立花孝志氏“3連続”完全敗訴 望月衣塑子記者を「名誉毀損」と訴えた裁判で…東京地裁は「竹内元兵庫県議をめぐる発信に裏付けなし」と断罪
政治団体「NHKから国民を守る党」(以下「N国党」)党首の立花孝志氏が、東京新聞の記者である望月衣塑子氏のX(旧Twitter)の投稿で名誉を毀損されたとして、同氏に160万円の損害賠償を求めていた訴訟で、東京地裁(加本牧子裁判長)は16日、原告立花氏の請求を棄却した。
望月氏の投稿は、兵庫県の斎藤元彦知事の疑惑を県議会で調査していた竹内英明元県議が自死した翌日に行われ、「立花孝志氏の言動がまたひとつの悲劇を生んだ。
(中略)背景に、立花氏が『犬笛』を吹き続けた結果、SNS上での誹謗中傷がエスカレートしたとの指摘がある」というものだった(直後に削除し、冒頭を「また一つの悲劇が生まれた」と変更し再投稿)。
立花氏は、上記投稿が一般読者に対し、自身が支持者に竹内元県議に対する誹謗中傷を行うよう呼びかけ、竹内氏を自死に追いやった危険な人物であるとの印象を持たせるものであり、自身の社会的評価を低下させるとし、名誉毀損の成立を主張していた。しかし、裁判所により否定された。
判決後の記者会見で望月氏は「(立花氏の言説のような)誹謗中傷やデマが流布する現象はこれからも起き続ける可能性があり、その萌芽がいくつかの選挙などでも見られる。そういうことに抗うためにも、今日のこの判決を、メディアの方にも一般市民の方にも受け止めていただき、今後に活かすことができれば」と語った。

立花氏の主張を全面否定

裁判所は、望月氏の投稿が「①立花氏の言動が相当程度影響した結果、竹内元県議に対するSNS上での誹謗中傷が過熱した事実」と「②竹内元県議が自死した事実」との因果関係があるとして批判する旨の意見・論評であるとした。
その上で、望月氏の表現に「事実の公共性」と「目的の公益性」があることを前提に、①について「立花党首の言動の影響の下に竹内元県議に対するSNS上での誹謗中傷が過熱したと考えたのは自然」とし、②についても「竹内元県議にとっては(中略)精神的に追いつめられた状態にあったと容易に想像できる状況であった」こと等を指摘し、それぞれ重要部分について真実相当性(真実と信じるにつき相当の理由)があると認定した。
加えて、「原告に対する人身攻撃に及ぶような内容は含まれていないから、論評としての域を逸脱したものとはいえない」「故意または過失が認められない」として立花氏の主張を全面的に退け、名誉毀損の成立を否定した。

奥谷県議、小西参院議員に対する「請求の放棄」に続く“完全敗訴”

立花氏は望月氏の他に、兵庫県議会の百条委員会委員長・奥谷謙一県議(自民党)、小西洋之参議院議員(立憲民主党)に対しても名誉毀損等を理由に訴訟を提起し、いずれも自身の請求に理由がないことを認める「請求の放棄」を行っていた。本件については訴訟を継続していたが、全面敗訴となった。
判決後の記者会見において、被告代理人で、奥谷氏と小西氏の訴訟でも代理人を務めた石森雄一郎弁護士は、本判決までの経緯について、以下の通り説明した。
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石森雄一郎弁護士(12月16日 東京都内/弁護士JPニュース編集部)

石森弁護士:「昨年の兵庫県知事選挙の投票日以降、立花氏は、当選した斎藤知事との『二馬力選挙』を行ったことに批判が集まるのを回避しようとして、主だった人間を3人ピックアップして民事訴訟を提起した。奥谷県議、小西参院議員、望月記者だ。
奥谷氏に対しては、立花氏から脅迫を受けた旨の発言について名誉毀損等で、小西氏に対してはXで『公職選挙法に違反する形での二馬力選挙』と投稿したことについて名誉毀損で、そして望月氏に対しては本件のX投稿による名誉毀損で、それぞれ訴訟を提起した。

