知症の人と家族の会は1980年に設立され、45年にわたり認知症の人とその家族を支援してきた当事者団体だ。現在、代表理事の和田誠氏が、社会保障審議会・介護保険部会の委員として、第10期介護保険制度改正の議論に参加している。
今回の要望書では、(1)介護保険サービス利用料2割負担の拡大反対、(2)ケアマネジメント利用者負担導入反対、(3)要介護1・2の生活援助サービス等の地域支援事業への移行反対の3点を掲げている。
和田誠代表理事は会見で「物価高で家計が決して楽ではない中、介護保険サービスの負担引き上げは生活を直撃してしまう。老々介護の世帯やシングル介護の世帯が多い中で、要介護者の負担が上がってしまうと世帯の生計が成り立たなくなる」と強調した。
「認知症の人と家族の会」によると、現在、介護保険サービス利用者の92%は1割負担だ。厚労省は2割負担の対象を、現行の年収280万円以上から、230万円程度まで引き下げる案を示している。これにより新たに約35万人が2割負担となる見込みだ。

「ラーメンが2000円になるのと同じこと」

志田信也副代表理事は「1割負担が2割負担になるというのは、単純に倍の額になることだ。たとえば生活に必要なガソリン代や食費が急に倍になると考えるとどれだけ大変なことかわかりやすいと思う」として、次のように訴えた。
「皆さんの生活の中で、ガソリンが150円から300円になる、ラーメン1杯が1000円から2000円になることを想定できますか。2割負担というのは、そういうことです」(志田副代表理事)
同会が会員から聞き取った事例では、年金が少し上がってラインを超えてしまい、1割から2割になった人や、食費・光熱費の上昇で介護保険料以外の負担も増え、グループホームを出ざるを得なくなった人もいるという。
和田代表理事は「介護保険のところだけではなく、周りの物価が上がっているのが非常に大きい。
可処分所得がもっと減っている」と指摘した。

要介護1・2は「一番きつい」認知症介護の現場

要介護1・2の生活援助サービスを地域支援事業へ移行する案については、東京都支部の佐々木元子代表が「要介護1・2は認知症の人にとって重要なタイミング。プロの人が面倒を見ているのを、地域のボランティアができるのかと疑問が残る。しわ寄せは家族にくる」と懸念を示した。
和田代表理事も「要介護1・2は決して軽くない。在宅介護であれば一番きついのは要介護1・2だ。地域支援事業がそもそも未成熟なうちに任せるべきでない」と強調。
「軽度の時に必要な介護が受けられなければ、重度化を早めることにつながりかねない」(和田代表理事)と警鐘を鳴らした。

審議会は「前日レク」「画面共有のみ」の対応

会見では、介護保険部会の審議プロセスについても批判が集中した。和田代表理事によると、給付と負担、制度の持続可能性に関する論点については、事前に資料が配布されず、部会の前日に画面共有のみで説明を受け、翌日には意見を求められるという状況が続いているとして、以下のように続けた。
「他の論点については資料が事前に配布されるのに、給付と負担、制度の持続可能性の確保という論点だけが、直前になって画面共有だけで示されて、資料が手元にないまま発言を求められている。
情報を国民に開示して、公の議論を通じて結論を決めていくという姿勢に欠けているのではないか」(和田代表理事)

「次の世代に介護保険を残したい」

和田代表理事は最後に、制度の将来について言及した。
「子どもの世代に、今の1割のラインを引き継ぎたい。世間で現役世代の負担減が叫ばれる中で、今の若い世代も早ければ数年後には介護が始まっていく。
そしていずれは自分も介護を受けるようになる。やはり今の介護保険を次の世代に残したいという思いが強い」
厚労省側は署名の受け取りに際し「重く受け止める」と回答したが、具体的な見直しの方向性は示されていない。今回提出された3万3259筆の署名は、オンラインと直筆で11月10日から12月11日までの約1か月間で集められた。現役世代からの署名も多く含まれているという。


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