しかし意外にも、「転売ヤー」にとってバザーは、格好の仕入れ場になり得るという。
本記事では、フリーライター・奥窪優木氏の著書『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書、2024年)から、転売の世界に足を踏み入れた大学生が各地のバザーを渡り歩きながら利益を上げていく過程、そして直面したトラブルのエピソードを抜粋して紹介する。(本文:奥窪優木)
モラトリアムから転売の世界へ
2021年の夏に起きた第5波の感染拡大期を過ぎると、次の第6波までの3ヶ月ほど、コロナ禍はいったんの小康状態に入った。これにより、客足も通常に戻りつつあったバイト先の飲食店から、大学生のSは勤務を再開してほしいと何度も頼まれていた。しかし、転売ヤーとしての収益を時給換算すると、もはや時給1000円ちょっとのアルバイトをする気にはなれなかった。
重要なのは、何を転売するか、である。需要と供給のバランスの隙間こそが狙い目だ。Sも漠然とそこまでは理解していた。
かといって、PS5のゲリラ販売のような購入イベントは、情報収集能力やマンパワーの面で、組織的転売ヤーに太刀打ちできない(※)。行列に長時間並ばなければ入手できない希少品も、ひとりで手がけるには効率が悪い。
※参考記事:““普通の大学生”が転売ヤーに…「プレステ5」購入するだけで時給1万円、若者の“闘志”に火をつけた「代理購入バイト」の闇
思案を巡らすばかりで、ひと冬が過ぎ去った。新学期を迎え、対面授業が全面再開されたキャンパスには、約2年ぶりの活気が戻っていた。
振り返れば、思い描いた学生生活を送れたのは1年次だけであった。
地方から出てきて一人暮らしとはいえ、特に苦学生というわけではない彼がそこまでアルバイトに打ち込んだのは、旅行資金を作るためだった。カメラが趣味で、高校生のときから「大学生になったら各国を旅行し、思う存分写真を撮りたい」と願っていたのである。
その夢は叶い、1年生の夏休みと冬休みにはそれぞれ東南アジアを放浪。2年に進級する前の春休みには、インドを周遊する予定だった。そのタイミングでちょうどパンデミックに見舞われ、計画はあえなく中止。その後は、授業もアルバイトもままならなくなり、孤独な時間だけが増えた。
パンデミックは彼の将来にも少なくない影響を及ぼしたともいえる。「旅行会社に就職して旅行プランナーとして働きたい」と漠然と思っていた。しかし、多くの学生が就職活動をスタートさせる3年次の前期に彼は特に行動を起こさなかった。旅行業界がコロナ禍の3年間で受けた傷は癒えきっておらず、新卒採用状況が芳しくなかったことも一つの理由だ。
このまま就職してしまっていいのか、というためらいの気持ちもあった。Sは、少年時代に芽生えた世界放浪への憧れに、学生時代の4年間でケリをつけるつもりだった。つまり、学生のうちにできるだけ海外旅行に出かけ、その後はおとなしく会社員として生きていこうというわけだ。
しかし、100年に一度とも言われるパンデミックのせいで、その目論見は頓挫してしまった。旅行会社に就職すれば海外出張には行けるかもしれない。けれども、各地を気ままに放浪するような旅行は2度とできないのでは、と思ったのだ。
そんな逡巡(しゅんじゅん)のなか、ひょんなことから片足を突っ込んだのが、転売ビジネスだった。
「これを職業にすれば好きな時に旅行に行けるのではないか」
そんな考えが、頭に浮かぶようになる。
バザーという鉱脈
ある日、キャンパスを歩いていると、Sは見覚えのある光景に出くわした。大学のボランティアサークルが主催する、青空チャリティバザーだ。電気ポットから漫画本、地方の土産屋で売っていそうな猿の置物……。キャンパス内の目抜き通りの片隅に敷かれたビニールシートの上に、それらが雑然と並べられている。
彼は入学直後、このチャリティバザーで、同じようにビニールシートの上に雑然と置かれていたカメラの交換用レンズを購入したことがある。