奥谷氏と小西氏に対する訴訟の中で、十分な証拠資料を提出したところ、立花氏は今年の4月に立て続けに『請求の放棄』を行った。
請求放棄をすると、もう二度と同じ訴訟を提起できない(民事訴訟法266条1項、267条参照)。敗訴判決を受ける前に自分から負けを認め逃亡することを意味し、かなり稀なものだ。
望月氏に対する請求も放棄すると予想していたが、訴訟を継続してきており、立花氏は『絶対勝てる』と確信していたと思われる。その中で、裁判所には素晴らしい判決をしていただき、感謝している」
石森弁護士は、竹内元県議の遺族が立花氏を刑事告訴する際に代理人を務めている。しかし、本件訴訟で竹内氏の遺族から特別な証拠の提供等の協力を仰いだことはないという。
石森弁護士:「竹内元県議のご遺族にこの裁判にご協力願うとなると、心的な負担が大きいと考え、一切そういうことはしていない。
あくまでも、訴訟の初めに望月氏から発信の際にどのような認識を持っていたのかについてすべて聞き取りを行い、それだけで名誉毀損の不成立が十分に立証可能であり勝訴できると判断し、その通りになったということだ」

判決は立花氏の攻撃的言動を「裏付けなし」と断罪

本件判決は、立花氏が行った以下の竹内元県議に対する「攻撃的な批評等」を認定している。
(1)「(竹内元県議が)斎藤元彦知事が嫌いだから虚偽の噂話を流布している」との指摘
(2)「(竹内元県議が)元県民局長の作成した内容虚偽の内部告発文書の作成に関与している」との指摘
(3)「(竹内元県議が)警察から名誉毀損罪で任意の事情聴取を受けている」との指摘
(4)「(竹内元県議が)女性記者と不倫をしている」との指摘
(5)「竹内元県議の事務所や自宅にも訪問するつもりであるから、竹内元県議を見つけたら教えるように」との聴衆への呼びかけ
そして、裁判所はこれらについて「原告(立花氏)が上記各指摘の内容について具体的・客観的な裏付け資料等を示していたとは認められず、竹内元県議が警察から事情聴取を受けているとの点については、後に兵庫県警がそのような事実があったことを否定していた」と、厳しく断罪している。
石森弁護士は、立花氏の情報発信のパターンとそれを信じることの危険性について以下の通り指摘した。
石森弁護士:「立花氏は、自身の言説についていかにも根拠があるようなことを言っていたが、実際には根拠はない。
たとえば、(兵庫県の斎藤元彦知事のパワハラ疑惑を告発した)元県民局長について『10年で10人と不倫』『不同意性交をした』と発言し、『元県民局長が使っていたパソコンの中に証拠がある』と、確定事実であるかのように選挙ポスターに掲載していた。
しかし、後になって、その時点ではパソコンのデータの中身は見ていなかったと言い、『(2024年)12月1日に初めてそのパソコンの中身をとある県職員から見せてもらったら証拠はなかった、もうこの話は終わり』などと言って幕引きしようとした。

彼の言動を線で見ると、いずれもまったく根拠がないことがよく分かってもらえると思う」

立花氏に同調し発信する者も「同罪」

竹内元県議に対する誹謗中傷がエスカレートした背景に、裁判所が「具体的・客観的裏付けが示されていない」と断じた立花氏の発信内容を、一部のいわゆる「著名人」「インフルエンサー」のみならず不特定多数の人が軽率に誤信し、拡散させた事実があることは、論を待たない。
石森弁護士は、インフルエンサーが情報発信した内容を、「具体的・客観的裏付けが示されていない」にもかかわらず無批判に発信することの法的リスクについて、次のように警告した。
石森弁護士:「(立花氏が起訴された名誉毀損等の事実について今後開かれる)刑事裁判の場で、立花氏がウソをつき、いい加減な言動で物事をあおり、場合によっては選挙の結果すら変えてしまう可能性があるということを、刑事裁判を通じてしっかり見てほしい。また、立花氏の主張に乗ったN国党の関係者がどういう責任の取り方をしていくかも見てほしい。
一般人が、立花氏が発する内容をリポスト等により拡散し、『立花氏が言っていることをそのまま伝えただけ』と言っても、法的には通用しない。結局、自分自身の主張と同じに扱われる。
その内容に根拠があると立証しない限りは、名誉毀損に該当する可能性はかなり高く、当然、処罰される可能性もある。立花氏の話に簡単に乗らないでほしい」


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