日本共産党(以下、共産党)の元党員で、党首公選制導入などを訴えた著書を出版したことにより除名処分を受けたジャーナリストの松竹伸幸氏(69)が、党員としての地位確認などを求めた訴訟の第8回口頭弁論が12月22日、東京地裁で行われた。
同日、松竹氏は都内で支援者らに向けた報告集会を開いた。

共産党側「分派」の定義示さず

ことの発端は2023年1月、松竹氏が著書『シン・日本共産党宣言』を出版し、党首公選制の導入を提言したことにある。共産党はこれを「党内に派閥・分派を作る行為」と認定。除名処分を下した。
これに対し松竹氏は、「言論の自由を封殺する不当な処分であり、手続きにも重大な瑕疵(かし)がある」として、2024年に提訴に踏み切った。
原告(松竹氏)側は、処分を決定した会議の議事録や、党が主張する「分派」の具体的な定義を示すよう、求釈明(説明を求める手続き)を行っていた。
しかし、弁護団によると、共産党側はこれに対し「回答しない」、あるいは「議事録は作成していないため開示するものはない」と回答。期日後の報告集会で、原告代理人の伊藤建弁護士は次のように語った。
「党員の身分を奪うという、もっとも慎重に行わなければならない処分を決める会議で、議事録が作られていない。そんなことがあり得るのでしょうか。
党側は松竹氏の処分について『最も慎重に処分を下した』と主張していましたが、仮に議事録を本当に作っていないとすれば、党の説明は矛盾していると言わざるを得ません」
さらに集会では、除籍処分を受けた元共産党員がマイクを握り「今回の『議事録がない』という党の主張は、本当かもしれない。私のときも、所属していた地区委員会は議事録を作っていなかった」と証言。
「表向きは国民の苦難軽減を謳いながら、裏では残業代も払わないブラック企業のような体質がある。共産党の理念に惚れて入党したが、離れた今となっては『このような体質では国民の支持を集められない』と考えるようになった」と述べた。

また、同じく党を除籍となった別の元党員は「(党幹部から)『共産党は重要な問題は活字にしないのだ』と言われたことがある。だが、党にとって一番重要である綱領が明文化されていることを考えると、党の態度は矛盾しているのではないか」と指摘した。

被告側の立場は「法の支配に反する」

本裁判の争点の一つとしてあげられるのが、司法は政党内部の決まりごとにどこまで介入できるかという点だ。
これは、政党や大学、宗教団体などの自律的な団体(部分社会)の内部紛争には、原則として裁判所は関与しないとする考え方で、過去の最高裁判決を足がかりに、被告側は「除名処分は党の内部問題にとどまる」と主張している。
これに対し原告側は、2020年の最高裁大法廷判決が地方議会の出席停止処分について従来の判例を変更した点などを踏まえ、「重大な権利侵害を伴う処分は司法審査の対象となる」と反論。
弁護団の伊藤弁護士は「法の支配」を支える要素として、①憲法の最高法規性、②権力によって侵されない基本的人権、③手続と内容の公正を求める適正手続、④権力の恣意的行使を抑える裁判所の役割――という4つを挙げた。
そのうえで、判例の従来の読み方や、被告側の立場は、このうち④の「裁判所の役割」を事実上放棄したものであり、「裁判所は党の規約解釈や処分が妥当かどうかを審査しない」とする点に問題があると指摘。
人権侵害があっても司法が救済から手を引くのは「司法の職責の放棄」にあたり、「法の支配」に反すると原告側は主張している。
もう一つの争点は、処分の根拠・定義(分派等)を示す資料が開示されない状況で、処分の当否をどう判断するかという証拠・立証の問題だ。
上述の通り、原告側によると、共産党側は「松竹氏が党の決定に反した」と主張しながら、その「党の決定」を裏付ける文書については、「必要がない」「出さない」といった姿勢を示している。
伊藤弁護士は「もし裁判所が『党の決定の中身は分からないが、党がそう言うのだから仕方がない』と共産党側の主張を追認してしまえば、共産党は今後『存在しない決定』を口実に、いわれのない理由で党員を自由に除名することが可能になってしまう」と警鐘を鳴らした。

文書提出命令を申立、来年5月頃に第9回口頭弁論の見通し

原告側は今回の期日で文書提出命令(相手方が所持する文書の提出を裁判所が命じる手続き)を申し立てており、今後松竹氏の処分に関する党の資料の有無や、その具体的な内容を司法手続の中で確認していく構えだと説明している。
次回の期日は、来年3月に非公開の期日を実施し、その後5月のGW明けごろに第9回の口頭弁論が行われる見通しだという。



編集部おすすめ