今年も忘年会シーズンがやってきた。ハメを外しがちではあるが、飲みすぎは死につながるリスクもあり、注意しなければならない。

「会社主催の飲み会で死亡した場合、労災は下りるのか?」
今回は、これが争われた裁判について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

亡くなったAさんは、電子機器等の製造をするX社の正社員として機械製造などに携わっていた。
X社では、毎年、仕事納めの日に社内で2時間程度の忘年会を開催し、ほぼ全従業員が参加していた。
この年も、仕事納めの日に、午前中に社内清掃を行い、清掃終了後の正午過ぎ(午後0時45分頃)から、社内で忘年会を開催した。忘年会では、X社が費用全額を負担し、弁当、煮物、鍋、漬物、果物などとともに、缶ビール(350ml)12本、日本酒(1.8l)1本、ジュースが出され、社長やAさんを含む従業員全員の合計7名が参加。忘年会は午後3時頃に終了した。
なお、本件忘年会への参加は強制ではなく、従業員の任意であった。X社は、Aさんを含む従業員全員に対し、当日について、忘年会の開催時間および終了後の時間を含め、所定終業時刻である午後5時までの所定労働時間における勤務を前提とした賃金支払を行っている。
■ Aさんの酩酊(めいてい)状況および死亡に至る経緯
Aさんは、忘年会に出席して飲食し、その際、X社から提供された缶ビールや日本酒を飲んでいた。当日午後2時30分過ぎ頃、支店の従業員と電話で年末のあいさつを交わした際には、呂律(ろれつ)が回っていない状況にあった。
忘年会が終了した午後3時頃以降、他の従業員らが順次帰宅等するのに対し、Aさんは、会社内の荷物用エレベーター付近で体を横たえ、若干嘔吐(おうと)した状態でいびきをかいていた。
これに気付いた同僚が、Aさんの体にジャンパーをかけ、自身の残りの業務を行うなどしていたところ、午後3時30分頃、Aさんのいびきが聞こえず、嘔吐物の吸引による窒息等により呼吸をしていない様子が見られた。
そこで、同僚が通報して、Aさんは病院に救急搬送された。
Aさんは、救急搬送時において心肺停止状態にあり、同病院において心肺蘇生を行った結果、一時的に心拍再開が得られたものの、翌日、急性アルコール中毒が原因で亡くなった。
そこで、Aさんの妻が労災を求めて提訴したのである。

裁判所の判断

Aさんの妻の敗訴である。裁判所は労災を認めなかった。
労災が認められるためには、①業務遂行性、②業務起因性という2つの条件が必要である。最高裁によると、具体的には以下のとおりだ。
「労働者災害補償保険制度が、労基法上の災害補償責任を担保する制度であり、災害補償責任が使用者の過失の有無を問わずに被災労働者の損失をてん補する制度であって、いわゆる危険責任の法理に由来するものであることに鑑みれば、①被災労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること(業務遂行性)を前提として、②当該負傷又は疾病が被災労働者の従事していた業務に内在する危険性が現実化したことによるものと評価されること(業務起因性)が必要」
①業務遂行性について
まず裁判所は、おおむね以下のとおり述べて、忘年会への参加について業務遂行性を肯定した。
  • 本件忘年会は、本来の業務(機械等の製造)とは異なり、仕事納めの日の社内清掃後における1時間ないし2時間程度の懇親、慰労の趣旨で、従業員の任意参加により行われたものでありその際、散会後における従業員の業務は免除され、従業員は、散会後に適宜帰宅することが許されていたものと認められる。
  • しかしながら、本件忘年会は、会社内でX社が主催し、X社の費用全額負担の下、提供される飲食物を用意した上で、勤務時間帯に開催されたものであって、社長を始め従業員全員が参加し、忘年会当日は、終業時刻である午後5時までの所定労働時間における勤務を前提とした賃金支払が行われていた。
  • 本件忘年会の趣旨・性格や一連の事実関係を総合考慮すれば、本件忘年会をもってX社の本来の業務やこれに付随する一定の行為に属するとはいいがたいが、他方で、参加者については勤務扱いを受けることを前提とするX社の主催行事であるというべきであるから、これを純然たる任意的な従業員の親睦活動と見ることはできない。
  • そうすると、本件忘年会に参加したAさんは、業務の延長線上において、労働関係上、X社の支配下にあったものと認めるのが相当である。
②業務起因性について
しかし、業務起因性は否定された。
まず、裁判所は「本件忘年会の目的を逸脱した過度の態様(=飲みすぎ)によるものと認められる場合には、前述の急性アルコール中毒の発症について、業務に内在する危険性が現実化したものとはいえず、業務起因性が認められない」との判断基準を示した。

そこで、いわゆる「飲みすぎたのか?」であるが、裁判所は以下のとおり判示した。
  • 本件忘年会では、参加者7名に対し、缶ビール(350ml)12本と日本酒(1.8l)1本が提供されていたところ、Aさんは、飲酒強要等によることなく、自らの意思で缶ビール(350ml)2、3本を飲んだ後、日本酒(1.8l)1本につき、上司と同僚にそれぞれ若干量を分け与えたほかは、ほぼ一人で独占的に飲み切った。
  • 1時間が経過した頃には、上司から「お前ちょっと早いよ」などと飲酒の速さを指摘されて自制を促されていた。
  • 上記飲酒行為の結果、開始後1時間45分が経過した頃には、支店の従業員と電話での年末のあいさつを行った際には、すでに呂律が回っておらず、何を話しているのか聞き取れない状況であった。
  • 2時間15分が経過した頃には、会社内の荷物用エレベーター付近で体を横たえ、若干嘔吐した状態でいびきをかくなどの酩酊状態に陥っていた。
以上の事実を認定し、裁判所は「Aさんの飲酒行為は、1時間~2時間程度の懇親、慰労の趣旨で行われた本件忘年会の目的から明らかに逸脱した過度の飲酒行為である」として、「業務に内在する危険性が現実化したとはいえず、業務起因性を認めることはできない。よって労災は認められない」旨判断した。

最後に

たとえ会社が主催した忘年会であっても、飲酒の量や態様が「目的を逸脱した過度のもの」と評価される場合には、労災が下りない。参考になれば幸いだ。


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