すると、過去に4000円前後の価格で取引されていることがわかったのだ。特に欲しいレンズではなかったが、割安感から衝動買いしてみた。
自宅に持ち帰ってそのレンズに対応する一眼レフカメラに装着してみたところ、傷やカビなどのない、状態の良いものであることがわかった。しかし、すでに同種のレンズを持っていた彼は、年季の入ったこのレンズを持て余す。そこで、メルカリで売却することを決めた。
相場にならって送料込みで4000円で出品してみたところ、すぐに購入希望者からメッセージが来た。値下げ要求だ。数回のメッセージのやり取りによる交渉ののち、結局3500円で手放すことにした。バザーでの購入価格は1000円だったため、手数料や送料を引いても1500円以上の儲けである。
思い返せば、これが彼にとっての最初の転売だったのだ。ただ、バザーで中古レンズを購入したことと、中古レンズを売却したことが別々に記憶されていたため、転売の経験として認識していなかった。
なぜあのレンズは相場より格段に安い値段で売り出されていたのだろう。Sは自分なりに考えてみた。
そもそも、バザーの出品物は基本的に拠出を呼びかけて集めた不用品だ。主催者はそのひとつひとつに値付けをしていく。原価がゼロなので、いくらで売っても損することはない。
とはいえ、バザーの主催者は、出品物を販売して得た収入を活動資金に当てたり、寄付したりする。そういった意味では、買い手がつく最も高い値付けをしたいはずである。Sが中古レンズの購入前に確認したように、フリマサイトの価格を参考にすることだろう。
1つだけ、フリマサイトとバザーでは勝手が違う点がある。それはバザーには時間の制限があるということだ。数日程度の開催期間中に、できるだけ商品を売り切りたい。それがバザー主催者の本音だろう。
もちろん数点の売れ残りは、バザー終了後にフリマサイトなどで売ることも可能だ。しかし、出品や発送を誰がやるか、商品の保管場所はどうするか、有志によって運営される非営利団体にとってはなかなか煩雑な問題だ。
そうした事情から、一部の物品に関しては、チャリティバザーとフリマサイトの相場に、乖離(かいり)が発生するのではないだろうか。
とすれば、バザーで仕入れた物品をフリマアプリで転売するというスキームは有効に思える……。
目前のチャリティバザーはこの日が最終日だったようで、転売できそうな商品はすでに残っていない。そこで、スマホで検索してみたところ、チャリティバザーやコミュニティバザーの類は、春から秋にかけて至るところで開催されていることが分かった。
売れ筋商品はスポーツ用品とキャンプ用品
それから、Sは毎週末のようにバザーに出かけるようになる。当初は、登山靴やバックパックなどのアウトドアグッズから、子供のおもちゃ、キッチン用品、衣料品まで、ジャンルは問わなかった。現場でめぼしい出品物があれば、その場でフリマアプリを開いて相場を確認し、利幅が取れそうなものは、電車で持ち帰れる限り購入していった。一方で、フリマサイトで過去に取引履歴のないようなものや、そもそも商品名が不明で検索しようのないもの、真贋(しんがん)の判別がつかない骨董(こっとう)品や美術品、素人目には状態が確認しにくい楽器などは避けた。
バザー通いを2ヶ月ほど続けてわかったことがいくつかある。
まず、高齢者世帯が多いエリアでは、骨董品や美術品の出品物が多く、わざわざ出かけても収穫ゼロで終わることもあった。Sが多少は目利きができるカメラ関連の品も出品されていることが多かったが、それを考慮しても、成果はあまり期待できなかった。
逆に若年世帯が多いエリアでは、スポーツ用品やキャンプ用品など、状態の良いものが多数出品されていた。若い世代は、趣味やライフスタイルの変化が激しいため、不用品になる所有物も多いからだろうとSは分析した。
S独自のエリア分析に当てはまらないのが、教会が主催するチャリティバザーだった。どんなエリアで開催されているかにかかわらず、編み物や石鹸(せっけん)など信徒らが手作りしたと思われる商品がメインで、金目の代物は少なかった。
