原告側が同日午後、都内で会見。
被告である共産党側が、神谷氏について「労働基準法が適用されることを否定しない」と準備書面に明記し、労働基準法上・労働契約法上・労働組合法上の「労働者」であることを、正面から認めたことを明らかにした。
「カジュアル除名」で党籍と職を失う
神谷氏の除籍のきっかけは、2023年2月に遡る。同じく元共産党員の松竹信幸氏が、出版した書籍を理由に党から除名処分を受けたことを受け、神谷氏は福岡県委員会の総会で、松竹氏の処分見直しを提案した。提案は否決されたが、神谷氏はこの総会の内容を自身のブログ記事で公開し、同時に党の決定には従うと記載した。
しかし県委員会はこの記事の内容が党規約に違反していると判断し、記事の削除を繰り返し要求。神谷氏が応じなかったため、自己批判も求めてきたという。
一方、神谷氏は「公式に規約違反と認定された場合には記事を削除する」との姿勢をみせ、党規約が禁じている「自己批判の強要」を中止するよう訴えたが、2024年8月、県委員会は神谷氏の除籍を決定。これに伴い、党職員としての地位も失った。
この除籍と解雇について、神谷氏側は「本来なら『除名』の手続きが必要なのに、簡易な除籍の手続きで処分を済ませた『カジュアル除名』であり、実体的にも手続き的にも無効だ」と主張。
さらに、除籍の真の理由は「党執行部と異なる意見を述べたこと」にあると指摘している。
労働者性を明確に認める
これまでの裁判で共産党側は、神谷氏ら党職員について「一般私企業のサラリーマンとは違う、職業的専従活動家」などと位置づけ、労働者性を曖昧にしてきた経緯がある。しかし、原告側は第3準備書面等で神谷氏の労働者性を肯定するのか否定するのか、共産党側に対して明確な回答を求めており、今回ようやく「労働法の適用を前提とする」立場を認めさせた形だ。
会見で神谷氏は、「党は、利潤追求する一般企業のサラリーマンと党職員の性質は違うと言うが、利潤追求をしないというのは、NPO職員や社会福祉法人の保育士にもそのまま当てはまる。だからといって彼らが労働者ではないとは言えないはずだ」と指摘。
「自分自身、かつては労働者なのか職業革命家なのか、整理がつかない状態でしたが、それが曖昧なままでは、今後若い人が入ってこないと危機感を覚え、党内に意見書を出すなど、労働者としての位置づけを明確にするよう訴えていました」(同前)
「黙示の合意」の存否が次の争点に
一方で、被告の共産党側は就業規則などに「党員資格を失えば職員も辞める」と明記されていないことは認めつつ、「党職員は党員でなければ務まらず、党員でなくなれば当然に職員ではなくなるという暗黙の了解があった」と主張している。被告側が黙示の合意を根拠づける事情として挙げるのは、主に以下の5つだ。
- 採用時に入党年月日や党歴を詳しく記載した経歴書の提出を求めていたこと
- 給与規定に「党歴給」「常任歴給」など党内役職や党歴に応じた手当があること
- 職場には党員以外の職員はおらず神谷氏もそのことをよく知っていたこと
- 党員でなければ担えない任務ばかりであること
- 「党員でなくなれば職員もやめる」という運用が多数存在すること
また、神谷氏は会見で一つ一つ反論を補足し、「党歴給はあくまで基本給に上乗せするものに過ぎず、党員以外は職員になれないという証拠にはならない」「家族手当があるからといって、家族がいない人が職員になれないとは言えないのと同じだ」と具体例を挙げた。
裁判所が具体的事実の提示を要求
原告側によると、今回の期日で裁判所は「黙示の合意」について、被告側にかなり踏み込んだ釈明を求めたという。裁判所は、黙示の合意の「内容」「成立時期」を具体的に示すことに加え、それを裏付ける事実や証拠の有無など、詳細な説明を求めている。
原告代理人の平裕介弁護士は「こちらの主張に沿う形で裁判所が問題意識を共有し、被告側に説明を迫っている印象だ」と話し、神谷氏も「少なくとも自分が働いていた間に、除名・除籍を理由に解雇された事例を一度も見たことがない。歴史上初めての事例ではないかと言いたい」と語った。
また、共産党側はこれまで「勤務員規程に基づく解雇」としてきた解雇理由について、今回「普通解雇」であると整理し直したという。
原告代理人の松尾浩順弁護士は、神谷氏が過去に懲戒解雇を受けるような重大な非違行為は指摘されておらず、勤務成績も普通である以上、「通常の意味での普通解雇事由は見当たらない。だからこそ共産党側は黙示の合意を持ち出さざるを得ないのではないか」と分析した。
パワハラ・残業代問題にも波及
訴訟では、地位確認だけでなく、長年にわたるパワーハラスメントも争点となっている。次回の口頭弁論は2026年2月26日に東京地裁で開かれ、神谷氏の意見陳述が予定されている。また、神谷氏は共産党側に対し、残業代の支払いを求める訴訟も提起している。
同訴訟では共産党側が「請求されなかったので払わなかった」と主張していることについて、弁護団は「時効完成を待つブラック企業と同じ発想であり、ブラック企業批判を続けてきた政党として致命的だ」と厳しく批判。
神谷氏は社会保険の統計から、全国に約1970人の党職員がいることを確認したとしたうえで、「自分の裁判で残業代が認められれば、同じシフトで宿直をしていた人たちや全国の職員も請求できるはずだ」とし、この訴訟が個人の問題にとどまらず党全体の在り方を問うものだと訴えた。

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