15日正午過ぎ、東京・赤坂の個室サウナ店で客の夫婦が死亡した火事。報道などから、施設の安全管理をめぐる運営会社のずさんな対応が明らかになってきた。

火災が発生した個室では、木製のドアノブが内外両面から外れており、夫婦は閉じ込められた状態だったと推測される。
また、各個室に設置されていた非常用ボタンについても、店のオーナーは警察の調べに対し「今まで受信盤の電源を入れたことがない」と話し、正しく作動していなかった可能性が指摘されている。
現場のドアには人が叩いたような跡が残り、夫の手には皮下出血も確認されているという。火災原因などの詳細は現時点で不明だが、2人は密閉された個室の中で、必死に助けを求めていたとみられる。
今回の事故を受け、施設の運営会社はどのような法的責任を問われることになるのだろうか。

“過失”認められることは「あり得る」

刑事事件や民事事件に幅広く対応する三木悠希裕弁護士は、法的責任について、「運営会社側に『過失があった』と認められれば、民事責任としては、不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償責任が生じることも考えられます。また、刑事責任としては、運営会社の責任者に、業務上過失致死罪が成立する可能性があります」と説明。
そのうえで、今回の火事では、運営会社側に過失が認められることが「あり得る」という。
「非常用ボタンに関して、電源が入っておらず、作動しない状態となっていたことに関しては、利用者が、火災や体調不良等何らかの異常が生じた時にすぐに対処することができないため、運営会社側の過失と評価する根拠事実の一つとなり得ます」(三木弁護士、以下同)

「非常用ボタン等の設置が義務付けられていないとしても…」

公衆浴場法に基づく「公衆浴場における衛生等管理要領」(厚生省生活衛生局長通知)には、〈入浴者の安全のため、室内には、非常用ボタン等を入浴者の見やすい場所に設けること〉と示され、サウナ室への非常用ボタンの設置を推奨している。
しかし、義務化されているわけではなく、未設置の場合の罰則や点検頻度などは明文化されていない。
また、今回火事が発生した施設は、公衆浴場施設ではなく、旅館業法に基づく「旅館業」として自治体に許可を得て開業していたという。旅館業法に基づく厚労省通知には、非常用ボタン等の設置に関する記載はない。
だが三木弁護士は、「法令等において、非常用ボタン等の設置が義務付けられていないことは、運営会社の、サウナ利用者の安全を確保する責任を免れさせるものではありません」と指摘する。
「公衆浴場法に基づく厚労省通知で、非常用ボタンの設置が推奨されていることからも分かるように、運営会社には、サウナ等の利用者の安全を確保するため、異常が生じた場合には、すぐに利用者の安全を確保するための設備や対応を準備する義務があると考えられます。

法令等は、その方法を非常用ボタンの設置に限定していないだけであり、何も用意をしなくて良いわけではありません」

ドアノブの破損は過去にも…責任追及に影響は?

ドアノブの破損については、「過失の有無を考える上で、破損がいつからなぜ生じていたのか、運営会社は把握していた、あるいは把握し得たのかといった点が重要になります」と三木弁護士は話す。
一部テレビの報道等では、同施設では過去に別の部屋でもドアノブの不具合があり、修理が行われていたことがわかっている。
「設備のトラブルが重なったことで今回の事故が起きたとすれば、それらのトラブルのどれか一つでも解消されていれば、今回の事故は起きなかった可能性があります。しかし、すべてのトラブルが見逃されていたということになれば、運営会社の過失が認められる可能性は高いといえるでしょう。
また、過去に同様の施設トラブルが発生していた場合、事故が発生することを予見できたにもかかわらず、非常用ボタンの電源を切ったままにしているなど、今回のような重大な事故の結果を回避する義務を怠ったとして、過失が認定される可能性が高くなると考えられます」
今後の捜査や司法判断では、個々の設備不良の有無だけでなく、運営会社が利用者の安全を確保するために、どのような対策を講じていたのか、厳しく問われることになりそうだ。


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