12月26日(金)~28日(日)、東京都内の「文京区民センター」で『死刑囚表現展2025』が開催される。展覧会に並ぶのは、日本国内の拘置所に収監されている死刑囚によって制作された、絵画作品だ。
21回目の開催となる今年は、確定死刑囚(2024年末時点で106人。矯正統計より)の約2割にあたる21人が応募(複数作品応募可)。植松死刑囚は毎年精力的に作品を応募する“常連”だ。
9月に選考会が開かれ、7人の選考委員(アートディレクター・北川フラム氏、彫刻家・小田原のどか氏、文筆家・五所純子氏、作家・栗原康氏、文芸評論家・川村湊氏、精神科医・香山リカ氏、評論家・太田昌国氏)によって、「表情賞」「新風賞」「輝き賞」など9人の受賞者が決定している。表現展では、受賞作を含むすべての作品が展示される。
死刑囚らの作品、選考委員の評価は?
「独特のものの見方と、筆の力が卓越している」選考委員の小田原氏にこう評されたのは、藤井(旧姓・関口)政安死刑囚(殺し屋連続殺人事件、1970~73年)。
『謹賀新年』藤井政安 ※「おめでとう賞」受賞
今回の応募作『謹賀新年』は、ハガキに書かれた絵。小田原氏は、「空気中を漂っている玉のようなものと、室内に集まっている小さな虫たち、浮かんでいる男性と思しき顔、1つ1つの要素はバラバラでどう見ていったらいいんだろうと悩ましいのですが、世界観がとても説得的」と続ける。
藤井死刑囚の作品は昨年も受賞作品に選ばれるなど高い評価を得ており、「これまでの応募作との対比も魅力的で、とても面白いと思います」と小田原氏は言う。
過去の作品から作風が変化
毎年作品を応募する中、作風に変化がみられる死刑囚もいる。選考委員の北川氏は、風間博子死刑囚(埼玉愛犬家連続殺人事件、1993年)の今作について「すごくお上手」と絶賛するが、初期の作品は「自分が普段、言葉でしゃべるようなことを絵に表す」作風だったことから、「入っていけなくなっちゃって」と振り返る。
しかし数年前からは、「絵を絵にしていくという段階で、極めて形式的な世界ということを求めるようになってきて、大きく変化しだした」と評する。
『命―弍〇弍五の参― ターラナホース』風間博子 ※「新境地賞」受賞
「辛口コメント」がつく作品も
選考委員たちは、応募作をほめるばかりではない。今回、小説を3点出品した死刑囚(ペンネーム「露雲宇流布」)について、五所氏と川村氏は、昨年の選考会で「下手なポルノを読まされるのは、辛い」と辛口な評価をしていた。選考委員の批評は、厳しいものを含めてすべて応募者にフィードバックされており、翌年から応募をやめる者もいるという。しかし同死刑囚はめげずに、昨年に引き続き作品を寄せた。
今年の作品については、女性が主人公の短編が多い、女性の内面を自立的に描いてみようとしているなどの変化が見られたといい、五所氏は「もしかして、私や川村さんの言葉が響いたのかしらと思いながら読みました」とコメントした。
『赤頭黒身龍』露雲宇流布(ペンネーム)
死刑囚ならではの「制約」
そして、応募作の中には、死刑囚という立場や、拘置所という環境による制約が垣間見えるものもある。西口宗宏死刑囚(堺市資産家連続強盗殺人事件、2011年)は毎年大きな絵画作品を制作しているが、選考委員の小田原氏は「この大きさで全体像を見ながら作っていくということはできない状況にあると思われますので、1枚1枚のパーツを部分部分で仕上げて、ご自身は全体像を見ることがない」と指摘。
「西口さんや死刑囚の方々が置かれている状況を含めての応募作だと思いますので、この大きさは重要な意味を持っていると理解しています」と続けた。
『日日夜夜”詫びる”Ⅱ』西口宗宏(大阪拘置所)
また、2004年に発生した「大牟田4人殺害事件」でともに死刑判決を受けた北村孝死刑囚、井上(旧姓・北村)孝紘死刑囚は、兄弟で合作した絵を応募。兄の孝死刑囚は大阪拘置所、弟の孝紘死刑囚は福岡拘置所に収容されている。
死刑囚表現展の運営会メンバーであり、選考会で司会を務めた太田昌国氏は「拘置所の規制もあり、なかなかやりとりが大変だと思うんですが、よく頑張って、このような2人合作の作品を作られています」と評価した。
『兄弟コラボ作!第二弾』北村孝(大阪拘置所)・井上(北村)孝紘(福岡拘置所)
「きわめて身勝手だと感じた」「生きて償う、に賛同したい」来場者のさまざまな声
昨年の『死刑囚表現展』は11月2日~4日に開催され、3日間で1904人が来場した。SNSなどを見た若年層の来場者も多いといい、表現展運営会の深田卓さんは「死刑存置廃止に関係なく、非常にたくさん、ネットを見て参加してくれます」と話す。アンケートには、さまざまな世代の来場者が率直な感想を残している。
- 今まで、死刑囚はずっと極悪人で、生きている必要はないと思っていた。つまり、死刑制度には賛成だった。作品を見終わった今でも、その想いは変わらない。一方で、作品を見ていて、「死刑囚も私たちと一緒なんだ。」という気持ちになった。(10代)
- 以前こちらの会場で作品展を見て感動しました。昔は被害者の感情を考えると死刑もやむを得ないと思っていましたが、エンザイの続発や、国が死を強制する事が果たして許されるのかと思う様になりました。(70代)
- 死刑囚は、生きたいと言って作品を作っているが、殺された人の事を考えていないと感じた。きわめて身勝手だと感じた。死刑制度は、被害者が唯一復しゅう出来る制度であり、ゼッタイになくしてはいけない制度だとあらためて感じた。(30代)
- 死刑囚の方の人権と生きたいという気持ちがとても伝わりました。一方で、こういった文化活動や現在呼吸すらできない被害者の無念も感じました。(40代)
- どの作品も凄い作品ばかりで驚きました。訴える作品が多い中で、ただただ美しい作品も多く才能がある方も沢山いるのに…と複雑な気持ちになった。彼らの恐怖は計り知れないが、今後、死刑制度について考える良い機会になりました。(40代)
- 死刑に関して賛成も反対も考えたことなかったが、今回の作品展をみて、死刑囚の方々の“生”を感じた。「生きて償う」というメッセージに賛同したいと思った。(20代)
- 普段は美術館に行っても、作品に対して興味を持てることがほとんどない。しかし、今回の展示は作品から作者のことについて考えを巡らすことができ、とても意味のある時間を過ごせた。(20代)
『死刑囚表現展2025』のポスター。掲載されている絵画は何力(フーリー)死刑囚(多摩市パチンコ店強盗殺人事件、1992年、東京拘置所)の作品『思郷』
■死刑囚表現展2025
【日時】
12月26日(金)14時~19時
12月27日(土)10時~19時
12月28日(日)10時~17時
※27日は17時~選考委員の五所純子氏によるギャラリートークを開催
【会場】
文京区民センター2階会議室(東京都文京区本郷4-15-14)
【入場料】
無料
【主催】
死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金
【共催】
死刑廃止国際条約の批准を求めるFORUM90

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