ワクチン健康被害めぐり「名誉毀損」人気ミステリー作家に罰金30万円の略式命令 東京簡裁
新型コロナウイルスのワクチン接種後に亡くなった人の遺族や健康被害を受けた人を支援するNPO法人「駆け込み寺2020」(京都府長岡京市)の理事が、作家で医師の男性に旧ツイッター(現X)上で誹謗(ひぼう)中傷されたとして名誉毀損で刑事告訴していた件で、東京簡易裁判所が男性に30万円の罰金刑を命じていたことが明らかになった。
12月11日に刑が確定したことを受け、NPO法人の理事と代理人弁護士が17日、都内で会見を開いた。
(ライター・榎園哲哉)

ワクチン接種後の健康被害に関するツイートが発端

世界中で猛威を振るった新型コロナウイルス感染症。日本では2020年1月、初めて感染者が確認されて以来、23年5月に感染症法上の位置付けがインフルエンザと同等の「5類」に引き下げられるまで、約3300万人の感染者が確認された。
この間、感染拡大を防ぐため国によるワクチン接種が進められ、厚生労働省によると、全額公費負担による特例臨時接種の回数は、2021年2月の開始から24年3月の終了までに約4億3600万回に上った。
一方で、ワクチン接種後に、接種との因果関係が疑われる重篤な健康被害も報告されるようになった。こうしたワクチン接種後の健康被害に関するX上の投稿がトラブルの発端だった。
会社経営者の鵜川和久氏は、ワクチン接種後に親族らを亡くした人や健康被害を訴える人たちの相談窓口として、NPO法人「駆け込み寺2020」を設立(2021年9月)。活動について自身のXに投稿していたところ、作家で医師の知念実希人氏が、鵜川氏の投稿を引用する形で、問題の投稿を行った。

刑事と民事の両方で名誉毀損が認められる

会見に出席した青山雅幸弁護士は、知念氏による投稿の内容について次のように説明した。
2023年1月21日、鵜川氏が、遺族から提供された死体検案書(死亡を医学的・法律的に医師が証明する文書)の氏名等をマスキングした画像を添付し、「国は死亡者がどれだけ出れば公に発表するのだ」と投稿した。
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鵜川氏の投稿に添付されていた死体検案書の画像(鵜川氏のXアカウントより)

すると知念氏は、この投稿を引用し、死体検案書について「完全に偽物ですね」「偽造するなど、恥を知るべきです」などと投稿した。
公的文書を偽造したかのように受け取れる投稿に対して、鵜川氏は事実無根の内容で名誉を毀損されたとして、2023年4月25日、知念氏を刑事告訴。
警視庁から書類送付を受けた東京区検察庁は今年11月13日、知念氏の投稿は刑法230条1項が定める「名誉毀損」に当たるとして、知念氏を略式起訴。同18日、東京簡易裁判所が罰金30万円の略式命令を言い渡し、12月11日付で刑が確定した。
なお、刑事告訴より前に、鵜川氏は民事でも知念氏を名誉毀損で提訴し、損害賠償を求めていた。
この民事裁判でも、東京地裁は名誉毀損行為を認め、110万円の支払いを知念氏に命じる判決を下し、すでに確定している(2024年7月9日判決)。
民事と刑事の双方で名誉毀損が認められたことについて、青山弁護士は「民事の判決で出された110万円(の支払いを命令)は、名誉毀損の類似事件ではほぼ最高額と言っていい。罰金刑とは言え、刑事処分まで出たことも含め、知念氏の名誉毀損の程度が悪質だったということを捜査機関と司法が揃って認めたと言える」と語った。

「司法が正当な制裁を加えた」

鵜川氏は会見で、知念氏の引用投稿による“二次的被害”についても言及した。
死体検案書が医師でもある知念氏に「偽造」と指摘されたことで、鵜川氏のXにはおよそ1000件の誹謗中傷が寄せられ、非通知の迷惑電話も相次いだという。
鵜川氏は「ワクチンによって起きた死亡という事実を偽造だと一方的に断じられ、陰謀論者のように扱われた」と当時を振り返った。
さらに、「大切な身内がワクチン接種後、体調に異変をきたし、あっという間に亡くなった遺族が実際にいる。遺族の悔しさ、悲しみ、もっと(ワクチンについて)調べるべきだったという自責の念は、当事者でなければ理解できない」と訴えた。
また青山弁護士は、「ワクチンの副作用や死亡事例について声を上げた告訴人(鵜川氏)のような存在を、集団的圧力をもって排斥しようとする構図は、戦前の社会状況を思い起こさせる」とも指摘。
そのうえで、「司法が正当なサンクション(制裁)を加えたことは、三権分立の一翼を担う裁判所が、自由と民主主義を守る最後の砦であり続けることを示した」と評価した。

「予防接種健康被害救済制度」への申請受理件数は約1万4500件

ワクチン接種による健康被害の報告は、現在も国に寄せられている。
厚労省によれば、ワクチン接種後の副反応について救済を行う「予防接種健康被害救済制度」への申請受理件数は、約1万4500件に上る。このうち約9400件がワクチンと健康被害の関連性を認められている(※)。
さらに「死亡一時金または葬祭料」の認定件数は1056件に上る(いずれも12月5日現在)。
※審査を行う「新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査第一部会」によれば、認定にあたっては、個々の事例ごとに、「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象」との考え方に基づき審査しているという。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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