Sはフリーマーケットにも出かけたことがある。バザーは主催者が提供を受けた不用品をまとめて出品・販売するのに対し、フリーマーケットは複数の出店者が自身の出品物をそれぞれで販売するのが基本である。中古品の青空市という点では似ているが、フリーマーケットの出店者は営利性が強いことも多く、転売向きの掘り出し物は見つけにくかった。
Sは、こうした自分なりの分析をもとに、買い付けに赴くバザーを選ぶようになっていった。
各地で買い集めた商品は、その日のうちに自宅で撮影し、メルカリにせっせと出品した。スポーツ用品やキャンプ用品、衣料品などは、状態さえ良ければ売れ行きが良く、出品した数時間後に購入されることもあった。
対照的に、子供のおもちゃ、鍋や包丁などのキッチンウェアは、なかなか購入者がつかないことも多く、時には大幅に値下げをして在庫処分を行なった。そうでもしなければ、彼の7畳ほどのワンルームの部屋が、モノで溢れてしまうのだ。
売れ筋商品の傾向が掴めてからは、バザーでの買い付けの際に、短時間で売れそうな品物を集中して狙うようにした。
大学が夏休みに入ると、Sはさらに精力的にバザー転売に勤しむ。毎週末に4、5件のバザーをめぐった9月には、過去最高の11万6000円が利益として手元に残った。
時給に換算すると、クリスマス転売よりは3割ほど低い。それでも自ら発案したやり方が通用していることに、充足感を覚えていた。
タワマンバザー入手品で偽物トラブル
そんなSに10月、絶好と思える機会が巡ってきた。ここ数年で相次いで建てられたタワーマンションが林立する都内某所で、バザーが行われるというのだ。
若い子育て世帯の割合が高いうえに、不用品を溜め込んで置くスペースに余裕のない集合住宅ばかりというそのエリアで行われるバザーは、Sのランク付けによると「Aクラス」。タワマンには1億円を下らない部屋も少なくない。天空で暮らす富裕層たちは、フリマアプリで高額がつくような品物であっても、気前よくバザーに拠出するに違いない。
現地に足を運び、Sは自分の読みが間違っていなかったと確信する。出品物は、アウトドアグッズや衣料品など、子育て世帯密集エリアの典型だった。目を見張ったのはそのグレードである。
登山用のトレッキングポールから、キャンプで使う焚き火用具など、中古市場でも人気の高い一流ブランド品が出品されている。しかも、フリマサイトの過去の取引価格の5分の1ほどと、相場と乖離した値付けがされている物も目についた。
そんななか、これまであまり扱ったことのない商品が、彼の目を奪う。あるデザイナーブランドの女性物の財布とカバンが、それぞれ4000円と6500円という手頃な価格で出品されていたのだ。どちらも若干の使用感はあるものの、なかなかの上玉だ。
スマホで検索したところ、定価はそれぞれ約3万円と約5万5000円。フリマサイトを見ても、状態の良いものは定価の6~7割程度の金額で取引されていることがわかった。
「さすが金持ちエリアは違うなぁ」
Sは心の中でそう呟くと、この財布とカバンのほか、トレッキングポールや携帯用ガスバーナー、子供用のスニーカーの計5点、締めて2万2000円分を購入した。
いつものように帰宅してすぐに写真を撮り、フリマサイトに出品すると、1週間以内にすべて買い手がついた。Sはすぐさま発送の手配をした。
ところがである。財布の購入者から、受け取り評価前にこんなメッセージが届いたのだ。
「購入させていただきました商品を正規店に持ち込んで見てもらったところ、偽物であることがわかりました。至急返品させてください」
全く想定外の内容だ。しかし、考えてみればSも真贋の確認はしていない。
手元に残っているのは、出品用に撮影した数枚の写真のみ。その写真とネットで見つけた正規品の写真を比べてみても、特に不審なところはないように思える。正規店に持ち込んだというのは虚偽で、ただの言いがかりの可能性もある……。
