外国人問題は国内でも注目を集める重要なテーマとあって、「1.72倍」はネット上で物議を醸しました。
本記事では、はじめに、今回警察庁が導き出した「1.72倍」を検証します。次に、性と年齢を考慮した外国人と日本人の犯罪率を算出し、その比較を行います。(本文:津島昌寛(龍谷大学社会学部教授、犯罪社会学・社会統計学))
「1.72倍」を導き出した手順と方法
まず、前提となる用語の意味を確認しておきます。これらは参院内閣委員会における警察庁の答弁で言及された統計資料の数字から特定することができます。- 「外国人」はここでは在留外国人をさします。「在留外国人」とは、就労や留学などを目的として中長期滞在する人と永住者を合わせた外国籍の人のことです。観光など短期の滞在者は含まれません。
- 「犯罪率」は【検挙人口比】をさします。「検挙人口比」は、刑法および特別法に違反して検挙された人数(【検挙人員】)を母集団の人口で割った値のことです。答弁では、特別法の【入管法違反を除いた】検挙人員、検挙人口比を用いています。
図表1 外国人と日本人の検挙人員(令和6年)
一点、注意すべきことがあります。警察庁の答弁では外国人の検挙人員の合計は1万2173人だったところ、今回の筆者の計算では1万3434人となりました。警察庁の計算が間違っていないとすれば、検挙人員の算出にあたって、外国人にのみ、答弁で言及した入管法違反以外に別の違反の検挙人員が除かれている可能性があります。
以下、今回の計算でえられた図表1の外国人の検挙人員と警察庁が答弁で報告した外国人の検挙人員の2つを使って、別々に検挙人口比を計算します(図表2を参照)。
図表2 外国人と日本人の人口、検挙人員、検挙人口比(令和6年)
検挙人員を母集団の人口で割れば、人口当たりの検挙人員(検挙人口比)が求められます。今回の計算では、外国人の検挙人口比は0.356%、日本人の検挙人口比は0.188%となります。警察庁の答弁では、外国人の検挙人口比は0.323%、日本人の検挙の人口比は0.188%となります。
これらの数値をもとに、【今回の計算では外国人の犯罪率(検挙人口比)は日本人の1.89倍】(=0.356÷0.188)、【警察庁の答弁にある外国人の犯罪率(検挙人口比)は日本人の1.72倍】(=0.323÷0.188)という結論を導くことができます。
性別と年齢を考慮した場合の外国人と日本人の犯罪率の比較
今回、警察庁が答弁した犯罪率(検挙人口比)には、性別と年齢が考慮されていません。日本人と比較して、外国人は20代・30代の若年男性が大きく占めています。犯罪学では、若年男性が多くの種類の犯罪において最も高い関与率を示すことが指摘されています。したがって、外国人の検挙人口比は現実よりも高く見積もられている可能性があり、母集団の人口構成を調整し統一した上で、あらためて検挙人口比を比べる必要があります。
具体的には、日本人の性別・年齢別人口比率を外国人のそれに合わせた上で、日本人の検挙人口比を算出します。
算出にあたって、警察庁の犯罪統計には2つ問題があります。1つは、刑法犯の性別・年齢別検挙人員は公表されていますが、特別法犯の年齢別検挙人員は公表されていません。もう1つは、刑法犯の性別・年齢別検挙人員は、外国人と日本人の区別がなく、合計で公表されていることです。
上記の問題をふまえ、以下の対応をしました。まず、今回は刑法犯に絞り、特別法犯を含めません。それから、2つ目の問題への対応です。刑法犯の全検挙人員(19万1826人)と外国人の検挙人員(1万464人)は公表されていますので、全検挙人員のなかで日本人が占める比率(0.94545)はわかります。
そして、刑法犯の性別・年齢別の個別の検挙人員にたいし、0.94545を“一律に”かけて、日本人の刑法犯の性別・年齢別“推定”検挙人員を求めます(図表3・4を参照)。
図表3 刑法犯総数(性別・年齢別検挙人員)
図表4 日本人の刑法犯(性別・年齢別検挙人員)【推計】
これで、最終目標となる数値、すなわち、日本人の性別と年齢を調整した検挙人口比を求めることができます。外国人と日本人の性別・年齢別人口構成比を図表5・6に示します。2つの表を比べると、上述したとおり、日本人の人口構成と比較して、外国人は20代・30代の若年男性が大きく占めていることが、確認できます。
