日本維新の会の国会議員の資金管理団体が政治資金でキャバクラ代等を支出していたことが、相次いで発覚している。
奥下剛光衆議院議員(大阪7区)の資金管理団体は合計12万6500円を支出していた。
「企業から陳情・要望を聞いて意見交換をしてすぐ帰った」「ごちそうになるようなことはすべきではないとの思いから、自分の分を払わせていただいた」という趣旨の弁明を行った。その際の「ポケットマネーでやるには限界がある」という発言は物議を醸した。
また、青島健太参議院議員(比例区)の資金管理団体は合計11万7400円を政治資金から支出していた(収支報告書を訂正)。事務所は、議員本人ではなく秘書が支援者と訪れたものについて「誤って記載してしまった」と釈明した。
キャバクラ等への政治資金支出は、政治資金規正法上、どのように扱われるのか。国会議員秘書を10年間務めた経験があり、政治資金規正法や公職選挙法など「議員法務」に詳しい三葛敦志(みかつら あつし)弁護士に聞いた。

キャバクラも法的には「セーフ」だが…

「そもそもの前提として、政治資金規正法上、「キャバクラ」代に政治資金を支出することは禁じられていません」
三葛弁護士は、政治資金規正法が政治資金の支出目的等に制限を加えてはいないことを指摘する。なぜ、そのようになっているのか。そもそも政治資金規正法はどのような法律なのか。
同法1条は以下のように規定している。
「この法律は、議会制民主政治の下における政党その他の政治団体の機能の重要性及び公職の候補者の責務の重要性にかんがみ、政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治団体の届出、政治団体に係る政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正その他の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、もつて民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする」
三葛弁護士:「政治資金規正法は、政治資金の流れをクリアにすることで、国民がそれを監視、批判できるようにすることが主眼の法律です。直接、政治資金の使途を包括的に事前規制するものではありません。
考え方の是非はさておき、政治資金の使途を規制すると、自由な政治活動が萎縮するおそれがあることから、透明性を確保して、事後的に国民のチェックを受けるとともに、議員に事実上の説明責任を課すこととしたのです。

『規制』法ではなく『規正』法としているのは、政治資金のあり方を正しくすることに主眼がおかれているからです。
したがって、使途の内容それ自体が直ちに違法とされたり、処罰されたりすることは限定的です」
とはいえ、保障されるべき「自由な政治活動」にキャバクラへの支出が含まれ得るのか。
三葛弁護士は、奥下議員が「呼ばれて行くので場所を選べる立場ではない」などと説明したことについて「相手方に事情を説明して断れば、理解を得ることは容易であり、キャバクラへ行かなければならなかった理由の説明として苦しい」と指摘しつつ、「キャバクラへ行くことがやむを得ないと考えられる非常に限られた例外的なケース」として一つの例を挙げた。
三葛弁護士:「たとえば、どうしても緊急に秘密で重要な会合を持たなければならない場合であり、そのキャバクラ以外に適切な場所がないときにそこで話をすることは、論理的にはまったく考えられないわけではありません。
人の目を逃れる場、逃れられる場というのは、実は限られています。料亭やホテルなどでは当然記者や人の目があるわけですし、実はキャバクラ等の方がやりやすいときがあったりするかもしれません。
キャバクラへ行って、別室を使ったり人払いをしたりして、真面目な話をするケースは、まったくゼロとは断言できないということです」

政治家は「使い道」について説明責任を負う

とはいえ、政治資金規正法の趣旨にてらせば、使途が公開されてさえいれば良いわけではなく、「適切か否か」を吟味することが必要不可欠であるという。
三葛弁護士:「政治資金規正法の趣旨が透明性の確保にあるということは、つまり、政治家は、その支出について、説明責任を負うという意味です。その前提がなければ政治資金規正法の存在意義がありません。
政治家は、その支出の事実が公開され、国民の目に触れた時にどう思われるか、メディアにどう受け止められどう批判されるか、予めよくよく考えて行動しなければならないということです。
事前にその出費の是非を検討してまったく問題がないと考えるのであれば、支出した後で説明を求められた際に堂々と説明すればよいのです。逆に、事前に問題があると感じれば、支出すべきでないということになります。
先ほど例に挙げた、キャバクラで秘密の会合をもつケースにしても、例外ではありません。
納得のいく説明ができるかどうかが重要です。
ただし、キャバクラについては、事実上、『どうしてもキャバクラでなければならなかった』ということの説明がきわめて難しく、納得が得られないケースがほとんどでしょう」

「スポーツ紙・夕刊紙のトップを飾っても大丈夫か」

では、事前に是非を検討する場合に、どのような判断基準が有効なのか。三葛弁護士は「理屈では説明が困難」と指摘しつつ、以下のように説明する。
三葛弁護士:「実務的な感覚として、あえて基準を挙げるとすれば『スポーツ紙、夕刊紙や週刊誌に書かれたらどうなるか』ということです。
この感覚で判断すれば、『キャバクラは基本的にダメだろう』といった判断がしやすいのです。もし『●●議員、キャバクラ接待で鼻の下を伸ばしてウハウハ』などと書かれたら、それが真実でなくてもカッコ悪いイメージがついてしまう…などと考えれば、『これはやめておいたほうがいい』ということになります」
なんとも大雑把な基準ではあるが、スポーツ紙や夕刊紙や週刊誌は庶民の世俗的な感覚を代表している面があるので、リスクを避けるために「この支出は大丈夫か」と立ち止まって再検討する意味では有効な方法と考えられるという。

政党によるチェック機能の強化も選択肢

政治資金規正法は使途を限定するより、その使い道について透明性を確保することで、国民のチェック・批判にさらすことを企図している。そうだとすれば、政治家が「法的に問題はない」と開き直ることは筋違いであることになる。
三葛弁護士は、国会議員秘書として現場に携わった経験から、少なくとも国会議員については、政党の本部や都道府県等の地域支部が各議員の支出をチェックして妥当か否かの判断をするしくみもありうると提言する。
三葛弁護士:「政治資金に関する事務を直接担当する各議員の選挙区支部からすると、使い道についていちいち言われるのはすごく嫌ですけれども、そんなことを言っている場合ではありません。政党としての危機管理の問題です。どうせ公開されるものですし。
結局、議員の政治資金の問題が起きたときに、最も大きな批判を受けるのは政党です。
自民党が昨年の衆院選、今年の参院選で過半数を大きく割り込む敗北を喫した大きな理由の一つは、安倍派の裏金問題でした。
問題あるかどうか悩む支出はそう多くはありません。肌感覚としては10~30個に1個ぐらいなので、政党によるフィルターをかければ、おそらく大幅に減ると思います。
もちろん、政治資金規正法は最後は各議員の説明責任を求めるつくりですから、政党が主導するわけにはいきませんが、「これは不適切」と政党からアドバイスすることには一定の意味があります。政党や地域支部等の負担があまりに大きく消極的なのも、現場を知っているとわかりますが、ダメージコントロールとしてはむしろ有意義と考えます」


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