なんと返事をすべきか、数時間悩んでいると、畳み掛けるように再度メッセージが届いた。
「お返事をいただけないようでしたら、警察に被害届を出させていただきます」
そこまで言われれば、もう返事は一つしかなかった。
「申し訳ございません。ご返送いただければすぐに返金させていただきます」
その後、返送されてきた品物を、Sはリサイクルショップに持ち込んだ。品物の真贋を知りたかったし、値段次第ではそのまま売ってしまおうと考えたからだ。しかし、その財布を手に取った店員は、すぐにこう言った。
「こちらは……。そうですねぇ、当社の規定では、お取引できないお品物とお伝えするしかありません」
「偽物ってことですか?」
そう尋ねるSに、店員は「こちらでは真贋の鑑定をすることはできませんので」と言葉を濁すばかりだったが、偽物と認定されたことは明白だった。
リサイクルショップを後にしたSは、改めて財布に目をはわせてみた。すると、内側に付けられているタグに書かれている日本語のフォントが、少し不自然に思えた。
この財布を購入したバザーの主催者に返品と返金を要求しようにも、バザーはすでに終了している。開催場所の管理者に連絡するといった方法もあるが、Sの手元にはレシートもなければ真贋鑑定書もない。警察に被害届を出すというのも一つの手かもしれないが、4000円の返金を受けるために、そこまで面倒なことをする気も起きなかった。
何より気になったのは財布とともに購入したカバンのことである。財布と同じブランドで、並べて陳列されていたことを考えると、おそらく出品者も同じだろう。とすればカバンも偽物である可能性が高い。
そちらの購入者からは、すでに「良い」の受け取り評価を受けており、偽物だったという報告も届いていなかった。しかし、被害届を出せば、カバンの真贋についても警察は調べることになるだろう。偽物だった場合、購入者への返金を迫られるはずだ……。
Sは「波風を立てるのはやめよう」と心に決めた。もちろん購入者からクレームが入れば、すぐに返金対応をするつもりだ。ただ現時点では、カバンは偽物だったと確定したわけではないし、確認する方法もない。「俺は善意の第三者だ」と自分に言い聞かせた。
一方で、「勝ち組」が住まうタワマン街のバザーで偽物をつかまされた皮肉に、苦笑いが込み上げていた。金持ちたちの虚飾の一端を垣間見た気分だった。
ライバルが出現
現在、Sはバザー転売を行っていない。偽物トラブルに巻き込まれたことがきっかけではない。バザーでめぼしい代物に出会えなくなったのだ。
冬になってオフシーズンとなったバザーは、翌年の2023年3月に入るとまた各地で開催されるようになった。しかし前年と比べ、利ザヤが取れそうな掘り出し物が明らかに減っていたのだ。
もしかしたら、2022年がバザーの「当たり年」だったのかもしれない。コロナ禍の2年ほどの間、バザーが開催されていなかったことや、ステイホームで住環境を見直す動きの中で不用品を処分する人が増えたことで、出品物が稀に見る「豊作」だったと考えることもできる。
また、ライバルも増えた気がした。自分と同様に、スマホの画面を覗き込み、フリマアプリで相場を調べながら、雑多なジャンルの商品を複数点購入していく人や、ホロ付きの軽トラックで乗り付け、自転車やサーフボードなどの大物も含めた多数の商品を持ち帰る人物を目撃したこともあったという。
Sは、バザー転売以外にも同時並行で試行錯誤を重ねていた。そして幸運にも、そのいくつかが軌道に乗りつつあった。
■奥窪優木(おくくぼ ゆうき)
1980年、愛媛県松山市生まれ。フリーライター。上智大学経済学部卒業後に渡米。ニューヨーク市立大学を中退、現地邦字紙記者に。中国在住を経て帰国し、日本の裏社会事情や転売ヤー組織を取材。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』『ルポ 新型コロナ詐欺』など。

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