図表5 外国人の性別・年齢別人口構成比
※在留外国人の人数は毎年6月末現在と年末現在の人数が公表されています。
図表6 日本人の性別・年齢別人口構成比
※刑法犯の年齢の対象は14歳以上となるため、14歳人口を知る必要があります。毎月の人口推計は性別・年齢階層別の人口が公表されていますが、年齢階層は5歳階級であり、14歳人口はわかりません。各歳の人口は毎年10月1日現在の確定値として公表されています。
これらの図表5・6をもとにして、性別・年齢を調整した、言い換えると、外国人の性別・年齢別の人口構成比に合わせた日本人の刑法犯の性別・年齢別検挙人員を算出します。具体的には、次の計算式で求めることができます。
計算式
それぞれの特定の集団(表ではセル)ごとにこの計算を施した結果が図表7です。
大切なのは、表の右下の総計23万8586人です。調整前の総計(図表4)は18万1362人でしたので、5万7224人多くなっています。
図表7 日本人の刑法犯(性別・年齢別検挙人員)【性別・年齢調整済】
さらに、この総計を用いて日本人の刑法犯の検挙人口比を求めます。外国人の刑法犯の検挙人口比と合わせて、図表8に提示します。
図表8 外国人と日本人の人口、検挙人員、検挙人口比【推定】
刑法犯における外国人の検挙人口比は0.30064%、日本人の検挙人口比は0.22136%となります。これらの数値をもとに、【刑法犯の外国人の犯罪率(検挙人口比)は日本人の1.36倍】(=0.30064÷0.22136)となります。
刑法犯に限定したこと、さらに、対象の年齢(母集団の人口)が異なるなど、単純に比較することはできませんが、性別・年齢を考慮したことによって、警察庁が発表した「1.72倍」より小さくなっています。
さらに、刑法犯のなかでもより深刻で大きな不安につながる凶悪犯(殺人、強盗、放火、不同意性交等)に限定し、上記の刑法犯と同じ算出方法を用いて、日本人の検挙人口比を計算すると、0.00994%となります(計算のプロセスは省略)。
外国人の検挙人口比は0.01299%です。これらの数値をもとに、【凶悪犯の外国人の犯罪率(検挙人口比)は日本人の1.30倍】(=0.01299÷0.00994)となります。
最後に、今回の計算で得られた刑法犯と凶悪犯における外国人と日本人の検挙人口比をグラフにします。
図表9 刑法犯と凶悪犯における外国人と日本人の検挙人口比【推定】
まとめ:データの情報不足から生じる推定の限界
本記事では、入手できる公的統計を活用して、外国人と日本人の犯罪率を推定して比較しました。しかし、公表されている統計データには限界があり、ここで示した数値は推定にとどまることを断っておきます。さらに、今回の分析は単年(令和6年)の統計を使用していることにも注意してください。また、一括りに外国人犯罪ととらえるのはとても乱暴な議論です。「外国人」という言葉ひとつを例にとっても、そこには、観光客もいますし、留学生など中長期の滞在者、そして、永住者もいます。外国人犯罪の実態を正確にとらえるためには、国籍別、罪種別、さらに(現在は統計が提供されていませんが)在留資格の種類別の分析が不可欠です。
今後、日本の生産人口のさらなる減少にともない、外国人の受け入れ、ならびに、共生社会の実現は避けて通れません。
※同じく外国人と日本人の犯罪率を推定して比較したものに、以下の記事があります。
是川夕, 2025, 「外国人が増加すると治安が悪化するのか? 犯罪統計による検証」, 日立財団グローバル ソサイエティ レビュー.
是川氏の記事は、令和5年(本記事は令和6年)の犯罪統計を用いていること、性別の偏りを考慮していないことなど、データおよびその扱いにおいて、本記事と異なる点がいくつかあります。
■津島昌寛(つしま まさひろ)
龍谷大学社会学部総合社会学科教授。犯罪社会学・社会統計学を専門とする。編著書に『数学嫌いのための社会統計学〔第3版〕』(2023年、法律文化社)など。

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