警察官のやりがい、そして苦悩。それを知るのは経験者だけだ。

在職中の約20年、随分とパワハラにも苦しめられたという、元警察官の安沼保夫氏。退官後に執筆した『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)では、内部の問題点を指摘するなど、経験を素材に一般市民は知り得ない内情を描いた。
そんな同氏が警察官の自死報道が続いた11月、“番外編”として3本(※)の原稿を弁護士JPニュースに寄せてくれた。最終回となる今回は、「仕事で壁にぶちあたったとき、どう向き合うべきか…」。
警察官にとどまらず、職場で行き詰った会社員にも励みになるエールが、ストレートにしたためられている。

番外編①:警察官の自死、なぜ相次ぐ? 「私も一歩間違えば…」暴君上司の壮絶パワハラで退職、OBが振り返る“組織体質”の闇
番外編②: 「警察官を辞めたら終わり」すり込みで“洗脳”…「真面目な人ほど病む」OBが明かす“コンプラ無縁”組織体質の実態

「逃げる」という選択肢

全国の警察官の皆様、特に職場などの人間関係や仕事に行き詰まって悩んでいる皆様、少しだけお付き合いください。
警察官以外の方も読んでいただけたら幸いです。
あなたは今、つらいですか。
仕事のプレッシャーに押しつぶされそうですか。
上司からの圧や、部下からの突き上げに悩んでいませんか。もしくは同僚ともうまくいっていませんか。
警察官なのに、自分が情けなくなりますか。
死にたいと思いますか。

もしあなたが自ら死を選ぶとしたら、それは誰にも止められません。
銃刀法違反被疑者の汚名を被ってまで拳銃を使いますか。組織への復讐でしょうか。
「死ぬのは良くない」なんて綺麗事をいうつもりはありません。「生きていればいいことがある」なんていう保証もどこにもありません。
ですが、死を選ぶ以外に「仕事を辞める」「逃げる」という選択肢もあります。多くの選択肢を持つことで人生が豊かになると思います。
決めるのはあなたです。
どんなに無様な姿を晒してでも、「生きる」という選択肢を選んでいただけることを願っております。

退官時、「裏切者」と呼ばれたが後悔はなし

私事ですが、職場での人間関係に思い悩み、警察官を辞める決断をしました。あのとき、耐えて警察官を続けていれば、充実した警察人生を送れたのかもしれません。
辞めたとき、一部の同僚からは裏切り者扱いされました。それでも後悔はしていません。
悔しさをペンにぶつけ、私の経験を出版という形で一冊の本に残すことができました。
そして今、こうして多くの方に私の想いを伝えることができている。感謝しかありません。
共感してくださる方だけでなく批判的なコメントもありますが、私の想いに対する意見としてすべて有り難く受け止めています。

同期に「勇気と行動力がある」と言われたが

同期の一人から「お前は勇気と行動力があって羨ましいよ」と言われました。
ちなみにその同期は私より階級も上で本部勤務の出世コースにいました。
私が「じゃあ転職活動してみたら」と言ったら、「でもなぁ、職場にバレたらマズいしなぁ」と言ったので、「俺は問題なかったよ」と返したら、「でもなぁ、家族も反対するだろうし家のローンもあるしなぁ」と答えました。
彼は転職したいと思いつつも、結局は現状に満足しているのだと感じました。
現職時、喫煙所あたりで「辞めても行くとこないしなぁ」という愚痴をよく聞いた記憶があります。
そう言っている人は理不尽なことがあっても「仕方ない」を合言葉にお互いの傷を舐め合いながら嫌々仕事を続けている印象です。
本当に辞める気があるのなら、私のように黙って転職活動をする人がほとんどだと思います。
私の敬愛するアーティスト「湘南乃風」の曲の歌詞で「逃げるのも勇気 戦うのも勇気」というフレーズがあります。
私は一度逃げたあと、別の公務員を続けながら、執筆というフィールドで戦い続けています。

公務員でも可能な副業はありますので、「逃げ道」として挑戦するのもよいかもしれません。

警察でのさばるのはジャイアン・スネ夫タイプ

そして警察官を志しているあなたへ。
私はこれまで散々警察の批判を続けてきましたが、別に憂さ晴らしでも警察の弱体化を狙っているわけでもありません。
少しでも警察に興味があれば、積極的に採用試験を受験して欲しいと思います。年齢制限があり、最低限の体力や知識は必要ですが、採用試験さえ突破すれば、あとは気合いと根性で何とかなります。「のび太」タイプの私でも約20年勤まりました。
私が思うに、警察官として必要な素養は、たとえ震え上がっても悪を許さないという心構えだと思います。とある元刑事のYouTuberが「最近の若い警察官はヤクザを見て震え上がるそうだが、けしからん!」と言っていました。
私見ですが、警察では、残念ながらジャイアンやスネ夫タイプがうまくのさばることがあります。
ジャイアンタイプなら、悪には力で押さえつけようとするでしょう。スネ夫タイプなら、うまく取り入って転がす、なんてことをするかもしれません。
しかし、彼らは往々にして、捜査対象に暴行を加えたり、捜査情報を漏らして逮捕されたりする末路をたどることがあります。

真に社会に求められているのは、震え上がっても悪を許さず、誠実に任務を実行しようとするのび太タイプの警察官だと思います。私はのび太タイプの警察官がもっといてもいいと思いますし、そのような警察官にもっと活躍してほしいと思います。
警察官受験というのはハードルが高いと思われがちですが、ぜひ挑戦してみてください。
もし2、3年で辞めたとしても、警察学校でドロップアウトしたとしても、いいじゃないですか。
やらないで後悔するのなら、やって後悔しましょう。
皆さんの挑戦を応援しております。
■安沼保夫(やすぬま・やすお)
1981年、神奈川県生まれ。明治大学卒業後、夢や情熱のないまま、なんとなく警視庁に入庁。調布警察署の交番勤務を皮切りに、機動隊、留置係、組織犯罪対策係の刑事などとして勤務。20年に及ぶ警察官生活で実体験した、「警察小説」では描かれない実情と悲哀を、著書につづる。


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